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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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閑話 IF 農家、ロックスターを目指す

(*)本編とは関係のない“もしも“お話です。


「……ガイウスさん。昨日から木を削ったり、鉄の線を張ったりしてますけど、その奇妙な形の板はなんですか?」


エーデル村の穏やかな昼下がり。

作業小屋で黙々と工作を続ける俺に、宿屋の看板娘であるリナが不思議そうな顔で尋ねてきた。


「ああ、これですか? これは『魔導増幅式・六弦鳴器』……前世の言葉で言えば、エレキギターという『農具』です」


「の、農具? どう見ても楽器にしか見えないんだけど……」

「楽器であり、農具です」


俺は完成したばかりの、世界樹の枝(南の森で拾った)を削り出して作った真紅のギターを磨きながら、真面目な顔で解説を始めた。


「古代の文献や、俺の前世の農学研究においても『植物に特定の周波数の音楽を聴かせると、細胞が活性化して成長が促進される』というデータがあります。

特に、激しい重低音と振動は、葉の気孔を開かせ、光合成の効率を爆発的に高める効果が期待できるのです」


「……つまり?」

「つまり、畑の中心で最高にロックな爆音を奏でれば、うちのキャベツはさらに甘く、大きく育つというわけです」


俺が力強く断言すると、リナは「またこの人、農業のために変なこと言い出した……」と呆れたように額を押さえた。


だが、そこにバンッ!と作業小屋の扉を開けて乱入してくる影があった。

「聞いたわよガイウス! 爆音を鳴らすんでしょ!? ドラムは私に任せなさい!!」


エプロン姿の黒龍ヴェルダだ。

彼女は「大きな音」や「派手なこと」が大好物である。すでに彼女の両手には、どこから持ってきたのか、丸太から削り出した巨大なドラムスティックが握られていた。


「ふむ、ヴェルダさんの体力なら、強烈なビート(振動)を大地に刻めそうですね。採用です。……エル、あなたにはこれを」


「えっ? わ、私ですか?」

見学に来ていた魔族のエルに、俺はミスリルの極太弦を張った『魔導ベース』を手渡した。

「エルの魔族特有の深淵な魔力は、重低音と相性が良い。植物の根に直接響くような、魂のベースラインをお願いします」


「魂の、ベースライン……。わ、わかりました。農作業の一環ですね、頑張ります……!」

エルが真面目な顔で、重いベースを首から下げる。


「おおぅ! 師匠! ならばこのエリック、見事なボーカルで天使エルの隣に立とうではないか!」


「殿下はそこで手拍子でもしていてください。ボーカルは、生産者である俺がやります。作物に直接、愛情メッセージを届けなければなりませんからね」


「そんな殺生なッ!」

こうして、エーデル村の歴史上初となる、超絶異色の農家ロックバンドが結成された。



その日の夕方。

夕焼けに染まる広大なキャベツ畑の中央に、俺は雷の魔石を利用した巨大なアンプ(魔導スピーカー)を設置した。


「テステス……。マイクの魔力伝導、良好。ディストーション(歪み)のエフェクトも完璧ですね」


俺は漆黒のローブを脱ぎ捨て、なぜかヴェルダが用意した「トゲトゲのついた革ジャン」というロックな出で立ちでマイクスタンドの前に立った。


背後では、ヴェルダが複数の空き樽を組み合わせた巨大ドラムセットに座り、エルがおっかなびっくりベースの弦を弾いている。


「いいですか、二人とも。ターゲットはあの収穫間近のキャベツたちです。

細胞壁を震わせ、旨味成分のアミノ酸を極限まで引き出しますよ」


俺はエレキギターを構え、アンプのボリュームを最大(MAX)まで捻った。


「さあ……行くぞ、キャベツ共ォォォッ!! 俺のメッセージを聴いて、窒素を吸い上げろォォォッ!!」

『ギュイィィィィィィィィィィィィィィンッッ!!!』


俺の指先が弦を弾いた瞬間。

魔術によって増幅された、鼓膜を突き破るような爆音のギターリフが、静かな辺境の村に轟き渡った。


「ドコドコドコドコドコドコッ!! アハハハハ! 最高ねこれ!!」

「ええええいっ! 【深淵の重低音】!!」

ヴェルダのドラムが地震のような地響きを起こし、エルのベースが空気をビリビリと震わせる。


それに合わせて、俺は前世の農学知識をフルに詰め込んだ「自作のロックナンバー」を、デスボイス気味に熱唱した。


「土壌のペーハー(pH)! 6.5から7.0ォォォッ!!」

「水はやりすぎるな! 根腐れするぜェェェッ!!」


「窒素! リン酸! カリウムゥゥゥゥッ!! 俺たちはお前を愛してるゥゥゥッ!!」

ズンチャカズンチャカ、ギュイィィィンッ!!

Sランク魔術師と、神話の黒龍と、高位魔族による、文字通り「物理法則を揺るがす本気のライブパフォーマンス」。


するとどうだろう。

その強烈な音波と魔力の振動を受けたキャベツたちが、目に見えてブルブルと震え出し、ポンッ! ボムッ! と音を立てて、その場で倍以上のサイズへと異常成長を始めたではないか。


「おおぅ……! キャベツが、キャベツが踊っているぞ……!」

少し離れた場所で耳を塞いでいたエリック殿下が、驚愕の声を上げる。


「なんかもう色々ツッコミたいけど、作物が育ってるなら正解なの!? これが農業なの!?」

リナも大声で叫びながら、キャベツの謎の熱気に当てられて思わず手拍子をしている。


「サンキュー、エーデル村! お前ら、最高の葉の巻き具合だぜェェェッ!!」

俺の渾身のギターソロが夕暮れの空に響き渡り、狂乱の農家ライブは、キャベツたちが限界までパンパンに実ったところで大成功のうちに幕を閉じた。



翌朝。

「……ガイウスさん。これ、どうするの」

「……やりすぎましたね。音楽の力、恐るべしです」

畑の前に立った俺とリナは、無言で立ち尽くしていた。


そこにあったのは、一つが「馬車の車輪」ほどもある、規格外の超巨大キャベツの山だった。

「これ、包丁通るかなぁ……」


「私が【真空刃】で千切りにしておきますから、今夜は村の皆でキャベツパーティですね」


俺は少しだけ耳鳴りが残る頭を振りながら、自身の農具エレキギターを見つめた。


「ふむ……ロックがキャベツに効くなら、イチゴやトマトには甘く切ないバラードが良いかもしれません。アコースティックギターを錬成して、今夜は弾き語りを試してみましょうか」


「もうやめて!! ご近所迷惑だから!!」

元宮廷魔術師による、飽くなき農業探求のスローライフ。


彼の名が「伝説の農家」としてだけでなく「伝説の吟遊詩人」として歴史に刻まれる日は、そう遠くない……のかもしれない。

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