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第三王女は見過ごさない  作者: 若草 玻璃
エピソード1

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第6話 何でも屋は帳簿を見る2

初めての方は第1話からどうぞ。

婚約破棄の断罪劇を王女が一言で叩き潰します。

「姫……お嬢さま、遅くなりました」

 ダニエルが店内に足を踏み入れると、ジュイエの横に立つ。

「問題なく、牢に入れてきました」

「ありがとう。じゃあアロンツォの調査結果を聞きましょう」


 王宮に届いた嘆願書は、アビーからのものだけではなかった。主に平民街となっている五区、アビーの住んでいた六区、そして八区から一件ずつ。

 貴族の住まう一区から四区では当然ながらそのような噂は聞かない。

 そこでジュイエはアロンツォに、近頃税の取り立てが過剰になっている地区がないか聞き込みを依頼していた。


「お嬢さまの言った通りでしたよ。五区から八区にかけて数件、徴税員が月に何度も来ている家がありました」

「この帳簿は六区のもののようだけど」

「六区では三件報告がありました。そのうち一件がアビーの家」

 

 アロンツォが帳簿を開き、マリーニの姓の箇所を指し示す。よく見れば、小さく星印がついていた。

 パラパラと頁をめくり、もう二件、同じマークのついた家が確かにあった。

 そしてその二家にはマリーニ家と同じように、税の滞納の記載。

 ジュイエが指先で顎に触れながら考え込んだ。

 

「今、カンタスに照会させてる。ほんとうに納税されてないのか、誰かが横領してるのか」

「横領なら貴族からが鉄板では? 市民からくすねたとして、たかが知れてるでしょう」

 

 ダニエルの真っ当な疑問にジュイエとアロンツォは顔を見合わせた。

 全くもってその通りなのだ。目的が横領ならこんなやり方はすぐに人目につくし、手間のわりに収穫は少ない。ちょっとしたお小遣い稼ぎで帳簿を改ざんしているとしたら、リターンよりリスクの方が何倍も大きいことは明白。


「アビーはこの家、知ってる?」

 ジュイエがアビーに訊ねる。

「ええ、もちろん。コロンボ家もリッチ家も近所です」

「財政状況は分かる?」

「少なくともリッチ家は比較的余裕があるかと……うちと同じように督促されてるなんて、これまででは考えられません」


 四人はしばらく頭を突き合わせていたが、店の中が徐々に暗くなってきていた。

「……今日はここまでね」

 ジュイエが言うと、アロンツォがランプをつける。


「ダニエル、アビーを送ってあげて」

「かしこまりました。お嬢さまはここで待っていてください」

 ダニエルがジュイエの命に従い、アビーを伴って店を出た。


 *


 アビーがダニエルに付き添われ店を出たところで、新聞屋の少年が歩いていた。

「ルカ」

「あ、アビー」

「新聞は売れた?」

 

 ルカが近寄ってきて、いつも新聞を入れているバッグを開いて見せてくれた。

「今日はすごいよ。全部売り切れ。なんてったって、第三王女さまの初めての似姿だったからね」

 新聞はすべてなくなっていた。アビーは落胆を隠せなかった。


「まあ、今日だったの。すっかり忘れてた。欲しかったわ」

「実はまだあるよ。最後の一部だけど」

 ルカが腰に挟んでいた新聞を取り出した。


「はいこれ。あげる」

「いいの?」

「うん。印刷所に原本があるし」

「お代を払うわね」

 

 アビーが財布を取り出そうとすると、その横からスッと腕が伸びた。ダニエルだった。ダニエルが少年に支払いを済ませると、少年は手を振って去っていった。


「……えと、どうして」

「今日、ここまでお付き合いいただきましたので。気になさらずに」

「……ありがとうございます」


 暗がりの中、アビーは店の前のランプの灯りを頼りに新聞を開いた。第三王女さま。一体どんな人なのかしら。


「…………」


 かろうじて、人なのだろうということはわかった。けれど、アビーにはそれ以上の情報はこの似姿からは得られなかった。あまりに独特なタッチで。


「……その。ダニエルさんは、第三王女さまにお会いになったことはありますか?」

「いいえ。私はただの一般兵なので」

 

 ダニエルがまじめ腐った顔で答える。アビーは肩を落としかけて、顔を振った。

 ――まさか、王女さまが助け舟を出してくれるなんて、思いもしなかった。

 まだ何も解決していないけれど、今日の出来事はきっと一生忘れないだろう。

 アビーは新聞を大事に抱え、帰路についたのだった。


*


 なんでも屋に残ったジュイエは帳簿を睨み続けていた。

 

「この三件の共通点は?」

「いくつかあります。六区に住んでいること、十代の娘がいること、この五年以内に引っ越してきた比較的新しい住民だということ」

「……五年以内に引っ越してきた?」

「越してきた理由まではまだ」


 住んでいる場所はおそらく関係がない。標的は平民に絞られている。考えられるのは、引っ越し元のトラブルか。それにしては件数が多い。

 それに、アビーの言ったこと――王都庁がこのことを把握していない、もしくは把握していて野放しにしているとしたら。


「何が起きてるのかしら」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

気に入っていただけましたら、評価・リアクションをいただけますと嬉しいです。


それでは、次話でお会いしましょう!

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