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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第67話 宰相からの手紙

先程は違う作品の話を上げてしまいました。

すいません。

朝、薬草畑に水をやっていた。


霧吹きから放たれる細かな雫が、朝日に反射して虹を作る。

いつも通りの、平穏で美しいエーデル村の朝だ。


北の開拓地は、カインたち魔族が開拓を進めている。

広場ではマルク達が元気に走り回り、グラントの食堂からは焼きたてのパンとスープの匂いが漂ってきた。


そこへ、エリアが作業場から小走りでやってきた。

手に一枚の、上質な封蝋がなされた手紙を握っている。

「ガイウスさん、王都から重要な手紙が届いています!」

「誰からですか?」

「ハーヴェル宰相閣下からです。至急、確認を!」


「……そうですか」

俺は手を止めなかった。じょうろを傾け、喉を鳴らす薬草たちに均等に水を与え続ける。

「ガイウスさん、今すぐ読まないんですか? 国の宰相ですよ?」

「水やりの途中ですから。この薬草は、この時間の水分量が品質に直結するんです」

「……宰相閣下からの親書より、薬草の水分量ですか」

「はい、農家なので」


ようやく最後の一株に水をやり終え、俺は手紙を受け取った。

エリアが「本当に、徹底していますね」と呆れたように笑う。


作業場の椅子に座り、封を切った。

そこにはかつての上司、宰相ハーヴェル閣下の、飾らない言葉が綴られていた。


【ガイウス殿へ】

追放したことを、今更ながら謝罪したい。

君が去ってから、王都の魔術基盤は目に見えて不安定になった。

地脈の制限は増え、代わりの魔術師を立てたが、誰一人として君の足元にも及ばない。

それに王妃の猫もまた木に登ってしまって手の打ちようがない。


決して、引き継ぎなく去ったことを責めているわけではない。

こちらが理不尽に追い出したのだ、君に義務などない。

ただ――頼みがある。

少しだけでいい。

王都に戻ってきてはくれないか。

魔術師としてではなく、ただの『ガイウス・ノア』として、力を貸してほしい。

――ハーヴェル


俺は手紙を読み、静かに机に置いた。

そこへ丁度、ヴェルダがひょいと顔を出した。


「おはよう、ガイウス。……妙に真剣な顔をして、何を読んでいたのだ?」

「王都からの招待状……のようなものです」


「読んでよいか? ……ふむ、『戻ってきてほしい』、か」

金色の瞳で紙面をなぞったヴェルダが、俺をじっと見つめる。

「ガイウス、お前はどうするのだ。戻るのか?」


「……断るつもりでした。俺は農家ですから、王都に行く理由がない」

だが、俺は自分の胸に引っかかった「棘」の正体に気づいていた。

「ヴェルダ。農家として考えると、俺は最悪なことをしたのかもしれません」

「……? 追放されたのがか?」

「いえ。収穫直前の畑を、引き継ぎもせずに放置して去ったことです。王都の魔術基盤は、俺が耕し続けてきた『畑』のようなものでしたから」


リナが食堂から顔を出し、俺たちの会話を黙って聞いていた。

「ガイウスさん、それって……追放された怒りよりも、仕事を中途半端に投げ出したことが気になってるの?」

「……そうみたいですね。自分でも驚きましたが、農家になってから、その『中途半端さ』がどうしても許せなくなった」


リナは少しだけ寂しそうに笑った。


「……帰ってくるなら、絶対だよ? 戻ってきた時にすぐ食べられるように、最高のご飯を作って待ってるから」


「まだ行くと決めたわけでは……」


「行く顔をしてる。農家が『畑の始末』を付けたいって思ったら、もう止められないでしょ」



「……わかった。わらわも行く」 唐突に、ヴェルダが宣言した。

「ヴェルダ? 縄張りはどうするんです」

「お前が一人で行くのが気に入らぬだけだ。それに……」


彼女は少しだけ目を輝かせて、窓の向こうの空を見上げた。

「王都という場所、一度も見たことがないのだ。人間が群れて何を作ったのか、見届けてやるのも悪くない」


千年以上、一つの場所に留まっていた龍が、外の世界に興味を持った。

「わかりました。一緒に行きましょう」

「即答だな。断られるかと思ったぞ」


「断る理由がありません。ヴェルダがいれば、地脈の確認も早いですから」

「……もう。お前は本当に、可愛げがないな」

夕方、俺は最短の返事を書き上げた。


【ハーヴェル閣下へ】

少しだけ戻ります。 『引き継ぎ』を終えたら、すぐに帰りますので悪しからず。

ガイウス・ノア

追伸: 農家として戻ります。


エリアが横から覗き込んで首を傾げる。

「……『農家として戻る』。これ、宰相閣下には伝わりますかね?」

「セルジオ殿なら、正しく解釈してくれるはずです。俺はもう魔術師ではない、ただの責任感の強い農家だ、と」


「……セルジオさんへの信頼が厚いですね。よし、ではアルトを護衛に付けて、今すぐ届けさせます。念のために!」


スローライフは、今日も――王都への「出張」という名の、一時的な里帰りを決めながら――流れていく。

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