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第1話「序章」

本書を手に取ってくれた読者の皆さんは、こんなことを考えたことはないだろうか?


もし今この瞬間の自分の人生がゲームになったら、もっと面白くなるんじゃないか、と。


『Galgame』やRPGのような、強い没入感を味わえるゲーム。これは、そんなゲームのように、俺の学園生活が突然ゲームになってしまった物語だ。


さて、この物語はどこから話し始めればいいだろう?


高校の入学後、最初の連休。旧暦の八月十五日、中秋節の日から始めよう。


俺が住んでいる三神区には、金猫湖という湖がある。そして湖のほとりには、猫の頭の形をした小さな山と、金猫寺がある。


この寺は参拝者が絶えないことで有名だ。願い事をすれば叶うと言われているからである。さらに中秋節には、盛大な猫神祭とパレードが開催される。


猫神祭の最後には、その年に奉納された願掛けの絵馬をすべて燃やす儀式が行われる。


そして、その中には猫神様が特別な加護を与えた絵馬が一枚だけあると言われている。その絵馬は、燃やしても元の姿のまま残るという。


しかも、その絵馬に書かれた願いなら、どんな願いであろうと猫神様が叶えてくれるのだ。


例えば、数億円の宝くじや台湾のロトくじに当選したいという願いでさえ、叶うことがあるらしい。


この寺で金運を叶えてくれる象徴とされているのが、境内に鎮座する巨大な金色の猫像だ。純金製だと言われており、高さは約三メートル。まばゆいほどの金色の輝きを放っている。


さらに境内には、願いが叶った人々がお礼参りに奉納した小さな金色の猫の像も数多く祀られている。


そんな金猫寺で、俺が絵馬に書いた願いは、三神高校に合格すること。そして、ゲームのような高校生活を送ることだった。


今では、その願いはすでに叶っている。行きたかった高校に合格できたのだ。


しかし、ゲームのような展開が待っていたわけではない。授業を受け、放課後になれば家に帰る。ただそれだけの、平凡な高校生活が続いていた。


よく考えてみれば、ゲームのような高校生活とは、いったいどんなものなのだろう?


こんな曖昧な願いを聞かされたのだから、俺の願いを叶えてくれた猫神様も、さぞ困惑したに違いない。


中秋節の朝、窓の外から聞こえてくる吹奏楽の音で、俺は目を覚ました。


猫神祭のパレードが奏でる音楽だ。


パレードの一行は、巨大な神輿と祀られた金猫神像を担ぎ、いくつもの里を巡っていく。長い長い行列が街中へと広がっていた。


窓から外を眺めると、行列が道路いっぱいに連なっているのが見えた。


銅鑼が鳴り、太鼓が打ち鳴らされ、楽器の音が響き渡る。さらには爆竹まで鳴らされ、あたりは大変な賑わいだった。


パレードの一行だけでなく、沿道には見物客も大勢集まっていた。人々は次々とスマートフォンを取り出し、写真を撮ったり動画を録画したりしている。


このパレードは日本統治時代から受け継がれてきたと言われている。そのため、演目には日本らしい雰囲気が色濃く残っていた。


俺は窓辺を離れ、洗面所へ向かった。顔を洗い、口をすすぎ、トイレを済ませる。


それから部屋に戻って外出着に着替え、鍵と財布、それにスマートフォンを持って玄関へ向かった。靴下を履き、靴を履いてから家の外へ出る。


ドアに鍵をかけ、エレベーターの前にある下向きのボタンを押し、自分の階までエレベーターが来るのを待った。


今、高雄の家に住んでいるのは俺一人だ。


母さんは立法委員として台北で働いており、姉ちゃんも台北で学校に通っている。


やがてエレベーターが俺の住む十階に到着し、扉が開いた。


俺は中に入り、鍵のカードを操作パネルにかざして認証を済ませ、一階のボタンを押した。


扉が閉まり、数秒後には一階に到着した。


エレベーターから降り、大楼のロビーにある庭園を通り抜け、正面玄関へ向かう。


管理人さんが俺に朝の挨拶をしてきたので、俺も「おはようございます」と返した。


それから、金猫湖の近くにある「單單割包店」へ向かった。


單單というのは、この店のマスコットであるペンギンの名前だ。


数分後、店に到着した俺は、そのまま店内へ入った。すると、母の妹である叔母が俺に気づいて声をかけてきた。


「おはよう、日明!」


「おばさん、おはよう」


ちなみに、この店は台湾南部だけでチェーン展開しているファストフード店で、南部最強を意味する「南霸天」という異名を持っている。ここは叔母さんが経営する本店だ。


俺は注文をせず、そのまま客席エリアへ向かった。


そして、食事中の小学生の女の子の向かいに空いていた席へ腰を下ろし、挨拶をした。


「皢瑜、おはよう!」


「おっ、お兄ちゃん、おはよう」


目の前で朝食を食べていたのは、俺の従妹、陸皢瑜だった。


彼女は口に入れた食べ物を飲み込んでから、俺に挨拶を返してくれた。


彼女の朝食はチーズ入り蛋餅と紅茶ラテだ。


ちなみに、この單單割包店のミルクティーは本当においしい。


なぜ彼女が何を飲んでいるのか分かったのかって?


それは、紅茶ラテが入った紙コップに、單單というペンギンのかわいいイラストが描かれていたからだ。


「皢瑜、あとで一緒に廟会を見て回るけど、何か特に見たいところはある?」


「適当に歩きながら見て回ればいいんじゃない? そういえば、お兄ちゃんは絵馬にどんな願い事を書いたの?」


「俺の願いなら、もうとっくに叶ったよ! 行きたかった高校に合格したからな」


「ずいぶん夢のない願い事だね!」


「じゃあ、お前はどんな願い事を書いたんだ? お兄ちゃんに聞かせてみな」


「魔法少女になりたいの」


「ぶはっ!」


「何がおかしいの? 私は本気で願ったんだからね!」


「笑ってないって! 本当だよ。だから、そんなに怒って頬を膨らませるなって!」


俺と皢瑜が話していると、叔母さんが俺の朝食を運んできてくれた。


店の看板メニューである割包だ。


大きくて味の染み込んだ豚バラ肉に、目玉焼き、高菜の漬物、ピーナッツ粉、砂糖などを挟んだものだ。具材は、割包と呼ばれる蒸しパンに挟まれている。


それに紅茶ラテのミルクティーが一杯ついてきた。


この店では環境保護のため、ストローを提供していない。


俺はまず、プラスチックのフィルムで密封された飲料カップの蓋を剥がした。それから紙コップを持ち上げ、中のミルクティーを飲んだ。


濃厚なミルクの香りと、深みのある紅茶の風味。冷たくて、本当においしい。


一口ずつ、ゆっくり味わいながら飲むのにぴったりだった。


続いて、紙で半分だけ包まれた割包を手に取った。


俺のために作られたものなので、完全には包まれていないのだ。


俺は割包を口元へ運び、一口かじった。


ほんのり甘い蒸しパンの小麦の香り。しっかり味の染み込んだ塩気のある豚の角煮。そこに高菜の甘酸っぱさと、ピーナッツ粉や砂糖の甘い香り、さらに目玉焼きの風味が加わる。


実にうまい。


俺たちは朝食を食べ終え、飲み物も飲み干すと、一緒に店を出た。


それから金猫湖のほとりへ向かい、湖岸に沿って歩いていく。


太陽の光を浴びた湖面は、金色に輝いていた。


やがて俺たちは、湖に架かる巨大な橋へとたどり着いた。


この橋は金猫寺の正門へとつながっている。湖にはもう一つ小さな橋があり、そちらは修道院へとつながっていた。


金猫寺と修道院の裏手にあるのが、猫頭山だ。


湖の対岸からその小さな山を眺めると、二つの山頂が盛り上がっているのが分かる。まるで猫の頭から生えた一対の耳のようだった。


橋の上には、すでにさまざまな屋台が並んでいた。朝早い時間にもかかわらず、祭りを見に来た人々の姿もちらほら見える。


毎年、この猫神祭が開催されると、金猫寺には大勢の参拝客が訪れるのだ。


橋の両側の欄干には、猫神の石像が設置されていた。


左右を合わせると、その数は全部で百八体にもなるらしい。しかも、一体一体、表情も服装もポーズも異なっているという。


それを見て、俺は近くのコンビニの前に置かれていたガチャガチャを思い出した。


そこでは、この百八体の猫神をモチーフにしたストラップが販売されているのだ。


ちなみに、俺たちがこんなに早く来たのには理由がある。


この日の朝、猫神祭では福袋が販売されるのだ。


福袋には抽選で豪華賞品が当たるチャンスがあり、特賞は数十万台湾ドルもするSUVらしい。ほかにもバイク、タブレット、スマートフォン、Nintendo Switchなど、さまざまな賞品が用意されていた。


この福袋は近隣のコンビニと共同で販売されている。そのため、中には猫神様のグッズだけでなく、コンビニで買える飲み物やお菓子なども入っている。


値段は一袋わずか二百台湾ドル。


しかも、豪華賞品はすべて猫神様が提供してくれているらしい。


福袋を買おうとする人々の列は、すでに金猫寺の境内から橋の上にまで伸びていた。


俺たちも、その長い行列の最後尾に並んだ。


販売開始は午前九時過ぎの予定なのに、まだ八時半だというのに、すでに長蛇の列ができている。


「お兄ちゃん、何が当たってほしい?」


「特賞のSUV!」


「お兄ちゃん、免許持ってないのに車なんかどうするの?」


「売ってお金に換えるんだよ! そうすれば、いろんなものが買えるだろ?」


「それもそうだね!」


「じゃあ、お前は何が欲しいんだ?」


「Nintendo Switch!」


「うちに一台あるだろ? うちに遊びに来るか、俺が貸してやればいいじゃん」


「お兄ちゃんがもう持ってるから、うちのお母さんが買ってくれないんだよ!」


「ああ、そういうことか。それで、どうしてもう一台必要なんだ?」


「お兄ちゃんとオンラインゲームで一緒に遊びたいから!」


「オンラインゲームか! 確かに、それならもう一台必要だな。俺がSUVを当てて、売ってお金が手に入ったら買ってやるよ」


「本当、お兄ちゃん!? 約束だからね!」


俺たちがそんな話をしているうちに、行列が少しずつ進み始めた。


俺はスマートフォンを取り出して時間を確認した。


すでに午前九時を過ぎていた。


数分ほど列に並び、ようやく俺たちの番がやってきた。


俺たちは壮大な金猫寺の境内へと入り、そこに鎮座する巨大な金色の猫像を目にした。


その姿は、まるで招き猫のように片手を上げ、福を招いているようだった。


福袋を購入すると、俺たちはすぐそばの休憩スペースへ向かい、中身を確認することにした。


袋の中には、クッキーやキャンディー、飲み物、猫神様のグッズ、そしてスクラッチカードと抽選券が入っていた。


俺は財布から硬貨を一枚取り出し、テーブルの上でスクラッチカードを削り始めた。


さて、何が当たったのかというと……。


コンビニのLサイズのアメリカーノが一杯買うともう一杯無料になるクーポンだった。


ちょっとがっかりしていると、隣にいた皢瑜が声を上げて笑った。


「何か当たったのか?」


「Nintendo Switchだよ! 本当に当たった!」


彼女が見せてくれた当選券には、確かにNintendo Switchと書かれていた。


まさか、本当に当てるとは!


「お前、運がよすぎるだろ。俺は抽選券に期待するしかないな」


俺たちは一緒に抽選箱のところへ向かい、抽選券の半券を箱に投函した。


それから、スクラッチカードの賞品を受け取るため、景品交換所へ向かった。


皢瑜は当選券を係員に差し出した。


「おめでとうございます、お嬢ちゃん! Nintendo Switchが当たりました。ただし、当選金額に対して十パーセントの当選税をお支払いいただく必要があります」


「ええっ! そんなにお金持ってきてないよ!」


「今日はいつもより多めにお金を持ってきたから、俺が代わりに払ってやるよ」


「お兄ちゃん、ありがとう!」


俺は財布から必要な金額を取り出し、当選税を支払った。


「それでは、お嬢ちゃん。こちらの用紙に必要事項を記入してください」


支払いを済ませ、必要事項を記入すると、皢瑜は無事にNintendo Switchを受け取ることができた。


俺たちは、いったん皢瑜の家に戻って荷物を置いてから、改めて祭りを見て回ることにした。

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