↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/15

昼休みの交渉、もう一人の中の人


そして昼休み、俺は一人指定された階段へ行く。屋上へと続く階段は、校舎の中央、俺のクラスの隣の階段から続いている。

三階からさらに上、屋上まで続く階段をのぼっていくと、屋上の扉の前で既に彼女たちは待っていた。


南さんの他に、三、四人、落ち着かない様子の女子がその場に立っている。

約束通り来た俺に、彼女達は不安と期待が入り混じった顔をむける。


「ごめん、来てくれてありがとう」

「ええよ別に。それで、呼び出した理由は?」

「私達、水野にお願いがあるの!」


南さんの一言に、その場にいた女子たちの目がすべて俺に向く。期待のこもった瞳に、わかってはいたけれど一歩後ずさる。


「私達を黒川くんに紹介してほしいの!」

「無理!」


予想通りのお願いに、俺は思い切り首を振る。

即答の俺に、彼女達が不満そうな顔をする。


「俺は黒川くんとそこまで仲良くはない!」


あくまでゲームの話しかできひん!

そう胸を張る俺に、しかし彼女達はあっさりと「知ってる」と肯定する。 


「そこは大丈夫」

「普通に黒川とは喋るし」

「何だったらLINE知ってるし、グループでLINEしてるし」


ねえ、と頷き合う彼女達に、俺のほうが驚きで口を開けてしまう。

俺より断然好感度高くありません?

それゲームで言ったら何個かイベント済ませたくらいの好感度やで?なんて考える俺に、南さんが真のお願いについて説明する。


「ゲーム内で、私達を黒川くんに紹介してほしいの」


ゲーム、と呟く俺に、周りの女子達も追随する。


「ゲームも始めたの!」

「だから黒川くんとゲーム内でフレンドになりたいの!」


お願い!と口を揃えて俺を見る彼女達に、ようやく俺は呼び出された理由に納得する。

つまりゲーム内で、俺を通して黒川くんに近づきたいわけか。

一晩でアカウント作った彼女達の、恋心からの行動力に感心する。

だが。


「それなら黒川くん、直接言ったらフレンドになってくれるんちゃうん?」


俺の予想に反し、彼女達は暗い顔になる。


「LINEで伝えてみたけど、『そう』のひと言だけ」

「こっちのアカウントに興味なし」


悲しそうにそう呟く子に、俺も黒川くんの意外な対応になんでだろうと首を傾げる。


「レベル低すぎて同じクエスト無理だからって」

「ああー……。彼、古参組やしレベル高いからなあ」


あのやり込み厨。

彼が断る理由に納得する。そもそも彼のレベルだと、彼女達が参加する初級クエストを選択できない可能性すらある。

逆に黒川くんのクエストに参加しようと思ったら、まずそれ相応のレベルが必要になる。


「黒川くんと同じクエストに出るには、レベルってどれくらい必要なの」


それでも努力の姿勢を見せる彼女達に、俺はこれを伝えることを申し訳ない気持ちになる。


「とりあえず三桁は欲しいなあ……」

「三桁って」

「100台。数カ月はかかるやろうなあ」


数カ月……と言葉を無くす彼女達に俺も暗い気持ちになる。


「でもっ、交流なら低レベルでもできるんじゃ……」

「彼、交流メイン層ではないんやないかな……」


俺の分析は皆も考えていたようで、また重い空気がその場に流れる。

ゲームを通じて黒川くんと仲良くなるまでの道のりは長いようだ。


「水野のレベルはいくつなの?」


南さんに聞かれ、俺はどきりとする。

モモ自体はレベル三桁だ。何だったら黒川くんより上だったりする。

だけどこの場でモモの話は出せない。どうしよう、と悩む俺の後ろから、誰かが階段を上がってくる足音が聞こえる。


「水野」


俺を呼ぶ低い声に、南さんたちが反応する。


「黒川くん!」

「なんでこんなとこにいんの。スキルの話するって言ったじゃん」


あれ約束やったんかい。無表情の割に拗ねた声で黒川くんが俺に言う。


「早く」


そう言って南さん達を見ることもなく、黒川くんは階段を降りていく。

頭の中はゲームのことでいっぱいなのだろう。教室に戻ろうとする黒川くんに、俺は隣にいる南さん達を見る。

じっと黒川くんの背中を見つめるだけで、誰も声をかけようとはしなかった。

遠慮を見せるその姿に、俺は我慢できなくなって思わず黒川くんに声をかける。


「黒川くん!」


黒川くんが足を止めて、俺たちを振り返る。


「南さん達もアストラル・ゲート・オンライン始めたんやって!プレイ人口増えるのうれしいなあ」


そう言った俺に、黒川くんが片眉を上げる。南さん達から戸惑った声が漏れる。


「南さん達、これからレベル上げ頑張るんやって!もしかしたらあっという間に黒川くんのレベルに並ぶかもな」


な、っと南さんをみたら、南さんがおずおずと頷く。


「そしたら皆でクエストしたいな。人数が多いほうが進めるの楽になるし。皆で装備話し合って、現実で作戦立てられたら絶対楽しいやん」


なあ、と黒川くんに振ると、黒川くんが南さんたちを見上げる。黒川くんの視線を受けた南さんたちがたじろぐ。


「……南達、そこまでレベル上げするつもりなの?」


声をかけられ南さん達が驚いた顔になる。

じっと見つめる黒川くんに戸惑いながら、それでも彼女達は力強く頷く。


「うんっ、私もレベル上げ頑張る!」

「ゲーム面白そうだし、ちゃんと進めるよ!」

「だから、レベル上げたら、一緒にプレイしてくれる?」


不安そうに口々にそう言う彼女たちに、黒川くんの無表情が反応する。

ふっと柔らかくなった雰囲気に、俺たちは全員息を呑む。

黒川くんが、目元を緩めて彼女達に笑いかける。


「待ってる」


イケメンの微笑みの威力はえらいもんやった。

顔を赤くして言葉を無くした彼女達を放置し、黒川くんは俺に視線を向けるとさっさと来いと促す。

俺も余韻で足が動かなかったが、黒川くんに促されどうにか足を動かす。


「じゃ、頑張ってな」


俺は早足で階段を降りて黒川くんに並ぶ。

それでスキルのことだけど、と話しだした黒川くんに、俺は一つ疑問が浮かぶ。

俺、自分のレベル明かしてない。

なのに何で黒川くんは俺は相手にするんだろ。


「なに?」

「うんっ!?いや、なんで黒川くんは俺は誘ってくれるのかと思って」


俺、モモってことも、レベルも何も明かしてないのに。

改めて考えると、秘密にしている情報が多すぎる。

しかしそんな俺の悩みなど、彼にとっては些末なことだったらしく、黒川くんが呆れ顔でため息をつく。


「水野、レベル三桁はいってるだろ」

「なんで知ってっ!?」

「武器レベルマにしようと思ったら、高難易度クエの素材必要になるだろ」


しかも複数個、と言われて合点がいく。

高難易度クエに参加するには一定以上のレベルがいる。そして俺は朝、武器のレベルマを達成したと宣言した。

つまり、自分はそれなりにやりこみ勢ですと宣言したわけだ。


「なるほどー」

「水野のレベルだと、だいたい俺と同じクエスト難易度だろ」


むしろ上の可能性もある、とまで看破されてしまった。そう言われて、俺は「当たり」と心のなかでかえす。

黒川くんは俺が思うよりずっと推理力が高い。


「だからアバター名教えてほしいんだけど」

「それはちょっと勘弁してほしいっちゅーか」


恥ずかしいやん、と誤魔化す俺に黒川くんは分かりやすくむっとした顔になる。

だが黒川くんはそれ以上追及することなく、機嫌を直して喋り続ける。朝より少し早口で、口角の上がった顔に俺はピンとくる。


「……もしかして機嫌いい?」

「なにが」

「黒川くん。今日めっちゃ機嫌いいな」


不思議そうな顔をする黒川くんに、笑顔やもん、と俺は自分の口元を指す。

にこにこさんやな、と付け加えると、黒川くんの頬が赤く染まる。黒川くんは色が白いから赤い色がよく分かる。


「プレイ人口も増えてゲームも賑わうし、モモさんもよろこんでくれるんちゃう?」


そう言ってから、俺は遅れて自分が口を滑らせたことを自覚する。

なんで俺がモモのレンの会話知ってるんや。

案の定気になったらしい黒川くんが足を止める。


「なんでモモさん?」


切れ長の黒い瞳が、真意を探るように俺を見つめる。俺は冷や汗を流しながら、それはほらっ、と明るい声を出す。


「黒川くんといえばモモさんやん!それに誰だってプレイ人口増えるのはうれしいし、人気ってことはそれだけ長く遊べそうってことやし」


皆考えるやろ!と主張する俺を黒川くんは訝しげな顔で見る。

それに笑みを返しつつ、俺は必死に別の話題を探す。


「そういえば、今回のイベ武器のレベルどこまでいった?」


そう聞けば、黒川くんの表情が変わる。

いそいそと話し出す彼の隣で、俺はさっきまでの会話を思い出し、心にちくりと棘が刺さる。


つまり俺はレベルが高いから相手してもらえてるんか。


もし、俺もモモもレベルが低かったら、黒川くんには見向きもされていなかったんやろうか。


「遠距離近距離調整して作戦考えられるのは楽かも。といっても、南達そこまで続けるのか」

「続けるかもしれへんよ。黒川くんとも語っちゃうかも」

「それは………」


そこで言葉を切ったけれど、黒川くんの顔はうれしそうやった。

やりこみ厨の考察好きだ。そりゃ討論も情報交換も大好きだろう。

もし南さん達のレベルが上がったら、彼女達ともこんなふうに話すんやろうな。

隣の黒川くんを見る。既に心はゲームのことに向かっているらしく、何事か深く考えている。


黒川くんが他の子達に、こんなふうに一生懸命ゲームについて話す。

想像して、またちくりと心が痛む。一方で秘密を抱えている心は、離れるべきだと俺に訴えてくる。


「水野?なんかぼうっとしてるけど」

「んー?別になーんもないで」


これからどうなるかなんてわからない。

ならレベルを上げた誰かがこの席につくまで、もうちょっとだけ俺はここにいさせてもらおう。





「じゃ、また明日」


そう言って俺は車内にいる黒川くんに手を振る。学校からの帰り道、黒川くんの降りる駅は俺の降りる駅よりもう少し先だ。


「ん」

と、黒川くんが小さく反応する。

電車が去っていくのを見送り、俺は改札を抜ける。


家までの道すがら、今日あったことを思い出す。

南さん達は今頃ゲームをプレイしているのだろうか。

追いつくまで時間はかかるが、レベルを上げる方法なんて調べればいくらでもある。


「……もしかしたら早いかもなあ」


彼女達が俺達に追いつくのも。

俺がこの場所を退くのも。

そうはいっても簡単にモモはやられへんよーっなんて考えながら、俺は玄関のドアを開け、そこに並ぶ靴をみて思いなおす。


ちがった、ラスボスは別にいた。


靴を脱ぎリビングへと向かう。そこには、長い茶髪を揺らす一人の女性。女性の手にはコントローラーが握られている。

正面のテレビではアストラル・ゲート・オンラインがプレイされていて、モモが杖片手に微笑んでいる。


「おかえりっ!ねえ湊、モモまた強くなった?」


振り向いた女性が俺に笑いかける。猫みたいに丸い宝石みたいな瞳が輝く。


俺の姉、水野 凪。

モモのもう一人の「中の人」である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。