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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第122話 精霊との戦い3


『……我ラガ母ナル星ヲ汚ス、忌マワシキ人間ヨ。万死ニ値スル……』

ズズンッ……!


土の精霊ノームが言葉を発するたびに、大気が震え、眼下の死の砂漠が波打つように隆起した。

体長百メートルにも及ぶ、黒々とした岩盤と鉱石で構成された鋼の肉体。その中心には、星のコアを思わせる黄褐色の極大魔力が脈打っている。


ノームが大地を踏みしめた瞬間、俺の全身に、目に見えない巨大な「鉄の塊」がのしかかってきたような感覚が襲った。


「……ッ、これは……ただの重力魔法ではありませんね」

俺は中空で姿勢を維持しようとしたが、足元に展開していた【重力操作】の術式が、ミシミシと嫌な音を立てて軋み始めた。


ノームが操っているのは、単なる引力ではない。この星が持つ「地脈の引力」そのものを局地的に増幅し、俺という一点に集中させているのだ。


通常の人間であれば、この重力波を浴びた瞬間に全身の骨が砕け、肉塊となって大地に平伏しているだろう。

『……イグニス、ウンディーナ。コノ重圧ノ檻ノ中デ、ヤツノ逃ゲ場ハナイ。一撃デ、原子ノ塵マデ圧シ潰スゾ……』


『……承知シタ、ノーム。今度コソ、灰ニ変エテクレル……!』


『……逃ガサナイ……永遠ノ氷壁ニ閉ジ込メル……ッ!』

俺の『疑似台風』によって深手を負っていたはずの炎の巨神と水竜が、ノームの強大な重力場に守られるようにして再び立ち上がる。


そして、三柱の大精霊による、神話の時代でさえ見られなかったであろう「複合属性の絶死攻撃」が始まった。

ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

ノームが両腕を天に掲げると、死の砂漠の地底深くから、直径数十メートルはある巨大な『岩の槍』が無数に隆起し、俺を取り囲むように中空へと浮かび上がった。


そこに、イグニスが超高温のプラズマを吐きかける。

岩の槍は瞬く間に赤熱し、表面がドロドロに溶け出した「マグマの槍」へと変貌した。


さらに、ウンディーナがそのマグマの槍の周囲に、絶対零度の「水の輪」を幾重にも展開する。

極限まで圧縮された水は、超高温のマグマに触発されて爆発的な『水蒸気膨張』を引き起こす寸前の状態に保たれている。


いわば、ウンディーナの水が「火薬」となり、イグニスの熱が「起爆剤」となり、ノームの岩が「砲弾」となる、最悪の質量兵器。

『……消エ失セロ、特異点バグガァァァァッ!!』

三柱の咆哮と共に、全方位から数十本の「水蒸気爆発推進式・マグマ隕石」が、俺に向かって一斉に撃ち放たれた。


「――っ!」

回避は不可能。ノームの超重力によって、俺の身体は鉛のように重く、空間転移すらも重力場に歪められて発動できない。


防御魔術を展開しても、この圧倒的な質量と温度差の前に一瞬で粉砕され、大気中の魔力を練り上げれば奴らの肥料になるだけだ。

逃げ場のない、完全なる死の空間。


だが、俺の瞳に焦りはなかった。

むしろ、俺の心を満たしていたのは、農家としての「純粋な呆れ」と「静かなる怒り」だった。

「……炎で焼き、水で冷やし、重力で押し固める。あなたたちは、土壌というものを全く理解していない」


俺は、迫り来るマグマの隕石群から目を逸らさず、漆黒のローブの袖を捲り上げた。


「そんな無茶苦茶な圧力をかければ、土の中の隙間が完全に潰れてしまうでしょう。水も空気も通らない、カチカチの『硬盤層こうばんそう』が出来上がってしまう。


そんな死んだ土では、俺の可愛いトマトもレタスも、根を張ることすらできないんですよ」

俺は、ノームが俺に押し付けている「超重力」に抗うのを、ふっとやめた。


逆に、その引力に自らの【慣性加速】と、莫大な内包魔力による【質量増大】を上乗せする。

「農業において、固い岩盤の層にぶつかった時、農家がどうするか知っていますか?」


俺の身体が、重力の枷を逆利用した凄まじい速度で、大地――いや、眼下で俺を見上げるノームの頭上へと向かって、真っ逆さまに「墜落」を開始した。


「表面を撫でるだけでは意味がない。専用の巨大な刃を使い、地中深くの岩盤を物理的に叩き割るんです。それを『深耕しんこう』と呼ぶ」

ドォォォォォォンッ!!


俺の頭上で、行き場を失った数十発のマグマ隕石が激突し、夜空を昼間のように照らし出す大爆発を起こした。

だが、俺はすでにその爆心地にはいない。


音速を遥かに超える速度で落下する俺の右腕には、極限まで圧縮された俺自身の内包魔力が、黒い光の断層となって収束していた。


『……ナニ……ッ!? コノ重力ノ中デ、自ラ加速シタダト……!?』

ノームが驚愕の思念を発し、迎撃のために巨大な岩の腕を交差させて強固な盾を形成する。

鋼鉄の数千倍の硬度を持つ、大地の絶対防壁。

だが、遅い。


俺の拳は、星の重力すらもぶち抜く純粋な「質量兵器」と化している。

「土壌改良の時間です。少し、痛いですよッ!!」

俺の右拳が、ノームの交差した巨大な岩の腕に激突した。

その瞬間。

音は、なかった。

あまりにも強絶な物理的衝撃が、大気を完全に真空状態へと弾き飛ばしたからだ。


パキッ……。

ノームの絶対防壁に、小さな亀裂が入る。

次の瞬間、俺の拳から放たれた衝撃波が、ノームの巨大な岩の肉体を内側から粉々に粉砕し、さらにその下にある死の砂漠の地殻そのものを、すり鉢状に数十メートルも抉り飛ばした。


ズガァァァァァァァァンッ!!

『……ゴ……ァァァァァァッッ!?』

土の大精霊が、大地そのものが悲鳴を上げるような轟音と共に、背中から地面に叩きつけられた。


俺を縛り付けていた超重力の檻が、術者のコントロールを失って霧散する。

「……ふぅ。これで、少しは風通しが良くなりましたね」

俺は粉砕された岩の雨が降り注ぐ中、空中でふわりと身を翻し、軽やかに大地に着地した。


右腕の軍手は完全に消滅し、拳からは白煙が上がっているが、内包魔力で肉体を強化しているため骨に異常はない。


ノームの崩落に巻き込まれ、イグニスとウンディーナも体勢を崩して吹き飛ばされている。

完璧だったはずの大精霊たちの連携は、俺の強引極まりない「物理的な土起こし」によって、完全に瓦解した。


「さて、硬い岩盤は砕きました。あとは、あなたたちという『上質な肥料』を、逃げられないプランターの中に閉じ込めるだけです」

俺は両手を広げ、残された莫大な内包魔力を、周囲の空間そのものへと編み込み始めた。


このまま外の環境で戦えば、再び奴らが地脈から魔力を吸い上げ、天候を荒らし始める。エーデル村の気候にこれ以上の悪影響を出すわけにはいかないのだ。


「あなたたちの乱暴な気象操作は、もう見飽きました。ここからは、俺が徹底的に温度と湿度を管理する『温室ビニールハウス』の中で、ゆっくりと発酵してもらいましょう」


夜空の下、三柱の大精霊を包み込むように、俺の魔力で構成された巨大な透明のドーム――【超高密度環境制御結界】が、音もなく展開し始めた。


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