第157話 特化型・超雑草との死闘
恵みの雨が上がり、雲の隙間から眩しい陽光が差し込み始めた午後。
鈍った体を動かすべく、ガイウスを筆頭とする一行は畑へと足を運んだ。
しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは、想定外の光景だった。
「……な、なんですかこれ……! 私たちが昨日作った畝が、緑のウネウネした化け物に飲み込まれていますわ!」
ウンディーナが指差して悲鳴を上げた。
昨日、精霊たちがミリ単位の調整で作り上げたふかふかの畝。その表面を覆い尽くすように、人間の背丈ほどもある異常なサイズの「雑草」が密生していたのである。
ただの雑草ではない。太い茎は意志を持っているかのように蠢き、葉の先からは微かに魔力の光が漏れ出している。
「なるほど。精霊の皆さんが放つ濃密な魔力と、昨日の雨……。それが混ざり合い、この土地の雑草が『超変異雑草』へと急成長してしまったようですね」
ガイウスが顎に手を当てて冷静に分析する。
「冷静に言ってる場合か! 早く燃やさないと、植えたカボチャの種が栄養を全部吸い取られちまうぞ!」
イグニスが両手に極炎を宿そうとした瞬間、ガイウスの冷たい視線が射抜いた。
「…イグニス。言ったはずです。畑の中でむやみに火を使えば、土の微生物まで死滅すると」
「ひっ……! す、すみません!」
悪魔の農家のプレッシャーの前に、炎の大精霊は瞬時に火を消して直立不動になった。
「農業の基本は手作業だ。雑草は根から引き抜かないと、またすぐに生えてくる。……さあ、全員で草むしりといこうか」
ガイウスの無慈悲な号令により、神話の存在たちによる前代未聞の「雑草との死闘」が幕を開けた。
「ぬおおおッ! 抜けろォォォッ!!」
魔族の皇太子カインが、太い雑草の茎を両手で掴み、全身の筋肉を隆起させて引っ張る。
だが、魔力を吸って岩盤のように根を張ったギガ・ウィードは、ミシリとも言わない。
「カイン様、力任せでは駄目です。根の周りの土を少しずつほぐして下さい」
ベルグが隣でスコップを使い、丁寧かつ迅速に土を退けていく。
その無駄のない繊細な作業は、もはや熟練の職人の域に達していた。
一方、精霊たちは苦戦を強いられていた。
「ノーム! 土を柔らかくして根を浮かせなさい!」
「……ふぁい……うりゃっ」
ノームが地脈を操作しようとするが、雑草の根が複雑に絡み合いすぎており、上手く力を伝えられない。
「ええい、もどかしい! 私の風の刃で根元から刈り取って――キャアッ!?」
シルフィードが魔法を使おうとした瞬間、危険を察知したギガ・ウィードのツルが鞭のようにしなり、彼女の足首に巻きついた。
そのまま逆さ吊りにされる風の大精霊。
「ちょ、ちょっと! 離しなさい! 私は大精霊の――」
パシンッ!
雑草の分厚い葉が、シルフィードの頬を容赦なくビンタした。
「……ぶっ。風の大精霊が草にビンタされてるわ」
ヴェルダが腹を抱えて笑い転げる。
「笑ってないで助けてくださいませーッ!!」
「しょうがないわね。ほら、どきなさい!」
ヴェルダが前線に飛び出し、素手でツルを引き千切る。
そこからは、泥と汗にまみれた総力戦だった。
カインとベルグが前衛として太い茎を抑え込み、精霊たちが魔力を薄く纏わせた手で根を傷つけないように掘り起こす。
ヴェルダが引き抜いた巨大な雑草を後方へ放り投げ、それをガイウスが手際よく細かく切り刻んでいく。
数時間後。
畑は、ようやく元の美しい畝の姿を取り戻していた。
「……終わった……。草むしりで、北の開拓地を耕すくらい疲れたぞ……」
カインが泥だらけになって仰向けに倒れ込む。
シルフィードは草の汁と泥でドロドロになりながら、虚ろな目で宙を見つめていた。
「皆さん、お疲れ様。素晴らしい連携でした」
ガイウスが満足げに頷き、切り刻まれた大量のギガ・ウィードの山を指差した。
「これほど高濃度の魔力を吸い込んだ雑草は、発酵させれば『極上の魔法堆肥』になる。皆さんの苦労は、必ず美味しいカボチャとなって返ってくるはずです」
その言葉を聞いた瞬間、疲労困憊だった精霊たちと魔族の目に、ギラリと猛禽類のような光が宿った。
「極上の……魔法堆肥……!」
「ということは、あの甘くて美味しい野菜が、さらに美味しくなるんですのね……!」
「あんなに苦労したんだ。絶対に一番美味いところを食ってやるからな……!」
精霊達が震える拳を握りしめる。
精霊の存在すらも、今やすっかり「収穫の喜び」という名のスローライフの虜になっていた。




