第4話 払った税を、もう一度2
初めての方は第1話からどうぞ。
婚約破棄の断罪劇を王女が一言で叩き潰します。
「やめて! 母さんには手を出さないで!」
少女の悲鳴が路地に響いた。二人は顔を見合わせ、すぐさま声のした方へ走り寄る。声は狭い路地の住宅二階から響いており、周りの住人も何事かと様子を見に外へ出てきていた。
「おばさん。何があったの」
ジュイエは隣の建物の二階から顔を出した女性を見上げて声を掛けた。
「役所の徴税官だよ。おかしいんだ。あの家だけなぜか何度も督促に来ていて。つい先日、母親の薬代を我慢して貯めたお金で支払ったんだよ。それなのに、また来てる」
「……そんなこと、ある? 足りてなかったとか」
「まさか。アビーはしっかりした子だよ。それに、徴収するときはあっちが数えるもんだろう」
「それはそうね」
何事か押し問答の声が聞こえてくる。ダニエルが囁いた。
「……これが、例の嘆願の」
「わからないけど、似たような状況のようだね」
ジュイエは顎に指を当てた。
「それにしても。やけに仕事熱心ね、今日も仕事してるなんて」
「どうします」
「とりあえず、話を聞ける状態に持っていきたいわ」
ダニエルは頷くと、近くを歩いていた子どもにコロッケを渡して問題の部屋へ駆け上がっていった。
ジュイエが自分のコロッケを食べながら待っていると、しばらくしてダニエルが部屋の窓から顔を出した。
「姫……いえ、お嬢さま。こちらへ」
二階へ上がると、この部屋の住人であろう母娘がベッドの上に、二人の男が床で縄に縛られていた。
「お邪魔するわね」
ジュイエは母娘に言って部屋の中に入った。母娘はすっかり呆気に取られている。ジュイエは部屋の中を見回してからダニエルに訊ねた。
「彼の名前は」
「デイブリー・フォックス。ロマーニア財政局徴税課の署員です」
ダニエルが床に座る男の片方――デイブリーの胸ポケットから身分証を出して報告した。ついでに、帳簿をジュイエに渡す。
「ふぅん。本物っぽいわね」
「なんなんだ、あんたたちは! 役人にこんなことして、公務妨害だ!」
ジュイエは取り上げた帳簿を確認する。
「これは第三王女の命による査察よ」
ジュイエの宣言に、その場の全員が目を丸くした。
「だ、第三王女さまの……?」
「そうよ。あなた、お母さまの名前は」
「エレナ・マリーニです」
帳簿からエレナの名前を探す。何頁かめくり、名前を見つけると、先週、前回分の納税を徴収したという記載。しかし、その上から二重線で消されていた。
――杜撰な。これでは正しく納税されたのか、ただの記載ミスで本来は納税がなかったのかが判別つかない。修正には修正者のサインがいるはずだが、それもない。
「な、なぜ第三王女がこんな下町の徴税に口を出すんだ?! おかしいじゃないか!」
「あら。おじさん、王女さまの噂を知らない? 巷では《何にでも首を突っ込む厄介姫》って呼ばれてるの。もし疑うんなら王宮に問い合わせて。それより、どうしてこんな祭日に徴税してるの?」
「それは! た、滞納が続いているから、仕方なくこうして私が仕事をしている! こいつらのせいだ」
ジュイエは母娘を見た。娘が首を振る。
「嘘です! 先週、きちんとお支払いしました!」
ジュイエはデイブリーに向き直って問いただした。
「今日、あなたたちの他に徴税課に出勤してるのは?」
「お、俺たちだけだ」
それを聞くと、ジュイエが窓から路地に向かって話しかける。
「カンタス」
カンタス――と呼ばれた少年がどこからともなく路地に現れた。
「ここに」
「財政局の徴税課に行って、六区の納税記録を調べて」
カンタスは頷いて、そして次の瞬間には消えた。
「この方はどうします」
「……とりあえず、警察に引き渡して。罪状はそうね、恐喝罪にでもして」
「な! なぜだ! いくら王女の命令だとしてもあまりに横暴だ!」
ジュイエはデイブリーを無視して、ダニエルだけに聞こえる大きさでささやいた。
「彼が主導ならそれでいい。でもそうじゃないなら――彼、殺されるかも」
ダニエルもまたカンタスと同じように頷いて、デイブリーと、一緒に捕縛されている男を連行した。
残された母娘と向き直り、ジュイエは娘に訊ねる。
「あなたが嘆願書のアビゲイル・マリーニね」
「は、はい」
「今から一緒に来てもらうわ」
「どこに……?」
不安げな少女にジュイエはにこりと微笑んだ。
「なんでも屋に」




