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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第28話 急進派の急襲

朝。

俺は作業場でポーションの補充をしていた。

使者が息を切らして村に飛び込んできた。


「ガイウス・ノア殿に、至急の手紙です」

封を開けた。


ザルクからの手紙だ。

『ガイウス殿、緊急の連絡です。 急進派の動きが怪しいです。 カイン殿下は三日待つと約束を取り付けましたが、急進派の古参幹部が独断で動く可能性があります。 もし村に不審な動きがあれば、すぐに対処してください。 こちらも急ぎ手を打ちます。 ザルク』


俺は手紙を畳んだ。

エリアが横から読んでいた。

「……まずいですね」

「そうですね」

「どうしますか」

俺は窓の外を見た。


北の街道。 今は何もない。

ただ、何かが来る予感がある。


「すいません、村人の避難をもう一度進めてください」

「リナさんたちは、まだラッセルですよね」

「いやそのままでいてもらったほうがいい」

「ガイウスさん」

エリアが俺を見た。

「今度は一人でやるつもりですか」

「いえ、レオとカナがいます」

「私も——」


「エリアは術式の連絡係をお願いします。 一番重要な役割です」

エリアが少し口を尖らせた。

「……わかりました」


昼過ぎ。

北の術式センサーが反応した。

エリアが作業場に飛び込んできた。

「来ています」

「数は」

「五十体前後。 ただ——」

エリアが眉をひそめた。


「前回と動き方が違います。 統率が取れていない。 バラバラに速く動いています」

「急いでいる、ということですか」

「というより——焦っている感じでしょうか」

俺は少し考えた。


前回のザルクの部隊は整然としていた。

しかし今回は違う。

急進派の独断なら、そういう動き方になるかもしれない。


「レオ、カナ」

「はい」と二人が同時に言った。

「村人を全員、宿屋の地下に。 今すぐ」

「わかりました」

レオとカナが走り出した。


ゴードンが腕を組んでいた。

「わしは」

「ゴードンさんは、地下で村人たちの傍にいてください」

「……ガイウス殿無理はするな」

「五十体なら、無理ではないです」

「いや、そういう意味じゃない」

俺は少し考えた。


「わかっています」

ゴードンが頷いた。

グラントが無言で俺の肩を一度叩いた。 それから、村人を誘導しに行った。


俺は村の北の入り口に立った。

前回と同じ場所、ただ今日は一人だ。

北の街道の向こうに、黒い影が見え始めた。


前回より速い。 前回より荒々しい動き方だ。

五十体ほどの魔族の兵士が、街道を駆けてくる。

先頭に、大柄な男がいた。

俺を見て、止まった。


「……お前が守り人か」

「そうです。 引き返してください」

「それはできない」

「カイン殿下は三日待つと約束しました」


大柄な男は目を細めた。

「これは殿下の命令じゃない。 俺たちが決めた」

「独断ですか」

「魔族の土地を守るために必要なことだ」

「村人を人質に取ることが、ですか」

「手段を選んでいる場合じゃない」

ベルグが手を上げた。


兵士たちが前に出ようとした。

その瞬間——

「待て」

後方から、声がした。



馬の蹄の音がした。

一頭ではない。 数頭。

速い。 かなり飛ばしてきたらしい。

馬が止まり、砂埃が上がった。


馬から飛び降りたのは——若い男だった。

黒いマントが埃で汚れている。

息も上がっている。 それでも、目が鋭かった。

彼がカイン・グリムか。


「ベルグ」

カインが前に出た。

「殿下——」

「止まれ、と言った」

「しかし殿下、これは魔族のために——」

「俺が決めたことを聞けぬのか?」


カインの声が、一段低くなった。

ベルグが黙った。

周囲の兵士たちも、静止した。

カインが俺を見た。


「……貴様がガイウス・ノアか」

「そうです。 カイン殿下ですね」

「ああ」

しばらく、二人は見合った。


「止めてくれてありがとうございます」と俺は言った。

「礼は要らない」

カインが腕を組んだ。


「俺も、どうしてもお前に聞きたいことがある」

「どうぞ」


「仲介すると言ったそうだな」

「はい」

「それは本気か?」

「本気です」


「なぜ?お前に利は無いだろうに」

俺は少し考えた。

「面倒なので、早く解決したかったので」

カインが目を細めた。

「……それだけか」


「いえ、それだけではないです。王国側にも落ち度があります。 地脈の問題は、王国の魔術開発が原因の一つです。 知っていて放置してきた可能性がある」

カインが少し黙った。


「……知っているのか、そのことを」

「魔術師として、十年王城にいました。 地脈の変化は、ずっと前から報告が上がっていました、“問題なし“と」

「なんだと?」


「握り潰されていた可能性があります」

カインの目が、少し変わった。

「……そもそもお前は、王国側の人間だろうなぜこちら側に気を使う」


「元王国の人間です、あ、今は農家ですが」

「間違いは間違いです。 どちら側であっても」


カインがしばらく俺を見た。

それから——

「一つだけ、聞いていいか」

「どうぞ」

「お前は本当に、交渉を成功させられると思っているのか?」

俺は少し考えた。

「やってみないとわかりません。 ただ——」

「ただ?」


「やらなければ、確実に失敗します」

カインが息を吐いた。

「……正直なやつだな」

「嘘をついても仕方がないので」

ベルグが前に出た。


「殿下、こんな男の言葉を信じるんですか。 王国の人間が、魔族のために動くわけが——」

「ベルグ」

カインが振り返った。

「お前たちは、ここで待機しろ」

「殿下——」

「これは命令だ」


ベルグが口を閉じた。

カインが俺を見た。

「話の続きをしたい。 ただし——その前に貴様とは一度、戦ってみたい」

俺は少し目を細めた。


「なぜですか」

「お前の強さを、自分の目で確かめたい。 話を信じるかどうかは、それから決める」

「戦わなくても信じていただけませんか」

「できないな」

「面倒ですね」


「俺もそう思う。 ただ、魔族の皇太子として、Sランクの実力を確かめずに信じるのは筋が通らない」

俺はしばらく考えた。

カインの目を見た。


嘘を言っていない目だ。

ただ戦いたいのではなく——本当に、確かめたいのだと思う。


「……わかりました」

「受けてくれるか」

「ただし、怪我はさせません」

「俺もそのつもりだ」

「では、始めましょうか」


カインが黒いマントを脱いだ。

その下に、細身の黒い鎧をつけていた。 腰に、長剣を一本。

俺は懐に手を入れ魔石を一つ取り出した。

赤い魔石だ。


ベルグが後退し、兵士たちが道を開けた。

街道に、静かな風が吹いた。

さあ。始めようか。


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