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モモとレン

そもそも、このゲームを始めたのは姉ちゃんやった。

流行りものが好きな姉ちゃんは、発売当初いち早く情報を拾ってきた。


「アバターの着せ替えも、撮影もできるんやって。もちろんクエストもあるらしいけど、別にそれせんくても衣装増えるらしい」


姉ちゃんの情報通り、交流も衣装も増えた。しかし一定のところまで来ると、新衣装はクエスト報酬になるわけで。


「はい、湊パス」


姉ちゃんは壊滅的に戦闘操作が下手くそやった。

そしてモモの二人体制は完成した。

交流担当の姉・凪と、プレイ担当の俺・湊。

そうしてモモは二人一組でここまでゲームを進めてきた。




「姉ちゃん今日早いやん」

「授業午前だけやったし。バイトも今日は休みやねん」


リビングのソファに腰を下ろし、俺は姉ちゃんがプレイするモモを眺める。

桃色の髪を揺らし走り回るモモは、相変わらず贔屓目ありでも物凄く可愛い。


「衣装変わった?」

「うん。新装備で合わせてみた。きのこさんともさっきあわせして撮影会してきた」

「行動早いなぁ……」


きのこさん、というのは「きのこ@信州産」という名前の俺等のギルドのギルマスさん。

交流もクエストも進める派で、俺とも何度か一緒にクエストに出ている。


「他に誰かおったん?」

「んー、まあ声は掛けられたけど……」


ほら、と姉ちゃんがメール欄を指さす。このゲームにはチャット以外にも、プレイヤー同士で交流する方法がいくつかある。

その一つがメールで、誰でもしらん相手にもメールが送れるっちゅーやつやけど。


「また変な奴からばっか来とるやん」

「きのこさんに報告しとかんとなあ」


大量のメールの内容を確認し、俺はげんなりと肩を落とす。

『会いたい』『名前とLINE教えて』『次はゲームじゃなくてリアルで会おう』

姉ちゃんがプレイすると毎回こんなメールが送られてくる。

何度かきのこさんに相談してやめさせてもらったこともあるんやけど、姉ちゃんがいる限りこういう奴らは無限に沸いて出てくるらしい。


姉ちゃんはゲーム世界でもモテるんやなあ。


隣に座る姉の横顔を見る。ばっちり化粧されたその顔は、弟の俺から見ても美人やと思う。

姉ちゃんを見かけた友達にも「モデルなのか」と何回も聞かれた。実際街で声も掛けられるし、カットモデルなんかもしてたりする。


「強すぎるやろ……」

「なにが」


俺の呟きに姉ちゃんが反応する。画面のなかでモモが可愛らしく笑う。

姉ちゃんのセンスを詰め込んだモモは、ゲーム内でも目を惹くしよくモテた。

さらには姉ちゃんのスキルなのか、姉ちゃんがチャットした相手からは後日、八割方告白のメールが送られてくる。


「あっ、レンくん」


黒川くんが操作するレンも、はじめは姉ちゃんと仲良くなった。

姉ちゃんが声をかけて、レンはモモと話すようになった。

そしてレンがギルド内のクエストに参加するようになって、俺もレンと関わる機会が増えた。何度か一緒にクエストをこなすうちに、個人的にレンから誘ってくれるようになった。

そして。


『モモさん、今日も会えてうれしい。衣装変えたんだね。そっちも可愛い』

『ありがとう。レンくんにそう言ってもらえるとうれしい!』

『モモさんにだったら何度だって言うよ。モモさんは可愛い』

『ありがと!レンくんも今日もかっこいいね!それ新装備だよね、似合ってる!』

『ありがとう。これはこの前ーー』


ゲームの中で、姉ちゃんとレンのチャットが続く。

姉ちゃんと話す時のレンの言葉は、俺が操作してる時より甘い気がする。

可愛い、って聞き飽きるほどに言われるからか?

心なしかそわそわと浮かれている様にみえるレンに、俺はちょっとだけ面白くない気分になる。

俺の時と何が違うんやろ。表示される文字をぼうっと眺める。


「湊、レンくんがクエスト行こうだってー」

「えっ、あっ、わかった!」

「何ぼうっとしてんの?」


コントローラーを姉ちゃんから受け取る。俺は苦笑いしながら画面正面に移動する。

火竜狩りか、とクエスト内容を確認しモモの装備を変えていく。

ピッ!と音が鳴り、モモの顔が甲冑に隠される。


「あー!せっかく可愛く揃えたのに!」

「あれ実用性乏しいねん」


姉ちゃんの嘆きをスルーしながら装備を付け替えていく。実用性に特化した装備では、モモ自慢の桃色の髪も柔らかそうな手足も、全部厳つい装備によって隠されてしまう。


『お待たせ』

『装備替えたんだ』

『弱点特効中心に揃えてみた』

『モモさん狙い何?』

『翼。できればウロコも欲しい』

『新武器レベル上げ?』

『あと二つなの』


手早く文字を打ち込んでいく。レンくんは?と聞いてみると、こちらも同じ素材狙いらしい。


『お互い狙いのものが出るとええなあ』


素直な気持ちを送ったつもりだった。しかし、瞬時にあった返信が途絶え、画面のなかでレンがじっと佇む。


『ごめん、私変なこと言った?』


不安になってレンに尋ねると、レンが首を横に振るアクションをとる。


『変なことなんて言ってないよ!ただ、モモさん喋り方変わったなって思って』


レンの指摘に俺は跳び上がる。


『喋り方?』

『うん。ギルドで喋るときと、クエスト出た時の喋り方が違うって思って』


そりゃ気になるわな!

チャットの内容を振り返り、確かに、と俺は頭を抱える。効率重視で短文で送ったのが間違いやった。

でも黒川くん返信速いから楽しくなってんもん!


『いつもは頑張ってるんだけど、レンくん相手だと楽しくなっちゃってつい素が出ちゃって……、嫌だったら言ってね!』


嘘は言ってへんもん。

俺は事実を交えながら、レンにごめんね、と送る。

実際チャットを読み直してみると、ただの素材集めの会話である。疑似夫婦感のない、仲間内での目標確認だ。


「ううん。俺はモモさんと話せるなら何でも楽しいから。だからたくさん話してほしい』


しかしこんな俺の回答にも、レンは格好良い言葉を返してくれる。

さすがレンや、とモモへの愛情にときめいている俺だが、現実はそう甘くはなかった。


『俺、頑張って話しているときのモモさん好きだよ』


「…………あー…………」


その一言に、俺はコントローラーを膝のうえに置いた。上がっていたテンションがじわじわと冷めていくのがわかる。画面のなかでは装備によって顔も体もほぼ隠されたモモがこちらを見て立っている。

この姿では、名前の横についたレンとお揃いのハートが浮いているように見える。

「頑張って話しているモモ」は、姉ちゃんの事だ。俺が操作する、目標確認の会話しかしないモモのことではない。

レンに最初に声かけたのは姉ちゃんだ。

そして、レンが結婚を申し込んだモモは、姉ちゃんが操作している時のモモや。


「……いや知っとったけどなあ」


俺は気を取り直してコントローラーを握る。

『ありがとう』

なんとかレンにそれだけ返す。

俺の反応が変なことに気がついたのだろう、レンから

『でも、今の俺の前で気を抜いてくれるモモさんも好き』


と送られてくる。


「気を使わせて悪いなあ」


そう思うのに、レンの言葉を嬉しいと思う俺がいる。

横を見ると、姉ちゃんはもういなかった。さっきのレンの告白のような言葉は、姉ちゃんには届いていない。


「ままならんなあ……」


姉ちゃんに見せられなかったことを申し訳なく思いつつ、しょげた気持ちを抱えながら俺はレンとのクエストをクリアしていく。その間にも、レンと短い言葉を交わす。


『もう一周行く?』

『回復薬切れた』

「薬草は川沿いだっけ。エリアボスは?』

『今そいつの素材は必要ない』 

『おけ』


必要なことだけ伝えあうチャット欄に、これは可愛さゼロや、と納得する。

それでもレンは去り際に


『今日はモモさんと遊べて楽しかった。またやろうね』


と言ってくれる。


「湊ー。終わった?」

「終わったで」


部屋から出てきた姉ちゃんにコントローラーを手渡す。モモの顔があらわになり、衣装が可愛らしいものに変わっていく。


『今日もモモちゃんカワイイね!』


ギルド内の誰かからチャットが飛んでくる。姉ちゃんに変わった途端、モモも取り巻く人の反応が変わる。

愛されるのは姉ちゃんのモモや。目の前の光景を見るたびに痛感する。

俺に出来るのは、身バレせんと夢を守ることや。

姉ちゃんと、レンと、黒川くんと、画面内で微笑むモモに決意する。

黒川くんとも距離をとろう。

身バレ防止第一。そもそもゲーム以外で話すことないし。そう笑った俺やったけど。



「二人一組でペア作ってー」


公民の授業中、黒板の前に立った先生が言う。

かっちゃん達か誰か、と席を立とうとした俺に、横から予想外の声がかかる。


「水野、俺と組もう」


その一言に、教室中が静まり返る。

そんな中でも、黒川くんは涼しい顔をして立っていた。




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