↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三王女は見過ごさない  作者: 若草 玻璃
エピソード1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/26

第12話 正面突破2

初めての方は第1話からどうぞ。

婚約破棄の断罪劇を王女が一言で叩き潰します。

 ダニエルとカンタスは二人で王都庁舎の最奥部、雑草が密集する裏庭にある地下へと続く階段前にいた。


「僕たちが到着する頃には、アビゲイルさまの自宅は荒らされていて、体調を崩されていた母親は隣の奥さまの家に匿われていました」

「なぜここだと」

「鴉に同時に複数個所を探させました。とはいえ、話の流れ、捕まえた人を確保しておくスペースを考えれば、ここしかありません」


 古い建造物ほど価値を持つこの国では、宮殿や主要施設のほとんどが数百年前に建てられた建造物を利用している。

 六百年ほど前に建てられた歴史あるこの庁舎は、元々要塞であった。地上部分は改築し、近代仕様になっているが、地下はそのままになっていた。

 

 ダニエルとカンタスは煉瓦造りの地下廊下を覗き見た。入り口すぐの通路は風がなく、湿度を感じる。黴臭さが鼻をついた。


「ベルティーニ卿の恰好だと目立ちます。僕が居場所を突き止めますので、外で待機を」

「わかった。気を付けて」


 カンタスが中に入ってしばらく。

 背後で幽かな草のこすれ合う音がして、ダニエルは剣を鞘ごと引き抜いた。右肩上方へ振り上げれば、鞘に衝撃が走る。受け止めたのは、ひと目で鈍(なまく)らと分かる、手入れのされていない剣だった。

 相手はガードされると思っていなかったらしく、打突のあとの動きに迷いがあった。ダニエルは立ち上がり、振り向きざま相手の鳩尾に膝蹴りをいれた。

 

「ぐっ……!」

 

 男は地面に両手をついた。ダニエルは剣を握っている男の手を足で強く踏み付ける。

 

「いだだだだ!!」

「実力差を測れないのか。とんだ実力だな。あんた、何者だ?」

「近衛が、なぜこんなところにいる?」

「俺の質問に答えろ。自分が質問できる立場だと思ってるのか?」

 

 踵で手の甲をグリグリと踏みつければ、男はさらに叫び声を上げた。

「ふ、ふざっけんなよ……」

 ダニエルは足を上げ、手を離れた男の剣を蹴り飛ばした。顔を上げた男の首筋に、ダニエルは迷わずに剣を突き付ける。

 

「誰の命令だ? あんたは何者だ」

「簡単に話すわけないだろ」

「吐かなければどうなるかわかるか? 殺しはしない。痛めつけて話したくなるようにしてやるだけだから、安心しろ」

「近衛のくせにガラ悪いな?!」

 

 ダニエルは短く嘲笑した。

「何を期待してるか知らないが、近衛だろうが警備兵だろうがやることはほとんど変わらない。飾られてるか、そうでないかの違いだけ。こんなもんだろ」

 

 スラリと、よく研がれた銀の剣先が男の首を辿った。男の鈍らとは違い、切り口は美しい断面となるだろう。

 ダニエルの冷めた瞳を見つめて、男はゴクリと喉を鳴らした。

 

「……雇われたんだ」

「誰に」

「コルヴィ局長。財政局の」

「内容は」

「指定された女を攫って、ここに閉じ込めろと」

「仲間は」

「俺の他にあと四人いる」


 ダニエルはそれだけ聞くと、剣を引いて男の首筋に手刀を入れた。

 

 *

 

「ベルティーニ卿、アビゲイルさまを発見しました……どうされました?」

 カンタスが戻ってくると、ダニエルは足元に横たわる黒づくめの男をブーツで蹴り転がしていた。

 

「襲われた。三流だが、実行役を雇ってる」

「やはり。捕まっていたのは、アビゲイルさまだけではありませんでした。他に少女が二名、同じ牢に入れられています」


 ダニエルは顎に指先を当てた。カンタスは知っていた。それが第三王女と同じ癖であるということを。


「カンタス。近衛の応援が来たら、俺は表から入る」

「表から?」

「通報があったと言って近衛の権限で検める。カンタスは裏から逃さないように見張っていてくれ」

「わかりました」

「見張りは?」

「牢には二名ついています。建物内から入る道に何名いるかまでは、まだ」


 念のため、男は縛って中庭の端に転がしておき、ダニエルは近衛の応援を待つため庁舎の外へ出た。

 カンタスは他の実行役に見つからないように隠れて裏口を見張ることにして、二人は別れた。


 *


 それからいっとき。庁舎の柱に身を隠しながら待っていたダニエルは、同じ制服を着た男たちが馬に乗ってやってくるのを見て飛び出した。


「マルセル」


 五人の同僚が一斉に馬を飛び降りると、庁舎の前の広場がにわかに騒ついた。

 近衛の青い制服がそれだけいれば、いやでも目立つ。


「姫さまは」


 ダニエルが開口一番そう訊ねると、マルセルは肩をすくめた。

 

「さすがに連れてくるわけにはいかないだろう。なんとか説得して置いてきた」

「……俺の説得には絶対譲らないのに」

「おい、俺たちに任せて帰るとか言うなよ。事態はざっと聞いたが、作戦はおまえの指示に従うことになってる」

「では、作戦を伝える」


 ダニエルは頷くと庁舎を振り仰いだ。


「正面突破だ。口実は市民からの匿名通報。女性が数名、庁舎地下にある牢に捕えられている。これは一刻を争う人命救助のための作戦だ。我々の目的は、女性たちの保護と、首謀者と目される財政局コルヴィ局長、あるいはそれに準ずる権限を保持する者の捕縛」

「はっ?」

「ここで全部片を付ける。ニコライとロベルトは裏庭に回り、鴉と合流。鴉には元老院宮殿で待てと姫さまに報告させろ」

「へえ?!」

「行くぞ!」

「聞いてた話と違うけど!?」

 

 走り出したダニエルに、応援に来た五人はとにかくついて行くしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。