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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第68話 王都出発に向けて

(リナside)

ガイウスさんが王都に行くと決めた。

そう聞いたのは、夕飯のときだった。


「少しだけ戻ることにしました」と言った。

みんなが「気をつけてね!」とか「お土産よろしく!」とか言っていた。

でもわたしは「わかった」とだけ言った。

他に言いたいことはあったけど言わなかった。


ガイウスさんの作業場に行く。

作業場には、旅の荷物ではなくいつも通り丁寧に整理された薬草の香りが満ちていた。


「ガイウスさんいつ、出発するの?」

背後から声をかけると、ガイウスさんは手を止めずに答えた。

「三日後ですね。引き継ぎの資料をまとめ終えたらなので」

「……早いね。資料の準備はもう出来たの?」

「あと少しですね、行くまでには作る予定です」


「……そう。じゃあ心の準備、できてる?」

ガイウスさんが、ようやくこちらを向いた。

「心の準備、ですか?」


「だって二年ぶりだよ。あなたを追い出した場所に戻るんだよ。嫌じゃないの?」

ガイウスさんは少し考え、それから淡々と言った。

「嫌というよりは……面倒ですね。ただ、やり残した仕事を終わらせに行くだけですから。怒る時間があれば、薬草畑の世話ができますし」


私は思わず吹き出した。

「あはは、本当に変な人。……でも、そんなガイウスさんだから、私は安心できるのかも」

私はガイウスさんの隣に座り、ガイウスさんが薬草を整理して一本ずつ薬草を瓶に詰める手元を見つめた。


「……ねえ、ガイウスさん。絶対、帰ってきてね」

「ええ、帰ります。ここに畑がありますから」


「それだけじゃなくてさ、帰ってきたら縁側でエールを飲もう。ヴェルダも誘って皆でさ。グラントさんに、最高の一樽を予約しておくから」


「……それは、強力な理由になりますね。今、帰ってくる理由が一つ増えました」

ガイウスさんがそう言ったとき、心からホッとした。


「心配してるんだよ。あなたがいないと、水やりが滞るだけじゃなくて……その、寂しいから」 「……わかっていますよ」


珍しく、ガイウスさんが先に言う。

彼の「わかっています」は、どんな魔術よりも信頼できる。

「じゃあ、約束。必ず帰ってきてね」

「ええ、約束します」


(ガイウスside)

出発二日前。俺は北の開拓地へ向かった。

そこには、泥にまみれて鍬を振るう魔王軍皇太子の姿があった。

「……来たか、ガイウス」

「カイン殿。様になってきましたね」

「お主、王都へ行くそうだな。……農家として、ここを俺に任せてくれるのか?」


カインがクワを杖のように突き、俺を真っ直ぐに見た。

「申し訳ないですが、お願いできますか?俺がいない間、ここを任せられるのはあなたしかいない」

「……フン。農夫として任された以上、無様な土は見せられんな。分かった、引き受ける」

カインは誇らしげに、けれどどこか寂しげに笑った。


「だが待っているぞ。……グラントのエールも、お前がいなければ味が落ちるからな」

彼は小声で「農夫として待っている」と付け加えたが、俺は聞こえないふりをして頷いた。


次に、カインの部下のザルクとドリスを呼んだ。

「俺が留守中の作業、頼めますか?」

「ああ、任せとけ! 毎日『農家なので』って言いながら耕してやるよ」


「ザルク、それは俺の真似ですか?」

「いいや、最近こいつ(ドリス)も口癖になってるんだぜ」

ドリスが顔を赤くして

「……悪い言葉じゃないからな」とそっぽを向いた。

地脈の修復も、彼らなりに「農家の根気」で進めてくれるだろう。


エリアとアルトのコンビにも声をかける。

「地図の更新、頼みます。帰ってきた時に驚かせてください」

「二版くらいは更新してみせます! 驚く準備をしておいてくださいね!」

「方向音痴のエリアさんを、しっかり測量データで導いておきますよ」


アルトが「帰ってくる理由いくらでもありますよ、だから絶対帰って来ないとですね」と笑った。


俺ははっきりと「分かってます」頷く。

自分でも驚くほど、その言葉が自然に出た。


夕暮れ時。

俺は最後に、一人で開拓地に残って麦の芽を見ていた。

「なあガイウス」

いつの間にか、ヴェルダが隣に立っていた。

「麦の芽、見てたの?」

「ええ。帰ってきた時に、どれくらい育っているか楽しみで」

「心配せんで良い、わらわが見ておく。毎日話しかけて、お前の代わりに『行ってきます』も言っておいてやる」


ヴェルダは黄金の瞳を細め、小さく呟いた。

「農家みたいな真似……悪くない。……わらわ好きだよ、こういうの」


「……そうですか」

「そうだよ。だから――約束だ。わらわの隣で、この芽が黄金色に染まるのを見ろ」


王都へ行く理由は「ケジメ」だが、この村へ帰ってくる理由は「約束」だ。

これなら、迷うことはない。


スローライフは、今日も――帰ってくる約束を積み重ねながら――順調だった。


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