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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第87話 乗り込む

魔術師団の書庫に戻ると、セルジオが焦燥に駆られた様子で廊下を往復していた。

俺の姿を認めると、彼は弾かれたように駆け寄ってくる。


「……無事でしたか!」

「無事です。書類もすべて取り返しました」

俺が布袋を軽く叩いて見せると、セルジオは膝を突きそうなほど深く安堵の息を吐いた。


「やはり、エリック殿下の差し金でしたか」

「ええ、紋章を確認しました。間違いないです。……セルジオ殿、少し話をつけに行ってきます」


「今日、今すぐですか?」

「正直このままじゃ、明日からの引き継ぎに集中できないです。……『害虫』の気配が残ったままでは、いい仕事はできませんからね」

ヴェルダが俺の隣で、不敵な笑みを浮かべて

拳を鳴らす。


「わらわも行くよ。あの王子、一度ちゃんと『分』を分からせてやらないとね」

セルジオは少し考え込み、やがて鋭い眼光で頷いた。

「……承知しました。殿下の居場所を見つけ出します。ガイウス殿、一つだけ言わせてください。……今日は、徹底的にやってやりましょう」


三十分後。王宮の奥、選ばれた者しか立ち入りを許されない空中庭園。

そこには、陽光を反射して不気味なほど白く輝く噴水と、毒々しく咲き誇る大輪の花々があった。

石造りの玉座のようなベンチに、エリック王子は座っていた。

傍らには、死神のように冷徹な側近ファレルが控えている。


「やあ、ガイウス。……わざわざ私の庭に、何のご用かな?」


エリックは、蛇が獲物を品定めするような、冷たく粘りつく笑顔を浮かべた。

「書類を盗まれた借りを返しに来ました」


「おや、何のことかな。……ああ、従者が何か粗相をしたという報告は受けているよ。彼は少々愛国心が強すぎてね。独断で動く悪い癖がある。……実に困ったものだ」


エリックは白々しく肩をすくめ、ワイングラスを揺らした。その瞳には、隠しきれない傲慢さと愉悦が宿っている。


「エリック殿下」 俺は一歩、エリックのパーソナルスペースを殺すように踏み込んだ。


「引き継ぎに来た理由は一つです。やるべきことを終え、北へ帰る。それだけです。火の粉は振り払いますが、それ以外のことに、魔力を使う気はない」


「……帰る? あの泥臭い開拓地に、か。君ほどの男が、なぜそこまで矮小な場所に固執するのか、私には理解できんよ」


エリックが立ち上がり、俺の瞳を覗き込んできた。

その顔には、狂気すら孕んだ野心が張り付いている。

「君の力があれば、この腐った王国を根底から作り変えられる。私の右腕になれ、ガイウス。世界の理を共に耕してみないか?」


「お断りします」

俺の即答に、エリックの頬がぴくりと痙攣した。

「……怒っているのかい?」

「怒っている。貴方が俺の時間を奪い、精魂込めて書いた資料を『取引の道具』に貶めたことに。……俺は今、自分でも驚くほど腹を立てています」

声は低かったが、周囲の空気が急速に凍りついていくのを、セルジオは肌で感じ取っていた。ヴェルダの瞳も、黄金の光を増し、いつでも龍のあぎとを開く準備を整えている。


「次は、ない。引き継ぎが終われば、俺は帰る。貴方が何を企もうと、俺の『収穫』の邪魔はさせない。……畑を荒らす輩には、一人残らず叩き出すのが農家の流儀です」


エリックはしばらく俺を睨みつけていたが、やがてふっと視線を外して、低い声で笑い出した。

「……王都を、捨てたというわけか」

「捨てたわけではありません。エーデル村を選んだだけです」

「それに違いがあるのか?」

「あります。捨てたなら、こうして引き継ぎに来る義理もない。選んだからこそ、けじめをつけて帰る。それが俺の責任だ」


エリックは押し黙った。

噴水の音だけが、やけに大きく響く。

「……約束しよう。引き継ぎが終わるまで、私の『従者』が君の畑を荒らすことは二度とない」

その声には、先ほどまでの傲慢さは消え、得体の知れない「敗北感」が混じっていた。


王宮を出て、夕闇に染まる大通りを三人で歩く。

セルジオが、ようやく緊張を解いて俺の顔を覗き込んできた。

「……ガイウス殿。あんなに冷や汗をかいたのは初めてですよ。……でも、殿下にあそこまでハッキリと言えるのは、あなただけだ」

「言い過ぎたかもしれないです。でも、あれが俺の本心なので」

「いえ、完璧でした。エリック殿下……最後は、まるで巨木を見上げる子供のような顔をしていましたよ」


ヴェルダが、俺の隣で指を三本立てた。

「あと三日だよ、ガイウス。……三日。長いけど、あと少しで村の皆に会えるね」


「ええ。縁側でエールを飲む約束、忘れていないです」


「忘れるわけないでしょ! セルジオも、また絶対に来てよね。農家の真の力を見せてあげるから」


セルジオは「……はい、必ず」と、清々しい声で答えた。

王都の喧騒が遠ざかっていく。

エリックの野望も、王宮の毒も、今はもう、ただの過ぎ去る風に過ぎない。


スローライフへの帰還まで、あと三日だ。

新作書きました。

よろしければご覧ください。


S級暗殺者、パティシエになる ースイーツのスの字も知らない男の奮闘記ー

https://ncode.syosetu.com/n6805ly/


バトル要素はほとんど無いです。

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