第196話 最高の農具完成2
アダマンタイトの黒い波動と、世界樹の緑の生命力、そして黒龍の赤黒い覇気が反発し合い、凄まじい衝撃波となって鍛冶場を揺らす。
「ぐっ……! すごい魔力圧だ! 吹き飛ばされるぞ!」
ドワーフの王子たちが踏ん張りきれずに後ずさる。
「大人しくくっつきなさいよ! これは、あたしたちの誇りなんだからッ!」
ヴェルダが咆哮し、逆鱗にさらなる魔力を流し込む。
反発し合っていた刃と柄の間に、黒龍の逆鱗が熱を帯びてドロドロに溶け出し、強固な『楔』となって入り込んでいく。
「さあ、しっかりと根を張りなさい。ここが、あなたの新しい『土壌』です」
俺はさらに魔力を練り上げ、世界樹の枝に『発根』を促した。
すると、どうだろう。
世界樹の枝の先端から、細くも強靭な黄金の根が無数に伸び、アダマンタイトの漆黒の刃の中へ、まるで土に潜るように深く、深く根を張っていったのだ。
そして、その結合部を、黒龍の逆鱗が強固なリング状の『鍔』となって完全に固定する。
カァァ……!!!
三つの素材が完全に一つに融合した瞬間。
鍛冶場の天井を突き破り、夜空の雲を真っ二つに裂くほどの、凄まじい光の柱が天に向かって立ち上った。
「おおおっ……!!」
「なんという……なんという神々しさだ……!」
光が収まった後。
金床の上には、これまで誰も見たことのない、しかし間違いなくこの世界で最強の『農具』が完成していた。
柄は、持つ者の魔力に呼応して淡く脈打つ、黄金色の世界樹の木肌。
刃と柄を繋ぐ首の部分には、あらゆる魔術を無効化する黒龍の逆鱗が、美しい漆黒のリングとなって装飾されている。
そして刃は、一切の光を反射せず、ただそこにあるだけで空間が歪んで見えるほどの絶対的な質量を持った、巨大なアダマンタイトの漆黒刃。
「……完成しました」
俺は静かに手を伸ばし、その真新しい柄を握りしめた。
ズンッ……! と、腕に心地よい重みが伝わってくる。だが、それ以上に驚くべきは、このクワが俺の魔力と完全に同調し、まるで自分の体の一部のように馴染んでいることだった。
俺が軽く本当に、手首を返す程度に軽く、クワを横に振ってみた。
シュアァァァァァンッ!!!
音も衝撃もなかった。
ただ、俺がクワを振った軌跡の延長線上にある、鍛冶場の分厚いレンガの壁と、その奥にある火山の岩肌が、まるで豆腐でも切ったかのように『スッ』と綺麗に両断され、ズレて崩れ落ちたのだ。
「……ヒィッ!?」
ドワーフの王子が悲鳴を上げて腰を抜かす。
「な、なんだ今の斬撃は……。
魔力を飛ばしたわけでもないのに、離れた岩盤が豆腐のように……!」
ドワーフ王が震えながら目を見開いた。
「どうやら、アダマンタイトの絶対硬度と、世界樹の魔力伝導率が組み合わさった結果、『空間そのものを耕す』ことができるようになったみたいですね」
俺は満足げに刃先を撫でた。
あの『堕ちた正義』の断頭剣は、空間を分断して対象に死を与えてきた。
ならば俺は、この新しい相棒で、その分断された空間ごと『耕して(叩き潰して)』やればいい。
「これなら……ヤマトと魔人たちにも、絶対に勝てますわ!」
メリルが涙ぐみながら両手を握りしめる。
「ふん、当たり前でしょ。あたしの鱗と、あんたの命を半分持っていったんだから、これくらい強くないと割に合わないわ」
ヴェルダも、完成した農具を見て誇らしげに腕を組んだ。
「ガイウス殿。その至高の逸品……なんという名をつけるのだ?」
ドワーフ王が、ゴクリと唾を飲み込んで尋ねてきた。神話級の武器には、それに相応しい名が必要だと思ったのだろう。
俺は少し考え、クワを肩に担いでニコリと笑った。
「『新しいクワ』です。農具に大層な名前は必要ありません。ただ、持ち主の期待に応えて土を耕してくれれば、それで十分ですから」
「あ、新しいクワ……」
そのあまりにも身も蓋もないネーミングセンスに、ドワーフ王たちはズッコケそうになっていた。
「さて、王様。素晴らしい技術と場所を提供していただき、本当にありがとうございました。おかげで、最高の作付け準備が整いました」
俺はドワーフ王たちに向き直り、深く一礼した。
「ヤマトの飛空艇艦隊が、中央大陸に向けて出撃するまで、あと数日。……俺たちはこれより中央大陸へ戻り、あの害虫どもを真正面から『駆除』しに行きます」
「うむ! 我らもこの鍛冶師の街を復興し、後方から支援する手立てを整えよう! ガイウス殿、ヴェルダ殿どうか、ご武運を!」
ドワーフ王たちの力強い声援を背に受けながら、俺たちは鍛冶場を後にした。
夜明けの光が、南の大陸の荒野を照らし始めていた。
最強の素材と、削られた命。そのすべてを懸けて打ち上げられた『新しいクワ』。
これでもう、俺の畑と大切な日常を脅かす理不尽を、許すつもりは毛頭ない。
「行きましょう、ヴェルダ……俺たちの、平穏なスローライフを取り戻すための、農作業です」
俺の言葉に、ヴェルダが力強く頷き、再び巨大な黒龍へと姿を変える。
俺たちは決戦の地、中央大陸の空へと向かって、反撃の狼煙を上げるように力強く飛び立った。
ヤマトと七柱の魔人との、世界の存亡を懸けた最終決戦が、今まさに幕を開けようとしていた。




