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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第130話 村のおのぼりさん


黒龍特急のあまりの速度に、エーデル村の一行が完全に魂を抜かれている間に、俺たちは王都の郊外へと到着した。


いきなり巨大な黒龍の姿で王都の中心に降り立てば、防衛システムが誤作動を起こし、市民がパニックになってしまう。

そのため、王都から少し離れた平原に降下し、ヴェルダには人間の姿に戻ってもらった。

「ほら、着いたわよ! 早く王宮に乗り込んで、ろーるけーきを出させなさい!」


エプロン姿に戻ったヴェルダは、王都の高い城壁を見上げて鼻息を荒くしている。


一方、俺の結界の中で気を失いかけていた三人組は、地面に足がついた途端、へたへたと座り込んでしまった。

「あ、あああ……地面が、揺れてない……」

「生きてて、よかった……」


リナとエルが涙目で抱き合っている。グラントさんも、心なしか顔色が悪かった。

「気分はどうですか? 乗り物酔いには、特製のミント系の薬草がありますが」


俺が声をかけると、三人は首がもげるほど激しく横に振った。どうやら少し休めば歩けそうだった。

気を取り直して、俺たちは王都の正門をくぐった。


厳重な検問も、宰相からの招待状を見せようとした所で、衛兵たちは直立不動で敬礼し、顔面を蒼白にしながら道を開けた。


そして、王都のメインストリートへ足を踏み入れた瞬間――村の面々は、完全に目を奪われていた。

「すごい……! ガイウスさん、見て! 道が全部、綺麗な石で敷き詰められてる!」


リナが、石畳を靴の底でトントンと叩きながら目を輝かせている。

「建物が……三階建ても、四階建てもあります。こんなに高い建物が倒れないなんて、魔法みたいだ……」


エルも、キョロキョロとせわしなく周囲を見渡していた。魔族の彼女にとって、人間の巨大な都市は未知の領域なのだろう。

無口なグラントさんに至っては、通り沿いにある巨大な酒屋のディスプレイ――見たこともないような細工が施された酒瓶の山に釘付けになり、微動だにしていなかった。


「はぐれないでくださいよ。迷子になっても、探す魔法を使うのは面倒ですから」

俺は保護者のようにため息をつきながら、彼らの背中を押した。


「あはは、ごめん! だって、人がアリみたいにいっぱいいるんだもん! すれ違う人、みんな綺麗な服着てるし!」

リナの言う通り、王都のメインストリートは貴族や豪商、身なりの良い市民でごった返していた。そんな中、麦わら帽子を被った俺や、素朴な村の服を着たリナたちは、絵に描いたような『田舎のおのぼりさん』だった。


ヴェルダはといえば、王都のあらゆる方向から漂ってくる甘い匂いや肉の焼ける匂いに釣られ、右へ左へとフラフラ歩いている。


「ねえガイウス! あそこのクレープっていうの、美味しそうよ! こっちの串焼きも、リナのより大き――痛っ!?」

俺はヴェルダの首根っこを掴んで引き戻した。


「買い食いは禁止です。王宮で最高級のフルコースとろーるけーきが待っているんでしょう? 今胃袋を満たしてどうするんですか」

「うっ……! そ、それもそうね。我慢よ、私……!」


龍の食欲と葛藤するヴェルダを横目に、俺たちは歩みを進めていた。

――だが、そんな田舎者丸出しの隙だらけの集団が、王都のゴロツキたちの目に留まらないはずがなかった。


「おいおい、どこのド田舎から迷い込んできたネズミちゃんたちだ?」

路地裏から、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた数人の男たちが現れ、俺たちの行く手を塞いだ。


身なりは良いが、腰に剣を帯び、目つきが鋭い。

王都の裏路地を仕切るチンピラの類だろう。

「そっちの可愛いお嬢ちゃんたち、王都は初めてか? 俺たちが『特別に』案内してやろうか。いい店を知ってるんだ」


男の一人が、リナとエルにじりじりと詰め寄る。

「えっ……結構です。私たち、急いでるんで……」

少しリナが怯えて一歩下がり、エルは咄嗟に自らの角を隠すように俯いた。


「つれないこと言うなよ。田舎者だけで歩いてたら、身ぐるみ剥がされるぜ?」

男が、リナの腕を強引に掴もうと手を伸ばした。

「――そこまでです」


俺は間に割って入り、男の手を払いのけた。

面倒なことになった。

ただでさえ早く王宮での用事を済ませて畑に帰りたいのに、こんな雑草チンピラの相手をしている暇はない。


「あ? なんだお前、薄汚えローブ着やがって。農民の分際で俺たちに逆らうとどうなるか――」

男が腰の剣に手をかけた、その瞬間だった。

「【局所重力・根固め】」


俺が小さく指を鳴らした直後。

「「「――ッ!?」」」

チンピラたちの体が、まるで透明な巨人に頭から踏みつけられたように、石畳にめり込むほどの勢いでへたり込んだ。

彼らの足元だけが、通常の数十倍の重力で大地に縫い付けられているのだ。


「ひ、ひぃぃぃッ!? なんだこれ!? 体が、動かねえ……!」

「農業の基本です。土から不要な雑草を抜く時は、まず根元をしっかり押さえてから引き抜く。……あなたたちも、このまま王都の石畳の養分になりますか?」


俺が冷たい視線で見下ろすと、男たちは恐怖に顔を歪ませ、ガタガタと震え出した。

ヴェルダが「もう、さっさと燃やしちゃえばいいじゃない」と物騒なことを言っている。


その騒ぎを聞きつけてか、通りを割るようにして、白銀の鎧に身を包んだ王立近衛騎士団の一隊が駆けつけてきた。


「そこな者たち! 往来で何事だ――ッ!?」

駆けつけてきた小隊長は、石畳にめり込んでいるチンピラたちを見てから、俺の顔を視界に捉え――そして、カッと目を見開いてその場に直立不動となった。


「ガ、ガ、ガイウス様ァァァッ!!?」

小隊長の悲鳴のような敬礼に、続く騎士たちも一斉にガチャリと姿勢を正し、道行く市民たちが何事かと足を止める。


「お、お出迎えに上がりました! ハーヴェル宰相閣下より、直々にガイウス様とエーデル村の皆様を王宮へご案内するよう仰せつかっております!!」

小隊長のあまりの剣幕と、彼らが「ガイウス」と呼んだその名前に、地面に這いつくばっていたチンピラたちの顔からスゥッと血の気が引いていった。


「ガ、ガイウス……? まさか、あの南の災害を一人で鎮めたっていう、王国の救世主……!?」

「ひ、ヒィィィィッ! お助けぇぇッ!」

チンピラたちは白目を剥いて完全に気絶してしまった。


「……大げさなお出迎えですね。目立って仕方がありません」

俺がため息をつくと、騎士たちは慌てて豪華な大型の馬車を通りに引き入れてきた。


「さあ、リナ、エル、グラントさん。乗ってください。こんなところで立ち話をしていると、王都中の見世物になってしまいますから」


「は、はい……! なんか、ガイウスさんって本当にすごい人だったんだね……」

リナが尊敬と少しの戸惑いが混ざったような顔で馬車に乗り込む。


「ふふん、さあ、王宮へカチコミよ! 幻のろーるけーき、首を洗って待ってなさい!」

ヴェルダが一番意気揚々と馬車に乗り込み、俺もそれに続いた。


周囲の市民たちのどよめきと、騎士団の厳重な護衛に囲まれながら、俺たちエーデル村の「おのぼりさん御一行」を乗せた馬車は、王都の中心にそびえ立つ壮麗な王宮へと向かってゆっくりと走り出した。


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