第一章)第二十八話 おうばぁきる
「おい、副ギルドマスター」
俺の雰囲気が急に変わったのを感じたのか、微妙に顔の色が変わる。
「な、なんだ?」
声が震えているのは、俺が少し殺気を飛ばしているからだ。大体Cランクの冒険者を行動不能にするくらいのものを出していることを考えると、実力的にはAランクぐらいか。まあまあだな。
「俺の方が貴族としての立場は上なんだが?」
正直、俺は立場を利用していろいろとするのは嫌いだ。しかし、同時に使えるものは何でも使うつもりだ。
「その相手に対して値踏みする目線を向け、侮辱するようなことを言うというのは、不敬罪で殺されても文句はないだろうな?」
どう考えても三下貴族のセリフを言った俺自身に対して、内心「ないわー」と思いつつ、威圧を強める。この場では、俺の方が、立場も実力も俺の方が上ということを分からせればいい。勿論、俺はこの程度で不敬罪などにするつもりなど全くないのだが、俺にはいろいろと悪い噂がある。それらを知っていれば、本気でやると思うだろう。そして、相手は副ギルドマスターで、貴族。流石に俺の噂ぐらいは知っていると思う。というか、知らなきゃそれはそれで問題だ。
バタッ
ん?
あっ!ヤバッ!
・・・威圧の加減をミスって気絶させてしまった。
「・・・えっと・・・おうばぁきる?」
後ろにいたセレーナがそんなことを言う。
「いや、違う。別に殺してない」
まあ、オーバーではあるけど・・・。
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その後、流石にただ気絶させただけでは問題があると判断して、質問されるであろうことの回答も書き置きしておいた。といっても、ほとんどが適当だが。
「あ、セイトさん。頼まれてたそちらの方の登録手続き終わりましたよ」
受付嬢にさっき頼んでおいたセレーナのギルド登録が終わったようだ。街に帰るまでに聞いておいたところ、ギルド登録はしていなかったようだ。まあ、7歳児にギルド登録はともかくとして、ギルドの依頼を受けさせるというのはないだろうけど。
「えっと・・・何で私の登録を?」
そういえば、セレーナ本人には話してなかったな。
「簡単に言えば、しておいたほうが色々と便利だからだな」
ギルドに登録しておけば、身分保障にもなる、とかだ。ちなみに、名前はセレーナ=エレメントではなく、セレーナと、家名は入れずに登録している。一度、奴隷に落とされたため、フルネームで登録するのは問題があるだろうからな。
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ギルドを出た俺達は、俺の家、というか屋敷に向かった。
正直、この時俺はかなり楽観視していた。
あの両親なら多分、セレーナを連れて行っても大丈夫だろうと。
『暴食の使い魔』というものがどんなものであろうと大丈夫だろうと。
それらのことが重なってあの事件が起こるなんて、この時の俺は全く思っていなかった。
俺が『黒天の破壊者』と呼ばれるようになった、あの事件が
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