第3話 払った税を、もう一度1
初めての方は第1話からどうぞ。
婚約破棄の断罪劇を王女が一言で叩き潰します。
首都ロマーニアの王城から、馬車を走らせて一刻。
そこには、独立国家にも等しい財力と自治権を持ち、人々の信仰を一身に集める大神殿があった。
ジュイエは天まで伸びるかのような白亜の大神殿の祭殿にて、成人の儀に臨んでいた。
大神殿の身廊上部には神の生から死までを表現した絵画が描かれている。その下を厳粛な空気で人々に見守られながら進み、祭壇にたどり着くと、ステンドグラスから目映いほどの光に包まれた。
まるでたったひとり、天空に迷い込んでしまったかのように。
両手を組んで膝をついたジュイエの頭に、大司祭カエリアン・ルシウス・アルベリクが祝詞を捧げ、ティアラを載せた。王女は十七になる年にこの式をもって一人前と見做される。
この日、晴れてジュイエは大人の仲間入りを果たした。
「ヴァレリア王国第三王女ジュイエ・アレッサンドラ・ディ・ヴァレリア。神の御名のもと、人々のために励みなさい。神はあなたを見守っています」
カエリアンが立ち上がるように促し、参列者へ向けて手を広げる。
ジュイエが振り返ると、集まった人々から一斉に拍手が沸き起こった。ジュイエは拍手が鳴り止むまで、ただ微笑んで人々を見ていたのだった。
*
「号外! 号外だよ! 第三王女さまの初お目見えだ!」
城下町では昨日の第三王女の成人の儀に合わせて祭りが行われていた。新聞屋の少年が配っていた号外を買ったダニエルが戻ってくる。
ジュイエは新聞を見て目を剥いた。
「な、なんじゃこりゃ?」
おかしな反応をするジュイエの手元をダニエルが覗き込んだ。
「……実によく描けた似姿です」
「どこが!?」
昨日の成人の儀で、ジュイエは貴族以外の市民たちに初めて顔見せをした。翌日発売の市民新聞にはさぞよく描けた似姿が載るだろうと期待していたのに。
その似姿は目も口もあまりに誇張された、ともすれば化け物のようだった。
「ぜ、全然似てない!」
「特徴は捉えているのでは」
「文句言いにいってやる! どこの新聞屋?!」
「まあまあ。王宮の絵師が描いた似姿が、明日には王都新聞に載りますから」
ここは城下町でもっとも賑わうロマニア広場。階段下の噴水の淵で二人は立ち止まっていた。
ジュイエは町娘――にしては少し贅沢に生地を使った――のドレス、ダニエルは近衛の制服ではなく、一般兵の制服を着ている。
「今日はそんなことをしている場合ではないでしょう」
ダニエルに促され、ジュイエは子どもたちが風船やお菓子を手に走り回る広場を抜けた。
商店が立ち並ぶ通りを下り、目的地へと足を進める。
白茶の壁にオレンジ屋根の家々が、広場の中心から東西南北に放射線状に続く。その中を北から吹く秋の風が吹き抜けた。
「……しかし、地方都市ならまだしも、本当にこの王族の直轄地区であのようなことが行われているのでしょうか」
ダニエルがほとんど信じていない口調でジュイエに言った。ジュイエは歩きながらふたつに編んだ長い髪の束を弄る。
「考えたくないわね。でも、同じような嘆願書がいくつも来たら、無視はできない」
「姫さまが直接見に行く必要はないですが」
ダニエルの小言は無視した。誕生祭の準備、練習、本番でここのところ毎日王宮に篭りきりだったのだ。
せっかくのお祭り。羽を伸ばして遊んで、ついでに調査もしようと城下に出てきた。
この祝祭で、役所もおそらく休暇を取っているはず。邪魔をされずに調査するには絶好の機会だ。
「あ、ねえ! ライスコロッケ」
「はいはい」
毒味用と合わせてダニエルがふたつコロッケを買う。ホクホクでアツアツの、トマトソース味のコロッケをジュイエが頬張ろうとしたそのときだった。
「やめて! 母さんには手を出さないで!」




