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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第25話 事情は、どこにでもある


酒場に、ザルクとゴンと俺とレオが座った。

ちなみにドガは外で寝ていた。

まだ立てないらしい。

グラントがエールを四つ持って無言で置いた。

ザルクが一口飲んだ。


「……旨い」

「でしょう」

「こんな辺境で、こんなエールが飲めるとは」

「グラントさんの自慢の一品です」

グラントが無言で頷いた。

ザルクがまたエールを飲んで、テーブルに置いた。


「さて、話しましょうか」

「お願いします」

「どこから話すか——」

ザルクが少し考えた。


「魔王軍が動き始めた理由、から話したほうがいいですか」

「そうですね、そのほうがわかりやすいです」


ザルクが組んだ手をテーブルに置いた。

「魔王様は、別に世界征服がしたいわけじゃないんです」


レオが「え?」と言った。

「じゃあなんで」と俺は聞いた。


「魔族の居住域が、年々狭くなっていて。 百年前と比べると、三分の一以下になっています」

「なぜですか」

「北の大地が、少しずつ死んでいるからです」

俺は少し考えた。

「地脈の枯渇ですか」

ザルクが目を細めた。


「……詳しいですね」

「北の地脈は、王国側の大規模な魔術開発で流れが変わっています。 十年ほど前から、そういう話は出ていました」

「その通りです。 魔族の土地は地脈の力で維持されています。 流れが変われば、土地が死ぬ」

「それで、南に下りてきた」

「南に場所を確保するしかなかった。 ただ——」

ザルクがため息をついた。


「魔王様は、人を殺したくない。 だから俺たちのやり方は、制圧はするが極力殺さない。 村人を逃がして、拠点だけ確保する」

レオが言った。

「それで、カルダ村の人たちが逃げられたんですか」

「そうです」

「……でも、村人たちは家を失っています」

「わかっています」

ザルクが俯いた。


「やり方が悪いのは、わかっています。 ただ、魔族も追い詰められていて——」

「どのくらいの規模の土地が必要ですか」と俺は聞いた。

ザルクが顔を上げた。

「……王国領の北端、山岳地帯の一部があれば十分です。 人が住めない場所です。 ただ地脈が生きていて、魔族には適した土地です」

「なぜ最初から交渉しなかったんですか」

「交渉しようとしました。 三年前に、魔王様が王国に使者を送りました」

俺は少し考えた。


三年前。 王城にいた頃だ。

「……知りませんでした」

「使者は門前払いされました。 魔族との交渉など、と」

「それで、実力行使になった」

「魔王様は最後まで嫌がっていましたが、このままでは魔族が滅びる。 だから——」

ザルクがエールを一口飲んだ。


「俺に先遣隊を任せました。 できるだけ穏やかにやれ、と」

しばらく沈黙があった。

レオが「……そういう事情だったんですね」と言った。

ゴンが頷いた。

「俺たちも、好きでやっているわけじゃないです」

グラントがまたエールを持ってきた。 ザルクのコップに注いだ。 無言で。

ザルクが少し目を丸くした。


「……ありがとうございます」

グラントが頷いて、戻っていった。

「一つ聞いていいですか」と俺は言った。

「どうぞ」

「村を制圧していくのと、王国と交渉して土地を得るのと、どちらがいいですか」

「交渉のほうが、決まっているじゃないですか」

「ならやりましょう」

ザルクが俺を見た。


「……やりましょう、とは?」

「王国との交渉の仲介を、俺がします」

静かな声で、俺は言った。

「はあ」

「北の山岳地帯の件、筋道を立てれば話が通る可能性があります。 俺には、多少の伝手があるので」

「……伝手、ですか」


「騎士団に一人、貴族に一人、知り合いがいます」

レオが「セルジオさんとロスベルク侯爵ですね」と言った。

「はい」

ザルクがしばらく俺を見た。

それから、少し笑った。

「……農家が魔王軍と王国の仲介をする、というのは」

「面倒ですが、このままのほうがもっと面倒なので」


「そういう理由ですか」

ザルクがため息をついた。

「……助かります。 本当に」


「解決するかどうかは、やってみないとわかりません」

「それでも、試みてくれるだけで」

ゴンが深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「まだお礼は早いです。 ただ——」

俺もエールを一口飲んだ。


「カルダ村の人たちを、村に返してもらえますか?それと制圧を解いてください」

「……それは」

「交渉の前提条件です。 これができないなら、仲介も難しい」

ザルクが少し考えた。


「……わかりました。 明日、カルダ村から引き上げます」

「ありがとうございます」

「こちらこそ」

レオが「あの」と手を上げた。

「ドガ副隊長、いつ起きますか」

「さあ……」

ゴンが「意識はあります」と言った。

「外から声がするので」

「何と言っていますか」

「……『化け物め』と」


「俺のことですか?」

「おそらく」

「農家ですよ?」

(((ホントにそんな農家いると思ってるのかな‥?)))


夕方、ザルクたちが出発した。

明日の朝、カルダ村から引き上げると約束した。

出発の前に、ザルクが言った。

「交渉の件、本当に頼めますか」

「やってみます。 難しければ難しいと言います」

「正直な人ですね」

「嘘をついても仕方がないので」

ザルクが少し笑った。


「またエールを飲みに来ていいですか。 交渉が成立したら」

「どうぞ。 グラントさんに言えば出してもらえます」

「楽しみにしています」

馬に乗った。

ドガが——なんとか立って——馬に乗った。 まだ顔が青かった。


俺を一度だけ見て、目を逸らした。

「副隊長」と俺は言った。

「……なんだ」

「強かったです。 十倍重力に耐えたのは、初めて見ました」

ドガが少し固まった。

「……褒めているのか」

「本当のことを言っています」

ドガが鼻を鳴らした。


それでも、少しだけ顔の青みが引いた気がした。

三百体の列が、北へ向かって歩き始めた。

夕焼けが、街道を橙色に染めていた。


「意外な展開だったね」とレオが言った。

「そうですね」

「まさか話し合いで終わるとは」

「最初からそうすればよかったんです、お互い」

「ガイウスさんって、戦いより話し合いが好きなんですか」


「戦うのは面倒なので」

「どっちが」

「どちらも面倒ですが、戦いのほうが後片付けが大変なので」

レオが笑った。

「相変わらずですね」

空に、星が出始めていた。


リナたちは、まだラッセルにいるだろう。

明日、帰ってくると手紙を出した。


帰ってくる場所が、ある。

それは——悪くない、と思った。


でも王国側が原因なら、進軍は正当な気もしますが、平和的解決にしました。


新作書きました。

お時間ご都合付く方は是非ご覧ください。


魔力ゼロの-人形使い(ドールマスター)

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