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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第72話 王都にて1


衛兵の一人が「通行証を——」と言いかけて止まった。

ガイウスの顔を見た。

二秒、止まった。


「……ガイウス・ノア殿、ですか?」

「はい、そうですが」

「お、お帰りなさいませ」

「ただいまです」

衛兵が隣のヴェルダを見た。


金色の目と目が合った。

三秒、固まった。

「こちらは……」

「ヴェルダです」とヴェルダが言った。

「ヴェ、ヴェルダ様……ですか」

「様はいらないよ」

「は、はあ」

衛兵がもう一人の衛兵を見た。


もう一人の衛兵がヴェルダを見た。

二人で三秒、固まった。

「通っていいですか」と俺は言った。

「あ、は、はい。どうぞ」

「ありがとうございます」

城門をくぐった。


ヴェルダが小声で「固まってたね」と言った。

「そうですね」

「なんで固まったんだろう」

「黒龍が来たからだと思いますが」

「わらわが来たら固まるの?」

「固まりますね」

「なんで」

「厄災の魔獣なので」

「ガイウスは固まらなかったじゃない」


「農家なので」

「農家は固まらないの?」

「農作業で色々と慣れているので」

ヴェルダが「農家って、最強だね」と言った。

「そうですか?」

「そうだよ。黒龍が来ても固まらない農家って、ガイウスだけだよ、絶対」

「そうかもしれないですが」

「自覚して」


「農家として自覚していますよ?」

「農家として、ね変な人だ」

ヴェルダが笑った。


城門をくぐって、王都の中に入った。

ヴェルダが、止まった。

一歩入って、止まった。

動かなかった。


「……すごい」

石畳の道が続いていた。両側に建物が並んでいた。人が行き交っていた。馬車が走っていた。屋台が並んでいた。子どもが走り回っていた。商人が声を張り上げていた。

全部が、一度に来た。


「人が多い」とヴェルダが言った。

「そうですね」

「こんなに人がいるの、初めて見た」

「そうですね」

「全員、知り合い?」

「知り合いではないですが」


「知らない人間がこんなにいるの?」

「王都の人口は数十万人ですが」

「数十万!?」

ヴェルダが「わらわの縄張りに、数十万の人間が入ったら、どうなるんだろう」と言った。

「縄張りが埋まると思いますが」

「絶対嫌だよ、それ」

「そうですね」

「でも、ここの人間はよく平気だね。こんなにいるのに」


「慣れているので」

「慣れると平気なの」

「慣れると、そうなりますが」

「わらわも慣れる?」


「もちろん慣れると思いますよ?」

ヴェルダは目を見開き、食い気味に聞く。

「ねえねえ?どのくらいかかるかな!?」

「実際やってみないとわかりませんがね」

ヴェルダが「またそれだ」と言った。


「まあ——やってみる!」

ヴェルダがまた王都の中を見渡した。


金色の目が、通りの端から端まで動いた。

建物を見て、人を見た。

馬車を見て、屋台を見た。

そして一つの店に目が留まる。


「花屋だ!あの花すっごくきれいだね」と言った。

「そうですね」

「ねえねえ、ガイウスあれ欲しい‥買ってくれる?」

ヴェルダは上目遣いでお願いしてくる。


「分かりました、どうぞ」

ヴェルダが「やった!」と言い嬉しそうだった。


早速、花屋に寄ると花屋のおばさんがヴェルダを見て金色の目を見て固まった。


それからにっこり笑って「いらっしゃいませ、何にしますか?」と聞く。


ヴェルダが狙っていた花を指差して「これください」と言う。

花屋のおばさんは、花を取り出して渡す。

「はい、どうぞ」

受け取った。

「ありがとう」とヴェルダが言った。

ふと花屋のおばさんが「かわいいお嬢さんですね」と言った。


ヴェルダが止まった。

「……かわいいって言われた」

「そうですね」

「リナにも言われたけど、知らない人にも言われた!わらわうれしい!」


ヴェルダが白い花を持って歩き始めた。

さっきより少し足取りが軽かった。

ヴェルダは「王都、悪くないかもしれない」と言った。


「そうですか?」

「そうだよ!花が買えるし、知らない人にかわいいって言われるし」


「なるほど、それはいい理由ですね」

「うん!十分いい理由だよ」

俺は少し考えた。

千年以上縄張りにいた龍が、王都で花を買って機嫌を良くしてるのはすごい事なのでは。

「まぁ、ヴェルダが楽しそうでよかったですが」と俺は言う。


急にヴェルダが止まり、振り返った。


「今——楽しそうでよかったって言った?」

「言いましたが」

「ガイウスがそういうことを言うの珍しい」

「え、そうですか?」


「そうだよ。とぉーっても珍しい。もう一回言って!ねっ?ねっ?」

「一回で十分です」

ヴェルダは笑いながら「もう、ケチ」と言った。


今日泊まる宿はもう少し先だ。

王都の夕方の光を背に、石畳を橙色に染めている道をゆっくりと歩く。


スローライフは、今日も——王都で花を買いながら——順調だった。


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