第21話 閑話 魔王軍の一日
(魔王軍隊長 side)
カルダ村を制圧して、二日が経った。
先遣隊隊長、ザルク・グレイは、制圧した村の一番大きな家の椅子に座り、天井を見上げていた。
三十代の、体格のいい男だ。
赤い羽根飾りのついた兜が、机の上に置いてある。
「隊長」
部下のゴンザが入ってきた。
二十代の、真面目そうな男だ。
「何ですか」
「南の偵察報告が届きました。 次の目標、エーデル村についてです」
「分かった、報告を」
ゴンザが羊皮紙を広げた。
「人口、約百名前後。 特産物、特になし。 見どころ、特になし。 冒険者ギルドへの登録件数、ほぼゼロ。 これといった戦力なし」
「……楽な任務ですね」
「はい。 ただ——」
ゴンザが少し間を置いた。
「一点だけ、気になる情報があります」
「なんですか」
「最近、エーデル村に関する噂が広まっていて。 Sランク魔術師が農家をやっているという話が——」
「噂は大げさなものだからな」
「はい。 おそらく」
「まぁSランクが辺境の農家をやっているわけがない」
「おっしゃる通りです」
「進めましょう、明後日に」
ゴンザが頷いて、退室した。
ザルクは天井を見上げたまま、ため息をついた。
正直に言えば、この任務は嫌だった。
魔王軍の先遣隊隊長というのは、聞こえはいいが、やることは辺境の村を次々と制圧していくだけだ。
殺すな、という命令があるので、抵抗する人間以外誰も傷つけていない。
ただ、村人たちの怯えた顔を見るのが、毎回つらかった。
「はぁ、向いてないんだよな、こういう仕事」
誰もいない部屋で呟いた。
魔王様に直訴したことがある。
「私、前線の戦闘のほうが向いていると思うので、配置換えをお願いしたい」と。
魔王様は「お前が一番信頼できるから任せている」と言った。
それ以降、言えなくなった。
ため息を三回ついてから、立ち上がった。
明後日に向けて、準備をしなければならない。
翌日。
偵察に出したゴンザが、青い顔で戻ってきた。
「隊長」
「どうしました、そんな顔で」
「エーデル村の情報、追加があって」
「分かった、報告を」
「先月、エーデル村で大規模な魔獣の群れが出たそうです。 スケイルドベア、ダークウルフ、ウィングリザード、シャドウドラゴンザを含む、総数五十体以上が村を襲撃したとのことで」
「それは大変でしたね。 被害は」
「……ゼロです」
「ゼロ?」
「はい。 村の守り人が一人で対処したそうです」
ザルクは少し考えた。
「守り人が何人いる」
「……一人です」
「一人で、シャドウドラゴンザ込みで五十体を」
「はい」
ザルクはしばらく黙った。
「……その守り人の名前は」
「ガイウス・ノアというそうです。 元王立魔術師団の筆頭で、Sランク認定されているとのことです」
「Sランクが農家をやっているわけがないと言ったな昨日」
「はい」
「撤回する、本当なら分が悪すぎる」
ゴンザが深刻な顔をした。
「隊長、どうしますか?」
ザルクは椅子に深く沈んで、天井を見上げた。
「……Sランクが守っている村を、うちの先遣隊で制圧しろと」
「任務上は、そうなります」
「うちの最強が誰か知っているか?」
「Bランク上位のドガ副隊長です」
「BがSに勝てると思うか?」
「……厳しいかと」
「厳しいどころじゃない‥」
ザルクがため息をついた。
今回でため息は何回目だろう。
「本隊に報告して、指示を仰ぎますか?」とゴンザが言った。
「本隊は三週間後にしか来ない、その間に向こうが動いてきたら、どうするのか?」
「……避けますか」
「先遣隊が村を避けて回るのは、任務の失敗だ」
「ではどうすれば」
ザルクは天井を見上げたまま、しばらく考えた。
「……とりあえず、予定通り行こう、それでSランク魔術師に会って話を」
「話、ですか」
「相手がSランクなら、話が通じるかもしれない。 力で押せないなら、交渉するしかないです」
ゴンザが少し考えてから言った。
「……隊長らしいですね」
「褒めていますか?それ‥微妙な褒め方」
ザルクが立ち上がった。
「明日、エーデル村に向かう。 全員に伝令を」
「わかりました」
ゴンザが退室した。
ザルクは窓の外を見た。
南の方向に、小さな村が——見えるわけはないが——あるはずだ。
「Sランクの農家か……」
思わず笑ってしまった。
どんな人間なのか、少しだけ興味が湧いた。
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