第一章)第三十五話 ロールキャベツ
本日2話目です
俺の行きつけの店、《ネコジタ亭》に着き、スライド式のドアを開くと、朝なのにかなり混んでいた店内が、一瞬、静まり返る。しかし、相手が俺だと分かると、何事もなかったかのように喧騒が戻ってくる。その様子を見て、セレーナが驚いた様子を見せる。
「・・・なんで?」
多分、外と同じように俺を気にして店内が静まり返る、とでも予想していたのだろうな。でも、ここの常連さんは俺を特に気にしない。一応理由はあるのだが、別に今いわなくてもいいだろう。まあ、常連さん以外は外と同じような反応をするのだろうけど、こんな朝早い時間帯では常連さん達以外はほとんどいない。
とりあえず、俺はカウンターに向かい、適当な2つ並んで空いている席の右側に座って左側にセレーナを座らせる。
さて、何を注文するか。
この店は、店名である《ネコジタ亭》の名の通り、熱い食べ物は出てこない。その為、常連客は基本的に猫舌だ。そう言う俺は別に猫舌などではないのだが、この店の料理は冷めていても美味しく食べれるようにするためか、めちゃくちゃ研究されていて、実際、めちゃくちゃ美味い。
迷った挙句、結局いつも頼んでいる《冷えたロールキャベツ》を頼んだ。セレーナも俺と同じもの、と頼んだ。ちなみに、この世界でもキャベツは存在していた。
ここの《冷えたロールキャベツ》は、名前通り冷えているロールキャベツだ。これだけ聞くと、あまり美味しくなさそうだが、食べてみた感想としては、冷えているからこそ美味い、という、地球のアツアツのロールキャベツに喧嘩を売っているような代物だった。正直、このロールキャベツを食べた後はもうアツアツのロールキャベツが食べられないと思う。それだけ美味いのだ。
脳内で、その至福の味を再現していると、セレーナが「あっ」と、何かに気付いたかのように俺を見る。
「・・・そういえば、お金・・・」
「別に問題ない。俺がお前を拾ったんだから、俺が金を出すのは当たり前だろ」
「・・・でも・・・」
「それに、この格安店での出費が痛くなるような懐じゃないしな」
「格安で悪かったねぇ」
「!!??」
急に、会話に割り込んできたのは、この店の店長のキャットン=べッロァさんだ。身長2mに届きそうなくらいの長身で、馬鹿でかい胸を持つ28歳独身女性だ。黄ばんだ癖だらけの髪の毛はふくらはぎまで届いており、堀の深い顔と黄色い三白眼は、見るものを圧倒する。実際、セレーナが、オーバーリアクションじゃないか? と思われるくらい仰け反っていた。俺は見慣れているし、それに接近に気付いていたので特にリアクションはない。
「ほら、注文の《冷えたロールキャベツ》だよ」
「あざっす」
「・・・あ、ありがとうございます」
「ところで、この子はあんたの彼女かい?」
「ッッ!!!???」
キャットンさんは、セレーナを見ると何故か中指を立てて、その指でセレーナを差しながら、俺の方に聞いてくる。ちにみに、セレーナは茹で上がっている。
俺の方は、いつもひとりできている俺が、急に女の子を連れてきたのだからこのようなこと言われる、と予想していたので「違う」と一言答える。その答えで茹で上がっていたセレーナがどよーんとなったが、違うものは違うのでどうしようもない。
それを見ていたキャットンさんが、俺の耳元に口を寄せて囁いてくる。
「あんたね・・・あの子の好意が分かってんでしょ?」
「まあ、わかりやすいからな」
最初の時は勘違いかとも思ったが、あれだけわかりやすい反応をすれば勘違いではないことは分かる。
「なら何で受け入れないんだい? 結構可愛いじゃない?」
「確かに可愛いと思うけど・・・」
「けど、どうしたんだい?」
「俺はロリコンじゃないからな」
「ろりこん?」
「いや、気にしないでいい。それに俺達はまだ7歳だからな。まだそういうのは早い」
「ああ、そういえばまだあんたは7歳だったっけ? Sランク冒険者だし、大人びてるから時々忘れちまうよ」
精神年齢は23歳くらいだけどな。
「Sランク冒険者つーなら、Lランクで俺より一つ年上の化け物がいるじゃないか」
「あー、ナナヨ=ルシフェルだったかい? 5歳でLランク判定を受けたっていう」
「ついでに当時からLランクトップっていうやつだしな」
「まあ、Lランクに関しては一人抜かして全員行方不明だし大丈夫なんじゃないかね?」
「どう言う意味だ?」
「いや、なんでもないよ」
「そうか」
その後、俺とセレーナはロールキャベツを食べて、代金を払って店を出た。
次話投稿は来週です




