表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/201

第79話 農家定食が出来ました

ちょっとよく分からない話になってしまいました。

すいません。


引き継ぎ五日目の朝。

宿を出て魔術師団へ向かう道すがら、王都の空気が昨日までと違うことに気づいた。


市場の入り口で、一人の商人が俺を見て、持っていた林檎を落とした。

「……あ、あの! あなたがガイウス・ノア殿……『神様農家』様ですか!?」


「農家ですが、神様ではありませんが」

「黒龍を指先一つで手なずけ、魔王軍をクワ一本で退けたという噂は本当だったんだ……!」


「手なずけてなんかいない。わらわは自らの意志でここにいるんだ」

隣を歩くヴェルダが不機嫌そうに黄金の瞳を光らせると、商人は「本物の黒龍だ……!」と腰を抜かして震え上がった。


「農家として通ります。道を開けていただけますか」 「は、はい! どうぞお通りください、農家様!」


その後も、王都の至る所で声をかけられた。 ある神官は「神の使いとしての農耕魔法を……」と縋りつき、俺が「農家です」と三回繰り返すと、ようやく「これぞ真の無欲……」と涙を流して去っていった(?)。



若い騎士は「魔族と農業協定を結んだというのは!?」と詰め寄り、俺が「農地を分配し、収穫の割合を決めただけです」と答えると、「農家こそが真の外交官か……!」と衝撃を受けていた。


最後に声をかけてきたのは、腰の曲がった老婆だった。

「あんた、黒龍さんと仲良しの農家さんかい?」


「そうですが」

「うちの孫がね、あんたみたいな農家になりたいって言っとるんだよ。農家として生きるのは、いいもんかい?」


俺は少し考え、老婆に答えた。

「いいですよ。……かなり、いいですが」

「そうかい、かなりいいんだねえ。孫に伝えておくよ。あんた、本当に農家らしい顔をしとるねえ」



魔術師団に着くと、マルティンが複雑な顔で出迎えてくれた。

「ガイウス殿……王都中にあなたの噂が、それもかなり尾ひれがついた状態で広まっていますよ」

「神様農家のことですか。私はただの農家ですが」


「騎士団では『魔王軍を農業協定で実質的に傘下に収めた』と言われています。さらに『黒龍とクワ一本で一騎打ちして屈服させた』という話まで……」

「農家として戦いましたが、クワではなく魔術を使いました。そもそもSランク魔術師ですから」


それを聞いた若い部下が、目を丸くして身を乗り出した。

「農家なのにSランクなんですか!? 順番が逆じゃないですか!?」

「土を耕すには、それなりの出力が必要ですので」

「農家って……すごいんですね……」


昼過ぎ、セルジオが血相を変えて執務室に飛び込んできた。 「ガイウス殿! ついに……ついに王都の食堂が動きました!」

「何事ですか。地脈でも暴走しましたか」


「いえ、食堂に新しいメニューが出たのです。その名も――『農家定食』です!」

「農家定食、ですか?」

「はい。ガイウス殿が農家として王都を歩いている姿に感銘を受けた料理人たちが、野菜中心の質素ながらも力強い献立を作り上げたそうです。今、王都で爆発的な人気ですよ」


ヴェルダが目を輝かせた。

「農家がメニューになったの? ガイウス、食べに行こうよ!」

「……農家が農家定食を食べるというのは、農家が農家を見物しているようで、なんだか落ち着かないのですが」


「意味がわかるようでわからないよ。農家なので、って言いながら食べればいいじゃない」


結局、セルジオの「ガイウス殿が食べればさらに売れ行きが上がり、王都の健康状態が改善します」という、正直すぎる懇願に負け、俺たちは食堂へと向かった。


出てきた「農家定食」は、蒸した芋、山盛りの生野菜、そして具沢山の根菜スープに黒パン。

「……悪くないですが。ただ、農家としては、この芋の蒸し時間が三秒ほど長い気がしますが」


「そこまでこだわる!? さすが本職……!」 店主が感動してメモを取り始めた。

ヴェルダは幸せそうにスープを啜っている。

「おいしいよ、ガイウス。リナのお母さんには負けるけど……でも、農家と龍が『農家定食』を食べているって、これ記録に残るかな?」

「残らないと思いますが」


「残ればいいのに。面白いよね? 」


夕方、引き継ぎを終えて宿に戻る道。

王都の空は、エーデル村と同じような美しい茜色に染まっていた。


「……でも、結局完食してたでしょ」

「ヴェルダが食べろと言ったので」

「わらわの判断が、農家の判断に勝ったんだね。ふふん」

ヴェルダは黄色い花を揺らしながら、満足げに鼻歌を歌っている。


俺が農家として王都を歩くたびに、少しずつこの街の「空気」が変わっていくのを感じる。

かつての「冷徹な魔術師」の面影は、今や「得体の知れないが頼りになる農家」へと上書きされているようだ。


「……王都も、案外『土壌』としては悪くないかもしれませんね。少し耕せば、面白い芽が出る」


「そうだね。でも、やっぱりわらわたちの村がいいよ」

「そうですね」


「そうだよ」

星が瞬き始めた夜空の下、俺たちは宿の扉を潜った。 明日は引き継ぎの最終日。


スローライフは、今日も――「農家定食」の味を分析しながら――順調だった。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きが気になる方はブックマーク。

少しでも面白いと思った方は評価の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ