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第三王女は見過ごさない  作者: 若草 玻璃
エピソード1

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第14話 星印の意味2

初めての方は第1話からどうぞ。

婚約破棄の断罪劇を王女が一言で叩き潰します。

「そうだね。あなたは私が本物かどうか、見分ける術を持たない。では、証拠を見せよう」


 王女はそう言って、左手の手袋を取った。ぐっと拳を握ると、王女の肩から指先にかけて、光の紋様が浮かび上がった。ドレスに隠れていても、その光は透けて見える。


 ヴァレリア王国の王族は、元来強い魔力を持つ。しかし、今はその力を使うことを禁じられている。

 この紋様は、魔力を封じるために施された刻印であった。


「ヴァレリアの民なら、この紋様の意味が分かるね?」


 王女はそう言って、拳を開いた。光は収束し、そして消えた。ルチアーノは、初めて見たそれを、もはや偽物とは言えなかった。


 肩を落とすルチアーノに、アロンツォは続けた。

 

「……フォックス徴税官はあなたの指示に従っていた。督促と偽って星の印のついた家を探る。星の印の家には、何かがある。あなたと、あ(・)な(・)た(・)の(・)親(・)し(・)く(・)し(・)て(・)い(・)る(・)人(・)の目的が。彼はそれを知っていたから殺されたのでは?」

「私は……何も知らない」

「じゃあ聞いてみましょう。ベルナール子爵に。次に殺されるのはあなたでしょうが、ね」


 室内に重たい沈黙が落ちた。

 ヴィクトルもルチアーノを見ている。査問室にいるすべての人間の視線が、ルチアーノに集まった。

 

 ほどなくして、王女が音もなく立ち上がった。日が落ちた暗い部屋で、いつの間にか蝋燭に火が灯されていた。王女の金髪が明かりに照らされ、暖色に輝く。

 先ほど、子どものようだと思った容貌(かお)がぞくりとするほど冷ややかに見えて、ルチアーノは反駁するのをわずかに躊躇った。

 王女は低い声で言った。

 

「答えなさい、ルチアーノ・コルヴィ。星の印が何を示すのか。答えるなら、私はあなたを殺させない」


 *



 王宮。ジュイエは自室で寝巻のままベッドに寝かせられていた。医者から安静を言い渡され、先ほど苦い薬を飲んだばかりだ。

 ジュイエは昔から、父と会うと熱を出す。

 成人しても治らない癖に、ジュイエは辟易した。腐っても家族であるはずなのに。ジュイエにとって血縁とは最も遠く、そして深く繋がった存在だった。

 

 査問室の詰問から一夜が明けていた。

 

 目を瞑っていると、窓を軽く叩く音がした。

 テラスに、黄色の花が置いてある。――きっとカンタスだろう。起き上がって取ろうとしたそのとき。


「寝ていてください」


 ダニエルが室内に入ってきた。ダニエルは手にしたティーセットをテーブルに置き、ジュイエの額に手を当てた。

 ダニエルの手はひんやりとして気持ちがいい。手を冷やしてきたのだろうか。それとも、外はそれだけ冷えているのだろうか。


「花が」

「花?」


 ジュイエが指し示したテラスを見ると、ダニエルは代わりに花を取って戻ってきた。黄色の薔薇だった。園庭では遅咲きの秋薔薇が見ごろを迎えている。

「久しぶりに、庭を散歩でもしようかしら」

「熱が下がったら、そうしましょう」


 起き上がって座ったジュイエに甲斐甲斐しくブランケットを掛け、ダニエルはお茶を入れた。ジュイエにカップを渡すと、自身はベッドの縁に座った。


「……少女たちを集めていた理由は、結局分からずじまいなの?」

「ええ。尋問しましたが、ルチアーノ・コルヴィはおそらく本当に何も知らないでしょうね。子爵に言われた特徴の娘を探し、拉致しただけ。家族が警察に失踪届を出しても、子爵からの圧力で捜査されないようになっていました」

「額に星のあざを持つ、十代の少女」

「まあ、攫われた少女たちの額にあったのはせいぜいほくろぐらいでしたから。該当者がいたとは思えませんが」


 ジュイエは指先を顎に当てて考え込んだ。

 ダニエルは、俯くジュイエのほつれて顔に張り付く髪を指でよけ、乱れた前髪を整えた。

 ジュイエが体調を崩すと、いつもダニエルが世話を焼いてくれる。ダニエルは血の繋がる誰よりも、ずっと近しい存在である。


「やっぱり、あなたのそばを離れるべきではなかった」


 後悔を滲ませたダニエルの口調に、ジュイエは少し傷付く。ジュイエがもっと強ければ、ダニエルにこんなふうに思わせないのに。


「俺がいれば、近衛の応援なら団長を通して国王に報告できました。あなたが無理をする必要はなかった」

「無理はしてない。必要なことをしただけ。ダニエルは私の命令を聞いてくれた。感謝してる」

「感謝など」

 ダニエルが首を振る。ジュイエはダニエルの制服の袖を摘んだ。


「これからも、たぶん私はダニエルに、ダニエルの意志を曲げさせる命令をするわ。でも、そばにいて」

「何度も言ったでしょう。俺はあなたの騎士です。あなたのそばを、離れません」


 ダニエルはジュイエを横たわらせると、首元までブランケットをかけた。その上から、とんとんと、手を叩く。


「そういえば。レオナルドさまの婚約破棄未遂の件ですが」

「ああ……あれね」

「ニーナ嬢への嫌がらせは本当だったそうですよ。玉の輿を狙っていたニーナ嬢は学園で一番身分の高いレオナルドさまを手に入れるために、嫌がらせをヴィオレッタ嬢の仕業に仕立て上げた、というのが真相だそうです。姫さまのパーティーであまりにおおごとになったため、嫌がらせをした本人が名乗り出たようで」

「それはよかった。それにしても、転んでもただじゃ起きない強いご令嬢だなぁ、ニーナ嬢」

「まったくですね」


 これで、ヴィオレッタ嬢への疑惑はすっかりと晴れたわけだ。

 とはいえ。ヴィオレッタ嬢はこの先、厳しい境遇に置かれるだろう。彼女の父親の悪事を、ジュイエは暴かないわけにはいかない。

 星のあざを持つ少女。なぜ、ベルナール子爵はそんな少女を探してる? その少女に、一体何があるというのか。

 ジュイエはぼんやりする頭で銀の髪の令嬢を思い浮かべて目を閉じた。

 ダニエルが額を撫でる。


「ゆっくりおやすみください。姫さま」


 体を横たえると、ジュイエはすぐに微睡の底へ沈んでいった。

エピソード1、最後までお読みいただきありがとうございました!


ジュイエたちが追った二重徴税事件。その先に残された謎は、次の事件へとつながっていきます。

エピソード2は、10月22日(木)より更新開始予定です。続きもお付き合いいただけたら嬉しいです。


面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークやリアクションをいただけると、執筆の大きな励みになります。

これからも『第三王女は見過ごさない』をよろしくお願いいたします!

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