第1話 第三王女の誕生パーティー1
「ヴィオレッタ・ベルナール! おまえとの婚約を今ここで破棄する!」
ヴァレリア王国モンテヴェルデ公爵家の嫡男・レオナルドが、大広間の中央、一段高く設けられた王族席に座る第三王女の前で高らかに宣言した。
指名された子爵令嬢ヴィオレッタ・ベルナールは真っ青な顔をしてレオナルドを見ている。
「レオナルドさま」
「気安く呼ぶな。もうおまえは私の婚約者ではない。ニーナへの残虐な蔑み、暴行、もう我慢ならぬ」
レオナルドが隣に立つ男爵令嬢ニーナ・ロッシの肩をそっと引き寄せた。
「ニーナはずっと我慢していたのだ。おまえの悪行に耐え、私にも相談できず、一人で泣いていた。やっと本当のことを話してくれたのだ」
「蔑み? 暴行? 何のお話をされているのですか? わたくし、ロッシ嬢とはお話ししたこともありませんわ。やってもいないことをなぜわたくしのせいだとおっしゃるのです」
ヴィオレッタは健気に、けれど負けじと反論した。輝く銀の髪に紫の瞳の、美貌の令嬢だった。その令嬢を、レオナルドは汚いものでも見るように睨みつけた。
「なにを言ってる? ニーナの学用品が泥で汚されていたところに、おまえの家の紋章の入ったハンカチが落ちていた。ニーナが食堂で昼食を食べようとしたときに、高位貴族たちが邪魔をしたのもおまえの指示だった。おまけに、先日は階段でニーナを突き落とそうとしたそうではないか!」
「そんな……どれも身に覚えのないことばかりですわ」
「しらばっくれるな! すべてニーナの友人、リディア・モンロー嬢が見ていたそうだぞ。彼女が証人だ!」
*
王族席に一人座るのは、本日の主役である第三王女――ジュイエ・アレッサンドラ・ディ・ヴァレリア。
ジュイエは肘掛に肘をつき、指先で顎をなぞりながら目の前で繰り広げられる一幕を眺めていた。小さくため息をつき、隣に立つ近衛騎士、ダニエルを手招く。
「あいつは馬鹿か?」
「どうやらそのようで。止めますか?」
ダニエルが腰の剣に手をやる。色素の薄いベージュの髪をしっかりと撫でつけ、美しい額と通った鼻筋、そしてティレニアの海のようなブルーの瞳をさらしている。
ジュイエは首を振った。レオナルドとヴィオレッタの背後には、騒ぎを聞きつけた両家の当主まで姿を見せている。
「……仮にも私の従兄殿だからなぁ。久しぶりに顔を見たと思ったらこれだ」
「昔から少し考えの足りない方でしたね」
「令嬢がかわいそうだ。私がおさめよう。……従兄殿にはお灸を据えてやらねばな」
レオナルドはひとり息子で、両親に溺愛されて王族以上に贅沢に育てられている。これまで面と向かって叱られたことなどないだろう。わがまま放題なのは親戚の間でも有名だった。
ジュイエは手にした聖杖を床に思いきり打ち付けた。
喧騒の大広間が一瞬で静まり返る。人々の視線が、一斉に壇上へと向けられた。
金の髪に、光を集める淡いブルーの瞳をしたジュイエは、ゆっくりと立ち上がった。全員の視線が集まるのを待って、口を開く。
「久しぶりだね、レオナルド」
名指しされたレオナルドは膝をついて、王族への敬意を表した。
「第三王女殿下。ご無沙汰しております。御前でお騒がせをしましたこと、お詫び申し上げます」
「面白い話をしているようだったから、私にも聞かせて。知っての通り、王族は学園に通うことが許されないからね」
「は。殿下にお聞かせするには決して心地のいい話ではございませんが……ぜひ殿下にも、どちらに義があるか、お聞きいただきたく」
広間がざわめき始める。ヴィオレッタは父親に寄り添われ、一層表情をなくしていた。
レオナルドは隣に立ち尽くしていたニーナを紹介し、先ほどと同じ主張を繰り返した。
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それでは、次話でお会いしましょう!




