第13話 星印の意味1
初めての方は第1話からどうぞ。
婚約破棄の断罪劇を王女が一言で叩き潰します。
本日午後、近衛騎士団によって王都庁舎地下から三名の少女が保護された。
首謀者と見られる財政局局長以下二名、実行犯と見られる男五名が拘束、元老院に送致された。
夕刻。査問室の前でグレゴリオは苛立ちを素直にアロンツォにぶちまけていた。
「明日の朝っつったでしょ……?」
「いやぁすいません、ほんと。なんか急にやる気出しちまいましてね、王女の騎士さまが」
午後の予定が全部狂ったグレゴリオが頭を抱える。アロンツォも苦笑した。謝る他ない。
「できるだけ早く終わらせますから」
元老院宮殿、査問室に通されたのは、財政局局長ルチアーノ・コルヴィと徴税課部長ヴィクトル・グラッシである。後ろ手を拘束され、近衛の騎士が入り口を塞いでいる。
正面には元老院内務次官グレゴリオが立ち、その隣で、アロンツォが一枚の書類を広げた。
「お二人とも。ここに呼ばれた理由はお分かりですね」
ルチアーノとヴィクトルはそれぞれに顔面から色をなくし、忙しない様子でグレゴリオとアロンツォを見上げている。
アロンツォはそんな二人を見下ろし、紙面へと視線を移した。
「では、まずは罪状確認から。王都五区から八区にかけて、徴税記録を改竄。納税済みの王都民に対する二重徴税の疑い。住民台帳の不正利用の疑い。金銭で雇った実行役による一般市民の拉致監禁、及び民家への不法侵入。王都庁舎内の施設を監禁場所として不正利用。そして――デイブリー・フォックスの殺人容疑。以上が、今お二人にかけられている嫌疑です」
「な、なんのことだ? 言っていることがさっぱりわからん」
「さっぱりってことはないでしょ」
アロンツォは中央の納税記録と徴税課の帳簿を取り出して二人の前に投げた。
「色々調べさせてもらいましたよ。フォックス徴税官の持っていた帳簿と、徴税課で保管している納税記録の不一致。少女の拉致監禁実行犯の自白」
「すべてデイブリー・フォックスが勝手にやったことだろう。俺は何も知らん」
「何を今さら。すっとぼけたところで、罪状が簡単に覆ることはありません。あーあ、フォックス徴税官が生きていればもう少し時間が稼げたでしょうに」
アロンツォは自分で投げた帳簿を拾いに、二人の前に出た。しゃがんで、指先で帳簿を摘まみ上げる。
証拠はいくつか揃っている。それだけでもこの二人は引っ張れる。けれど、解けていない謎がいくつかある。
「ねえ、コルヴィ局長。この星印……なんだかわかります?」
アロンツォがルチアーノの眼前に帳簿を突きつけ、アビーの母の名の箇所に付けられた印を指し示す。
「二重徴税は、ついでだった? それとも隠れ蓑? こっちが本命だったわけだ」
「だから、なんの話だと言っている! 俺は何も知らないんだ!」
「そうそう、さっき言いそびれましたが。コルヴィ局長の周辺もざっと洗っています。あなたが最近、誰と親しくしているのか、とかね」
ルチアーノが息を止めた。何を怯えているのか、脂肪をたっぷり蓄えた額に汗が滲み始めた。
「……おまえ、何者だ? おまえこそ、誰の指示で動いてる」
ルチアーノの質問にアロンツォはふと口元を歪めた。
「ここは王都ですよ? なぜ気付かれないと思ったのです」
「俺は誰の指示だと聞いたんだ! なぜこんなに早く近衛が動く? 警察は動かないはずだ。一体どうなっている!!」
半狂乱状態になってルチアーノが叫んだ。ヴィクトルは怯えた顔でルチアーノとアロンツォを見比べている。
「それは、あなたに先に色々吐いてもらわないと答えたくない質問ですが……。まあいいでしょう。殿下」
グレゴリオの後ろ、扉が大きな音を立てて開いた。背の高い近衛の兵士の後に続いて査問室へ入ってきたのは、まだまだ子どもと呼べそうな金の髪の少女である。
だが、ルチアーノはその顔に見覚えがあった。昨日発行された王都新聞の一面に描かれていた肖像が、街でも職場でもおおいに話題になっていたからだ。
「だ……第三王女殿下……」
「控えよ。王女殿下の御前であるぞ」
少女――第三王女と同時に入室してきた騎士が重々しく言う。入り口を固めていた近衛の騎士がやって来て、ルチアーノとヴィクトルの頭を床に擦り付ける。
王女はそのまま、査問室前方中央の椅子に座った。この場で最も上位の立場であるはずのグレゴリオが立っていた理由もこれで分かった。彼よりも上位の立場の人間が、他にいたからだ。
王女は座ったまま、優雅に足を組んだ。
「デイブリー・フォックスには伝えたはずだ。これは第三王女の命による調査だ、と」
王女の言葉に、ルチアーノは小声で何かを言った。
「まさか、本当に王女が出てくるとは……」
「聞いていたんですね、フォックス徴税官から。それを本気にしなかったわけだ、あなたは」
アロンツォがそう言うと、ルチアーノは一瞬口を噤み、そして声を大きくする。
「し、知らない! フォックスとは会ってもいない!」
「残念ながら、あなたが一昨日、警察署でフォックス徴税官に面会をしていることは調べがついている。近衛ってのは、警察よりも権限が強くてね」
「……!!」
「あなたが食事に毒を混ぜるよう仕組んだんですね」
「ちが……!! 違う、私は何もしていない! そ、それに……それにこんなところに、王族が出てくるはずがないだろう! そっちこそ、王女の名を騙る偽物じゃないのか!!」
ルチアーノが床に這いつくばりながら叫ぶ。すると、王女の隣にいた近衛が腰の剣に手をやった。
王女はそれを手で制した。
「そうだね。あなたは私が本物かどうか、見分ける術を持たない。では、証拠を見せよう」




