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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第128話 宰相の華麗なる?提案

エルフの帝国軍を退け、三大精霊を「農業資材」へとリサイクルしてから数日後。


王国の南半分は、瘴気と異常気象の爪痕によって甚大な地形的被害を受けていた。


だが、エリック殿下やファレルによる迅速な避難誘導、そして俺が物理的な【地殻隆起】で逃げ遅れた民を北へ飛ばした甲斐もあり、奇跡的に死傷者はそこまで多くないらしい。


王都自体も無傷であり、現在は国を挙げての急ピッチな復旧作業が開始されている。

俺の特製レタスとキャベツも無事に収穫を終え、エーデル村には再び完璧で穏やかなスローライフが戻ってきていた。


――だが、王国上層部には、一つの大きな「懸案事項」が残されていた。

「……というわけで、頼む! ガイウス、一度でいいから王都の王宮まで来てくれ!」

エーデル村の広場。


空間にホログラムのように浮かび上がった通信魔石の映像越しに、宰相ハーヴェルが血走った目で頭を下げていた。

その後ろでは、文武の百官たちも揃って平伏している。

「今回、お前が一人で……いや、黒龍殿と共に南の脅威を退けてくれなければ、王国は間違いなく滅亡していた。このままでは、国を救った大英雄に対して何の報いもしていないことになり、王国としての面子が立たない! 民の気も済まないのだ!」


「お断りします」

俺は手に持っていたクワを置き、首に巻いたタオルで汗を拭いながら即答した。


「俺はすでに宮廷魔術師を解雇された、ただの農家です。国を救った英雄などという大層な肩書きは必要ありませんし、面倒な式典に出る暇もありません。これからは夏野菜に向けた土作りの準備で忙しいので」


『そ、そこを曲げて!そうだ! 爵位はいらんか!? それとも領地か!? 金貨なら山ほど用意する! なんなら私が土下座でもなんでもするからぁぁっ!』

(宰相が壊れた…)


涙目で懇願してくるかつての上司に、俺は冷ややかにため息をついた。

「金や地位には興味がないと言っているでしょう。そんなものをもらっても、俺の畑のトマトが甘くなるわけではありません。では、通話はこれで――」


『ま、待ってくれ! 頼む!』

俺が通信を切ろうとした瞬間、ハーヴェルが早口で叫んだ。

『お、お前一人だけとは言わん! そっちにいる皆も招待したいのだ! いつも世話になっているという宿屋の娘さんや酒場の店主、それに……その、魔族の娘さんもだ!』


その言葉に、広場のベンチでエール樽を運んでいたエル(魔族の娘)が、ピクッと耳を動かしてこちらを見た。


「……えっ、私ですか? 魔族の私が、王宮に招待されるなんて……歴史上でも聞いたことがありませんよ?」

「私も!? え、嘘、王都のお城に行けるの!?」

「……俺もか」


リナが目を輝かせ、無口なグラントさんがグラスを拭く手を止めて呟く。

ハーヴェルは必死に頷いた。


『そうだ! もちろん、黒龍殿も大歓迎だ! どうか、エーデル村の皆様へのお礼も兼ねて、王宮での最高級の晩餐会に参加していただけないだろうか! 国を挙げて、最高のおもてなしを約束する!』


「……最高のおもてなし、ねえ」

ふいに、通信魔石の前にぬっと影が差した。

エプロン姿の黒龍――ヴェルダが、腕を組んでホログラムのハーヴェルを見下ろしていた。


「最高級の晩餐会って言うけど、わらわを満足させられるだけの料理が王都にあるの?」

『ひぃっ!? こ、黒龍殿! もちろんでございます! 王宮が誇る三ツ星の料理人たちを総動員して、極上のフルコースを……!』


「ふーん。まあ、お肉やスープはリナ作るもののほうが美味しい」

ヴェルダは顎に手を当て、何かを思い出すように目を細めた。


「そういえば、王都には宮廷菓子職人が作る『ろーるけーき』なる幻の甘味があるらしいね」

『ろ、ろーるけーき、ですか?』


「うん。真っ白でふわふわの生地に、濃厚な生乳のクリームをたっぷりと巻き込んだ、王都の限られた貴族しか食べられないという伝説の焼き菓子。……私、ずっとそれが気になってたの」


ヴェルダの瞳の奥で、強烈な「食欲」の炎が燃え上がっている。

彼女は俺の方をガシッと振り返り、俺の肩を両手で掴んだ。


「ガイウス。王都に行くわよ」

「……俺は土作りが」

「土なんか後でいくらでも弄れるでしょ! ろーるけーき、ろーるけーき! あんた、私にあの南の砂漠まで手伝わせといて、自分だけ満足して引きこもる気!?」


「い、いや、しかしですね」

「リナも王都のお城に行ってみたいんでしょ!?」


ヴェルダが話を振ると、リナは「い、行ってみたい……! お城のキッチンとか見てみたい!」と顔を赤くして頷いた。


エルも「魔族が王宮に入れるなら、少し興味があります」と静かに同調している。

外堀は完全に埋められていた。

俺は大きなため息を一つ吐き、クワを地面に突き立てた。


「……はぁ。ヴェルダさんがそこまで言うなら、仕方ありませんね。数日だけですよ」


俺が折れた瞬間、通信魔石の向こうでハーヴェルと百官たちが「おおおおっ!!」と歓喜の涙を流して抱き合っていた。


「ただし、ハーヴェル宰相。俺たちの目的はあくまで『村のみんなでの観光』と『ろーるけーき』です。堅苦しい式典や謁見は最小限にしてくださいよ」


『分かっている、分かっているとも! ガイウス様、黒龍様! 王都にて心よりお待ち申し上げておりますぞーーっ!!』

プツン、と。


通信魔石の光が途絶えた。

「やったー! 王都観光だー!」

「フフッ、幻のろーるけーき……今から胃袋の調整をしておかないとね」

「荷造りを手伝います、リナさん!」


すっかりお祭り気分になっている女性陣を見ながら、俺は苦笑いを浮かべた。


スローライフを愛する一介の農家が、図らずも魔族や黒龍、そして村の仲間たちを引き連れて、再び因縁の王都へと足を踏み入れることになろうとは。


「まったく。……留守の間の水やりは、ウンディーナの結晶で作った自動散水機に任せるとしますか」


こうして、規格外の農家と愉快な仲間たちによる、王都への「ろーるけーき討伐旅行」の幕が上がるのだった。


水晶の精霊達 : (解せん…)

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