第2話 第三王女の誕生パーティー2
「つまり、このヴィオレッタ……ベルナール嬢は、ロッシ嬢に屈辱的な嫌がらせを繰り返していたのです」
「そんな! わたくしは何もしていません」
発言したヴィオレッタにジュイエは黙って視線を向けた。ヴィオレッタは俯き、謝罪する。
「お許しもなく発言したこと、謝罪いたします。殿下」
「あなたがベルナール嬢だね。発言を許可する」
「感謝します」
ヴィオレッタは手を組み、無実を王女の前に訴えた。
「わたくしは、ロッシ嬢の持ち物に触れたり、食事を邪魔したり、まして危害を加えようなどと考えたことはございません」
ジュイエはヴィオレッタの目を見た。ジュイエには、ヴィオレッタの潤んだ瞳は無垢に見えた。
そのまま、ジュイエは視線をレオナルドへ向けた。
「いいでしょう。それでは、レオナルド。もう一度聞く。ベルナール嬢がロッシ嬢へ行った嫌がらせについて、証拠はあるのか?」
「はい。まずは、学用品が汚されたときにそばに落ちていたハンカチ」
「以前、わたくしはハンカチを一枚紛失しています。それは今も戻ってきておりません」
「次に、食堂での高位貴族たちによる邪魔」
「身に覚えがありません」
「最後に、校内での階段からの突き落とし」
「そちらについても、同じく」
静まった広間が再び人々の囁きで騒々しくなっていく。ジュイエは表情を崩さないまま、レオナルドに詰問する。
「その被害をレオナルドに申告したのは、ロッシ嬢なんだね」
「はい、殿下。彼女だけではなく、彼女の友人であるモンロー嬢も証人です」
「ハンカチと、ロッシ嬢と、ロッシ嬢の友人の証言。それだけでベルナール嬢の仕業だと断定したのか?――それが本当に、証拠だと?」
「え?」
「事実確認もしていない?」
「……あ」
今度はレオナルドが青くなる番だった。片方の証言と、曖昧な物証。それだけが証拠と言われても、ジュイエには――いや、誰にも――それが真実だとは言えない。
「に、ニーナが嘘をつくはずがありません」
「なぜ」
「こ、こんなに優しく、心の綺麗な人は他にいません」
「――そう。ベルナール嬢はやってないと言ってる。ロッシ嬢は被害を受けたと言っている。双方の意見が食い違うなら、あとはあなたの心象如何ということか?」
レオナルドは隣のニーナを見る。ニーナが何か言おうとしたので、ジュイエは左手で制した。
「あなたには発言を許可していない。レオナルドが答えなさい。あなたの心象で、子爵令嬢を公衆の面前で侮辱しようとしたのか」
「ど、動機があります! ヴィオレッタはニーナと私が仲を深めているのを気にしていた!」
呆れ果ててものも言えない。ジュイエは思わず顔を歪めそうになり、視線を遠く空中に彷徨わせた。
「姫さま」
ダニエルが耳元でそっと嗜める。
わかっている。あれに何を言っても無駄だ。
「……では結論から言おう。本当にいじめがあったとする。それで、得をするのは誰?」
「と、得……?」
「そう。公爵家の嫡男と仲を深めて、婚約者である子爵令嬢との仲を引き裂いて得をする人物」
初めてレオナルドが目の色を変えた。彼の腕に縋り付いたニーナを見て、冷静なヴィオレッタを見て、そしてジュイエを見上げて、小さく呟く。
「――損得なんて」
「答えなさいレオナルド。あなたの頭で考えて。あなたが本当に信用するのは誰? 優しいとか心が綺麗とか、そんな表面的なこと言ってないで、現実を見て。さあ、この茶番が予定通り進めば、最も得をするのは誰?」
レオナルドが俯いた。思ったより察しが悪くなくて助かった、とジュイエは心から思った。
これ以上、ジュイエがレオナルドに説教する必要はなかった。彼の父親が、ジュイエの前に躍り出たからだ。
「さて。いくら従兄といえ、王女である私の誕生パーティーでこんなヘソで茶が沸くイベントをしてくれたんだから、覚悟はできてるね? 公爵さま」
「……第三王女殿下にご挨拶申し上げます。愚かな息子で本当に恥ずかしい。申し開きようもございません」
「彼に三日間の謹慎を。もしまだ何か言い足りないことがあるなら、外部調査機関でも設置して徹底的に調べることをお勧めするよ」
「検討します」
レオナルドは父親に連れられて大広間を後にした。すっかり裁判所と成り果てたこの華やかな広間に、再び聖杖が床をつく音が響いた。
「さあ、皆さま。茶番はこれでおしまいです。引き続き、パーティーを楽しんで」
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それでは、次話でお会いしましょう!




