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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第161話 勇者の絶望


エルバンを出立し、西の迂回ルートから北上を続けた勇者ケンヤたちは、数週間の旅の末、ついに目的の地――『エーデル村』の入り口へと辿り着いた。


「……なんだこの村。魔王が潜んでるって言うからどんな魔境かと思えば、ただの田舎じゃねえか」


ケンヤが拍子抜けしたように鼻を鳴らす。

目の前に広がっていたのは、どこまでも続く青々とした美しい畑と、定規で引いたように整然と並んだうねだった。


「だねー。こんな泥臭いとこ、私の魔法で一瞬でサラ地にできちゃうし」

リカが退屈そうに指先で火球を弄ぶ。


彼らは村の入り口を無視し、ショートカットをするために一番近くにあった開拓地へとズカズカと足を踏み入れた。

そこには、麦わら帽子を被った数人の男女が農作業をしていた。


その中の一人、黒髪をポニーテールにした少女――人化している黒龍ヴェルダが、木陰でサボりながらトマトをかじっているのがケンヤの目に留まった。

(……へえ、こんな田舎にしちゃ、悪くないツラしてんな。よし、まずはアレを人質にして、村の連中を跪かせてやるか)


ケンヤはニヤリと笑うと、勇者のチートスキル【神速】を発動させた。

瞬きする間もなくヴェルダの背後に回り込み、その細い首筋に、王家から賜った国宝級の魔剣をピタリと突きつける。


「動くなよ、農民ども! この女の命が惜しければ、全員その場に這いつくばれ!」

ケンヤの勝ち誇った声が、長閑な畑に響き渡った。

「きゃー。たすけてー、くびがとんじゃうー」


首に刃を当てられたヴェルダは、微塵も恐怖を感じていない棒読みの声を上げた。

(ふふん、面白そうなのが来た来た。ここは一つ、か弱き村娘のフリをして、ガイウスに助けてもらおうかな)


しかし、その光景を見た畑の住人たちの反応は、ケンヤの予想とは全く異なるものだった。

「……なっ!?」


「き、貴様ら……よりによって『それ』を人質に取るだと……っ!?」

近くで作業をしていた精霊達の血の気が一瞬にして引いた。炎の大精霊イグニスに至っては、クワを取り落としてガタガタと震え始めている。


「あっはは! 見ろよケンヤ、あの大男たち、ビビって震えてやがるぜ!」

ゴウが腹を抱えて笑う。彼らは魔王たちが「少女の命を心配して震えている」と勘違いしていた。


だが、魔界の頂点たる彼らが震えていた理由は全く違う。

彼らは知っていたのだ。

この村における絶対的なヒエラルキーが「ガイウス>野菜>ヴェルダ>その他」であることを。


そして今、この愚かな勇者たちは『ガイウスの畑を踏み荒らし』ながら、『ガイウスの一番の相棒(現場監督)』に刃を向けている。


「……お前ら、自分が何を踏んでいるか分かっているのか……」

イグニスが絶望的な声で呟いた。

ケンヤたちの足元では、昨日彼らが汗水流して育て、ガイウスが我が子のように愛している野菜の苗が無惨に踏み躙られていた。


「あ? なんだこの雑草。こんなもんより、早く魔王ってやつを連れてこいって言ってんだよ!」

ケンヤが苛立たしげに苗を蹴り飛ばした、その瞬間。


スッ……と。

畑の温度が、氷点下にまで急激に下がったように感じられた。

「――俺の大切な畑を荒らし、あまつさえうちの優秀な現場監督に手を出すとは。どうやら、本当に『害獣』以下のようですね」


地を這うような、恐ろしく冷たい声。

いつの間にか、ケンヤたちの目の前に一人の男が立っていた。泥だらけの作業着を着た、一見すればただの農夫。


だが、その瞳には絶対零度の怒りが渦巻いている。

俺――ガイウス・ノアは、踏みにじられた苺の苗を一瞥し、静かにクワを構えた。


「てめえが村長か? いいか、俺は勇者だ! 俺のチートスキル【絶対切断】と【全属性魔法】の前じゃ、てめえらなんて――」


「リカ、ゴウ! やっちまえ!」

ケンヤの合図と共に、ゴウが【剛力無双】のスキルを乗せた拳を振り上げ、リカが詠唱破棄で【極大爆炎】を放った。


砦すら粉砕する拳と、街を消し飛ばす爆炎。

それが俺に向かって迫る。

だが、俺は一歩も動かなかった。


「……農作業において、『害虫駆除』と『除草』は基本中の基本ですよ」

俺は軽く指を弾いた。

発動したのは、攻撃魔法ですらない。

ただの『土壌改良』と『害虫除け』の生活魔法だ。


だが、魔力密度で極限まで圧縮・最適化されたそれは、もはやチートという言葉すら生ぬるい現象を引き起こす。


「なっ……!?」

リカの放った極大爆炎は、ガイウスの周囲に展開された魔力の膜に触れた瞬間、文字通り「フッ」と蝋燭の火のように消滅した。


そして、跳びかかってきたゴウの巨体は、見えない巨大な手に叩き落とされたように、ドガァァァンッ! と凄まじい音を立てて畑の枠外の空き地へめり込んだ。


「あ、アギィィィッ!!? お、俺の体が、動か、ねえッ……!?」

何十倍もの重力に押し潰され、ゴウが白目を剥いて沈黙する。


「な……ば、馬鹿な! 俺のチートスキルが……ッ!?」

ケンヤが驚愕に目を見開く。

「ヴェルダ、少し退いていなさい」

「はいはーい」


俺が声をかけると、人質になっていたはずのヴェルダが、ケンヤの持つ国宝級の魔剣を「二本の指」で摘み、ポキッ、と木の枝のように折ってしまった。


「え……?」

ケンヤが間抜けな声を漏らす。

「か弱き村娘のフリをしてあげたのに、全然ワクワクしなかったわ。あんたたち、魔王軍の雑兵より弱い?」


ヴェルダはケラケラと笑いながら、ケンヤの背中をポンッと軽く叩いた。

ただそれだけで、ケンヤの体はボールのように弾け飛び、ゴウと同じように空き地へと叩きつけられた。


「あ……がっ……! ステータスが……俺の、最強のスキルが……!」

地面に這いつくばりながら、ケンヤは震える手で自身のステータス画面を呼び出そうとする。


しかし、彼の網膜に映し出されたのは、絶望的な文字だった。

【エラー:対象ガイウス・ノアの魔力干渉により、全システムが掌握されました】

【現在の職業:強制労働者】


「さて、害獣の皆さん」

俺は、震える彼らを見下ろしながら、ニコリと完璧な営業スマイルを浮かべた。


「俺の畑を荒らした代償は、体で払ってもらいますよ。……カイン殿、ベルグさん。彼らに『岩盤砕き』の道具を渡してあげてください。もちろん、ノルマが終わるまで水は一滴も出ませんからね」


魔王軍の最高幹部たちが、満面の笑みで巨大なツルハシを持って勇者たちを囲んだ。


かくして、王都を恐怖に陥れた『勇者の脅威』は、エーデル村に足を踏み入れたわずか数分後には完全に鎮圧され、最強の農家によって新たな「無給の労働力」へとジョブチェンジさせられたのだった。


もっとワクワクする展開にできれば良かったのですが‥すいません力不足でした。

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