第154話 私利私欲の救世主たち
エリアルド王国の王都から離れた、魔族領との国境に近い要衝都市・エルバン。
かつては活気あふれる交易都市だったこの場所は今、静まり返った恐怖の街へと変貌していた。
街の至る所には、エリアルド王国の国旗と共に、逆三角形に剣と魔法杖をあしらった歪な紋章――『勇者軍』の旗が掲げられている。
召還からわずか数週間。
アルベルト王から「魔王討伐のための全権」と「無制限の資金援助」を与えられた三人の勇者――ケンヤ、ゴウ、リカは、王都での贅沢な暮らしに早々に飽き、自らの力を誇示し、欲望を満たすための「遊び場」として、この前線都市を選んだのだ。
都市の中心にある大公の館は、今や勇者たちの私的な宮殿と化していた。
「……チッ、この街の飯は最悪だな。王都の五ツ星シェフを拉致ってこいって言っただろ、アホ共が」
かつての大公の玉座に、泥のついたブーツのまま踏んぞり返っているケンヤが、高級な銀食器に盛られた料理を床に投げ捨てた。
彼の網膜に浮かぶステータスは、王都での「強化」経て、さらに跳ね上がっている。
【名前:ケンヤ】
【職業:大勇者】
【レベル:75】
【ユニークスキル:『限界突破』『絶対切断』『全属性魔法適性』……】
「ひ、ヒィッ……! す、すぐに手配いたしますわ、勇者様!」
床に這いつくばり、怯えながら床に散らばった料理を拾い集めるのは、この都市の有力貴族の令嬢たちだ。
彼女たちはケンヤの「世話係(奴隷)」として、無理やり館に連れ込まれていた。
「おいケンヤ、飯なんてどうでもいいだろ。それより、あのギルドの地下にあるっていう『伝説の武具』、早く取りに行こうぜ」
ゴウが、館の柱を素手で粉砕しながら退屈そうに言った。彼の身体は以前よりも一回り巨大化し、その肌は鋼鉄のような鈍い光沢を帯びている。
「あー、あの『聖なる盾』とかいうやつ? どうせ俺たちのチート能力の前じゃ、ただのガラクタだろ。……まぁ、ゴウのおもちゃにはちょうどいいか。おい、ギルド長をここに連れてこい。拒否したら、その家族全員をゴウの『筋力テスト』の標的にするって伝えろ」
ケンヤの冷酷な命令に、周囲に控えていた勇者信奉者の兵士たちが、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら動き出す。
彼らは勇者の威光を借りて、街で略奪や暴行を繰り返す、人間のクズ共だ。
一方、リカは館のバルコニーで、街を見下ろしながら退屈そうに指先で小さな炎の球を弄んでいた。
「ねえケンヤ、この街の男たち、みんな地味でつまんないー。
もっとキラキラした、高級な宝石とかドレスとかないの? この国の王様、何でもくれるって言ったじゃん」
「リカ、宝石なら、あの商業地区のデカい商館にあるだろ。……あそこ、まだ俺たちに『上納金』を渋ってる生意気な連中だ」
ケンヤがニヤリと笑う。
「へえ、上納金を渋るんだ。……じゃあ、ちょっと『お仕置き』してあげようかな」
リカが不敵に笑うと、詠唱もなく魔法陣を展開した。
【ユニークスキル:『無限魔力』発動】
【極大魔法:『爆炎の嵐』展開】
「あははっ! 燃えちゃえ、ケチな商人たち!」
リカが指先を街に向けると、商業地区の中央にある巨大な商館に向かって、太陽のような灼熱の光線が降り注いだ。
ドガァァァァァンッ!!
爆音と共に、商館は一瞬にして灰燼に帰し、周囲の建物も爆風と炎に包まれた。街の人々の悲鳴と、燃え盛る炎の音がバルコニーまで届いてくる。
何百人もの無辜の民が、ただの一時の「気まぐれ」によって、命と財産を奪われたのだ。
「ハッハッハ、リカ、やるじゃねえか! あの爆発、最高だぜ!」
ゴウが手を叩いて喜び、ケンヤも興味深げに炎を眺めている。
彼らにとって、この世界の人間は、自分たちを楽しませるための「NPC」に過ぎない。
「……これで少しは、この街の連中も『誰が主人か』を理解しただろ」
ケンヤは立ち上がり、怯えるメイドの髪を掴んで引き寄せた。
「俺たちは勇者だ。世界を救う特別な存在なんだ。だから、この世界のすべては俺たちのものだ。金も、女も、土地も、すべてな」
欲望にまみれた勇者たちは、エルバンの街を恐怖で支配し、さらなる暴虐を尽くそうとしていた。
彼らの視線はすでに、国境の向こう側――魔族領へと向けられている。
「待ってろよ、魔族共。俺たちのチートスキルで、お前らの土地を更にして、最高の『遊び場』にしてやるからな……!」
ケンヤが下卑た笑い声を上げ、ゴウとリカもそれに続く。
彼らは自分たちが、神にも等しい存在だと信じて疑わなかった。




