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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第137話 開拓開始2


「エンジン、始動」

俺がメインキーとなる魔力回路を接続した瞬間。

カッ……! と、車体中央に組み込まれた【炎精の宝玉イグニス・コア】が真紅の輝きを放った。


ドゥルン……ドゥルルルルルルルルルルルッ!!

腹の底に響くような、凄まじい重低音が砂漠に轟いた。

炎の大精霊の持つ無尽蔵の熱量が、俺の刻んだ術式によって純粋な「回転エネルギー」へと変換され、巨大な装軌キャタピラに恐るべき馬力を供給し始める。


「ひぃッ!? な、なんだこの轟音は! 獣の咆哮か!?」

外で見ていたエリック殿下が、耳を塞いで後ずさる。

「続いて、水源の確保。ウンディーナ・コア、冷却開始」


俺がコンソールのスイッチを入れると、車体上部のミスリル製タンクが急速に冷却され、真っ白な冷気を吹き出し始めた。

周囲の大気から水分を強制抽出する『絶対零度式・無限浄水タンク』が、ゴボゴボと音を立てて純水を生み出し始める。


「そして――破砕刃、展開」

俺が右手にある重厚なレバーをガコン、と手前に引いた。

すると、トラクターの後部に取り付けられていた巨大な一本の「スキ」が、油圧と魔力の力でゆっくりと下がり、鋼鉄のような砂漠の地面へと突き立てられた。


その刃の先端には、黄褐色の【土精の宝玉ノーム・コア】が組み込まれている。


「【疑似重力場・最大出力グラビティ・マックス】。……さあ、道を開けなさい」

俺がアクセルペダルを静かに踏み込んだ。

バキィィィィィィィィィィィィィンッッ!!

トラクターが前進を始めた瞬間。


剣の柄で叩いても傷一つ付かなかったガラス状の岩盤が、まるで薄い氷のように、いや、砂糖菓子のように、凄まじい音を立てて「自壊」し始めた。

「な、なんだとォォォォッ!?」

エリック殿下が目玉が飛び出そうなほど目を見開いて叫ぶ。


刃が直接岩盤を削っているのではない。

刃の周囲十センチに展開された「数百倍の局所重力」が、接触した岩盤を物理的に押し潰し、微小な砂利のレベルまで完全に粉砕しているのだ。


深さ十メートルの硬盤層が、トラクターの前進と共に、波が割れるように真っ二つに引き裂かれ、ふかふかの土へと強制的に変換されていく。


さらに、ただ砕くだけではない。

シューゥゥゥゥォォォォッ!!

粉砕されたばかりの土の中に、トラクターの後部から『摂氏六十度の温風(イグニスの排熱)』と『純水(ウンディーナの生成水)』が同時に噴射された。


極度に乾燥し、冷え切っていた土壌が、適度な水分と熱を与えられ、白い湯気を上げながら「生命を育むベッド」としての一歩を踏み出したのだ。


ゴォォォォォォォォォォォォッ!

俺が乗る神話級トラクターは、死の砂漠を時速数十キロという規格外の速度で爆走しながら、その後ろに、幅十メートル、深さ十メートルの完璧に耕され、保温・加湿された極上の畑のラインを一本の道のように残していく。


「お、おおぅ……! 大地が、大地がまるでバターのように切り裂かれていく……! これが、師匠の本気……!」


「すごい、すごおおおおおいっ! ガイウスさん、かっこいいーっ!!」

土煙と水蒸気を上げながら疾走する黒い重機に向かって、リナが両手を振って歓声を上げている。エルも言葉を失い、ただただその神がかった光景を見つめていた。


数キロほど直進し、広大な砂漠に「一本の巨大な畑の道」を作ったところで、俺はトラクターをUターンさせ、皆の待つ場所へと戻ってきた。


プシューッ、と排気音を立ててエンジンをアイドリング状態に戻し、コックピットから降りる。

「……ふむ。刃の入り具合、水分の浸透率、温度の保持力。どれも設計通りですね。ノームの重力破砕は、やはり岩盤に対して特効があります」

俺は自身が耕したばかりの土を手に取り、その感触を確かめて満足げに頷いた。


「し、師匠……! これは、奇跡だ……! たった一往復で、あの死んだ大地が、ふかふかの土に変わっているぞ……!」


エリック殿下が、耕されたばかりの土のラインに飛び込み、両手で土をすくい上げながら涙を流していた。


温かく、適度な湿り気を帯びたその土は、すでに農業の土台として十分なポテンシャルを取り戻している。

「喜ぶのはまだ早いですよ、殿下。これはあくまで『物理的な土台』ができただけです」


俺は麦わら帽子を直し、果てしなく続く灰色の砂漠を見渡した。

「家で例えるなら、基礎工事が終わっただけの状態。この土には、植物が育つための『栄養(養分)』と、それを分解する『微生物』が全く存在していません。このまま種を蒔いても、もやし一本育たずに枯れてしまいます」


「むっ……そうか。では、どうするのだ? 王都から肥料を取り寄せるか?」

「数万ヘクタールの農地をまかなう肥料となれば、王都中の馬車を使っても何年かかるか分かりません。それに、俺の要求するレベルの極上の堆肥など、市場には出回っていませんから」

俺は不敵な笑みを浮かべ、南の砂漠のさらに奥――かつてエルフたちが潜んでいた森の方角へと視線を向けた。


「肥料がないなら、現地調達するまでです。この砂漠の生態系を狂わせた元凶たちに、少しばかり『有機物』として協力してもらいましょう」

「……ゆ、有機物? まさか師匠、エルフどもを肥料にするつもりでは……!?」

エリック殿下が青ざめて後ずさる。


「人聞きの悪いことを言わないでください。俺が狙っているのは、彼らが使役していた大量の『魔獣』や、この死の砂漠に棲み着き始めた『高ランクの魔物』たちです。彼らの肉や骨、魔素を含んだ体液は、発酵させれば最高級の肥料になりますからね」


規格外の農家による緑地化プロジェクト。

その第二段階は、まさかの「極上堆肥の現地錬成(という名の魔物大虐殺)」へと移行しようとしていた。


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