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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第24話 村の守り人


話し合いは、一分で終わった。

残念ながら決裂だ。


理由は単純だ。 ザルクの後方から、副隊長が馬を進めてきた。

「隊長、時間の無駄です。 たった一人の農夫に、先遣隊三百が足止めされるわけにはいかない」

ザルクがため息をついた。

「ドガ副隊長——」

「退いてください」

副隊長——ドガが、俺を見た。

大柄な男だ。 全身を黒い鎧で覆っている。

手に、巨大な戦斧を持っている。

「Sランクだろうと何だろうと、一人は一人だ」

俺はザルクを見た。

ザルクが目を閉じた。


「……すいません、ガイウス殿、止められません」

「わかりました」

俺は一歩、前に出た。

「では——」

懐から、黒い魔石を取り出した。

「終わらせます」


最初の一手。

音もなく展開する。


「《重力圧縮・拡散》」

――ドガの周囲、半径三十メートルが、沈んだ。

ずん、と。 地面が鳴った。

遅れて、土煙が上がった。

前列五十体。 全員、動かない。


ザルクが息を飲む音がした。

ドガが動いた。 速い。

二足歩行じゃない速さだ。

「……っ」

地を蹴る。

一瞬、間合いがゼロになる。

斧が横薙ぎに来る、空気が割れた。

たが、俺は動かなかった。


「《障壁》」

火花が散り斧が止まる。

ドガの体が、逆に弾かれた。

三メートル。 後退。 地面を削る。


「——なに」

ドガが目を細めた。

「魔力障壁を、片手で」

俺は右手を上げた。

「《磁場連鎖》」

白い魔石を、地面に弾いた。


磁場が鎖のように連鎖して走る。

金属の鎧を持つ魔獣が、一斉に引き寄せられた。

互いに激突する。

重なって崩れる。


ドガが突っ込んでくる。 今度は斧ではない。

拳だ。 全力の、魔力を込めた拳。

拳の先端が白く光る。

衝撃波が走り、地面が抉れる。

遅れて音が来た。


轟音。

俺はその拳を——

掌で受けた。

「……っ」

ドガが固まった。

「なぜ——」


「硬いですね」

俺は静かに言った。

「Bランク上位、ということでしたが。 本当にそのくらいはある」

「お、俺の全力を——掌で——」

「痛くはなかったですが、少し重かったです」

ドガの顔から、血の気が引いた。


後方の群れが動いた。

百体以上が、一斉に。

速い、統率が取れている。

さすが魔王軍だ、と俺は思った。

同時に、三方向からの包囲。


完成する前に——

「《領域展開》」

一言。

それだけ。

俺を中心に、光が広がった。

輪のように、地面を走り、直径百メートル。

領域に入った全ての魔獣が、止まった。


重力を制御する。十倍。

地面に沈み、押しつぶされて立てない。

動けない。


残りが後退し始めた。

ただドガだけが——まだ立っていた。


両膝をついて震えている。

それでも、立っている。

「……な、なぜ」

「強いですね」と俺は言った。


「十倍重力の中で膝をついたまま耐えるのは、初めて見ました」

「お、俺は——まだ——」


「ですが終わりにしましょう」

「——っ」

俺は領域を一点に絞った。

ドガの真上。

重力が、二十倍になった。

ドガが地面に伏して動かなくなる。

意識はある。 ただ、立てない。

俺は領域を解除した。


静寂。

街道に、砂と土煙が漂っている。

動いているのは、後退した数十体だけだ。

所要時間、二分。


ザルクが、馬の上から俺を見ていた。

目が、少し違う顔をしていた。

驚きでも、恐怖でもない。

どこか——納得したような、顔だ。


「……やっぱり、話し合いにすればよかったですね」

俺は少し考えた。

「副隊長が止められなかったのなら、仕方がないです」

「そうですが」

ザルクがため息をついた。

今日何度目だろう。

「……続けますか?」

「続けても結果は変わりません」

「そうですね」

また沈黙。

ザルクが馬から降りた。


「改めて、話し合いをしませんか」

「最初からそうすればよかったですね」

「おっしゃる通りで」

俺は懐の魔石をしまった。

街道に、風が吹いた。


土煙が流れる。

倒れた魔獣たちが、うめき声を上げている。

だが死んではいない。 気絶しているだけだ。

ドガが地面から顔を上げた。

「……化け物め」

「農家です」

「農家が領域展開するか」

「趣味で魔術をやっています」

ドガがまた地面に顔を伏せた。


ザルクが小声で「副隊長、だから言ったんです」と言った。

ドガが何か言ったが、地面に顔を向けていたので聞こえなかった。


村のほうから、足音がした。

レオとカナが走ってきた。

「ガイウスさん!」

「どうしました」

「エリアさんが術式越しに全部見てて——終わった、って言うから」

「終わりました、多分二分くらいかと」


「二分で!?」

「少し手間取りましたね」

「いや、手間取ってないでしょ!」

カナが静かに状況を見渡した。


倒れた魔獣。 土煙。 膝をついたままの魔物(ドガ)

「……圧倒的ですね」

「まあ」

「さすがです」

「ありがとうございます」

レオがザルクを見た。


「この人は?」

「先遣隊の隊長です。これから話し合いをします」

「話し合い、ね」


「最初からそうすべきでした」とザルクが言った。

レオがしばらくザルクを見た。

それから俺を見た。


「……なんか、雰囲気が似てますね、二人」

「そうですか」とザルクが言った。

「そうですか」と俺も言った。


同時だった。

二人で少し沈黙した。

レオが「やっぱり似てる」と言った。


エリアが術式越しに声を届けてきた。

『ガイウスさん、聞こえますか。 全部見えてました。 みんな、口が開いたまま閉じなくて——』

「問題ないです」

『ゴードンさんが「やはりそうか」って言ってます。 グラントさんが無言で酒を開けました。 マルクくんが地下から出てきて怒られてます』


「わかりました。 これから話し合いを始めますね」

『了解です。 あ、ガイウスさん』

「なんですか」

『お疲れ様でした』

珍しい言葉だった。


「ありがとうございます」

ザルクが俺を見た。

「仲間がいるんですね」

「村の人たちです」

「‥羨ましいですね」


俺は少し考える。

「話し合いをしましょう、立ち話もなんなので、村に来てください」

「……村に、ですか」

「グラントさんのエールが旨いです」

ザルクが目を丸くした。

それから、またため息をついた。


「……わかりました」

空は青かった。

土煙が晴れていく。

街道に、静かな風が吹いた。

スローライフは——今日も、結局、順調だった。

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