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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第136話 開拓開始

王都から南へ。

黒龍ヴェルダの背に乗った俺たちは、眼下に広がる王国の豊かな緑を眺めながら、一直線に国境地帯へと向かっていた。


やがて、その「境界線」はあまりにも唐突に現れた。

緑豊かな平原が、ある一本の線を境に、不気味なほどの灰色へと変色しているのだ。

草木は愚か、虫一匹、鳥一羽の姿もない。ただ見渡す限りの広大な荒野が、南の地平線の彼方まで延々と続いている。


「……うわぁ。上から見ると、本当に何もないね……」

リナが、ヴェルダの背中の上で身を乗り出しながらポツリと呟いた。


魔族のエルも、自身の腕をさすりながら不安げに目を細めている。

「ええ……。空気中にも、地中にも、魔力の気配マナが全く感じられません。本当に『死んでいる』土地なんですね……」


星の地脈から魔力を強制収奪し、超高温と絶対零度、そして異常重力によって踏み荒らされた絶望の大地。それが、エルフの異形と三大精霊が残した『死の砂漠』の全貌だった。


『着くわよ! 振り落とされないようにね!』

ヴェルダの思念が響き、黒龍が巨体を大きく傾けて降下を開始した。

ドズゥゥゥンッ!!


という重い地響きと共に、灰色の砂漠のど真ん中に着陸する。巻き上がった砂煙が晴れるのを待って、俺たちはヴェルダの背から降り立った。


「……これは、ひどいな」

地面に足をついたエリック殿下が、足元を確認して顔をしかめた。

「砂漠と聞いていたが、砂というより……カチカチの岩盤ではないか。まるでガラスか鋼鉄の上に立っているようだ」


エリック殿下が腰の剣を抜き、柄の尻で地面を思い切り叩きつける。

カァンッ! と甲高い音が響き、剣の柄が弾き返されただけで、地面には傷一つついていなかった。


「イグニスの超高温で砂がガラス状に融解し、ノームの異常重力で極限まで圧縮されていますからね。この硬盤層は地下数十メートルまで続いています」


俺は麦わら帽子のツバを押し上げながら、淡々と解説した。

「通常のクワやスキを突き立てれば、一瞬で刃が折れます。そして、この硬い層が蓋をしているせいで、雨が降っても水は地中に浸透せず、植物の根も張ることができない。これが、この土地が死んでいる最大の理由です」


「な、なるほど……。兄上たちが頭を抱えるわけだ。これを人海戦術で砕くなど、何百年かかるか分かったものではないぞ」


絶望的な顔をするエリック殿下をよそに、ヴェルダが人間の姿(エプロン姿)に戻りながらため息をついた。

「ハァ、さっさとその鉄の塊を下ろしてちょうだい。背中が重くて肩が凝ったわ」


「お疲れ様です、ヴェルダ。……殿下、エル。トラクターを下ろすのを手伝ってください」


ヴェルダの背中にロープで固定されていた巨大な漆黒の重機――『神話開拓用・多目的魔導トラクター壱型』の固定を外し、エルの影の魔法と俺の【重力操作】を併用して、静かに大地へと降ろす。


ズゥゥゥン……。

全長十メートルを超える鉄の巨獣が、死の砂漠に降り立った。

その威容は、荒涼とした灰色の風景の中で異様なほどの存在感を放っている。


「さて。では、さっそく『耕運こううん』のテストを始めましょうか」

俺はトラクターの側面に備え付けられたタラップを登り、運転席コックピットへと乗り込んだ。


“前世の記憶“を頼りに錬成したため、操作系統はハンドルといくつかのレバー、ペダルというシンプルな構造になっているが、コンソールパネルには魔力残量や精霊コアの出力状況を示す魔法陣がホログラムのように浮かび上がっている。



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