95.
異世界Side
だがメルダリアはまだ納得がいかないのか、何とか自分の思いをどう伝えるか考えながら、最初にキトーと交わした約束を思いだしていた。
その日はキトーを初めて呼び出した日だ。突然、キトーにとっての異世界と呼ばれるこの世界に呼び出された、その勇者候補のその男は、驚く事に涙を流し、鼻水を垂らしわめきながら元の世界に戻す事を求めた。キトーは恐怖で震えながら土下座していたのだ。
その姿にキトーの召喚を行った者達全てが驚きと、落胆を覚えた。
その場にいた国王を始めとする、騎士団、貴族、メイドから神官に至る全ての者がキトーを軽蔑した。
過去に召喚された者達は勇敢であったり、強欲であったりと自らの主張をする者が多かったと文献にに書いてあった、所がキトーそのイメージと余りにかけ離れた軟弱な男だった。
キトーのように、ただただ怯えて。塞ぎ込み家に帰ると泣き続きた者は召喚の儀式が始まって初めての事だった。
過去の召喚者は財宝を望む者、絶世の美女を望む者、世界最強の力を望む者等が多くいた。
中には王妃との間に子供をももうけた強者までいたと歴史書に書いてあった。だからこそ国王を初め、メルダリア、貴族、メイド、騎士団、神官達は本当に後悔したのだ。
しかし、呼び出したからには何とかしないと行けない。呼び出すには赤龍の宝玉と鳳凰の宝玉が必要だ、それを得るために様々な犠牲が合った、その上にこの召喚者がいるのだ。
恐らく、その期待の無さがキトーを化物にしてしまった。常人であれば死んでしまう程の秘宝や秘術を使った魔力増強、精神強化、肉体強化、戦力増強。
そして過去に誰一人として成し遂げた事が無かった猛毒死毒耐性の習得等々をキトーは成し遂げた。
そして当初の予想を遥かに裏切り、最弱の召喚者はメルダリア達が気が付いた時には世界最強の人族になっていた。この世界で神と呼ばれ恐れられ誰一人として、逆らう事のない赤龍と鳳凰に喧嘩を売りこの2人に勝つ事が出来る、そんな存在にいつの間にかキトーはなっていた。
そうなると各国がキトーを欲しがる。だが、それは最も大事な赤龍と鳳凰との契約を反故にする事を知らずに人々は欲に溺れだした。
それに怒りを覚えたのが赤龍と鳳凰だ。だが、そんな2人を止めたのもキトーだった。
「俺はこの世界の出来事が終わったら帰る。俺がいなくなればこの世界は元に戻る、それまで少し待ってくれ」
その言葉を友として赤龍と鳳凰が受け止めた。キトーの思いと引き換えにこの世界を見守る事にしたのだ。
鳳凰はメルダリア、ミューモ、レベッカの3人に全ての事を伝える。
「わかったか、小娘程度にキトーを止める事など出来るわけが無い」
「私は、私の愛ではキトーを救えないのでしょうか?
鳳凰様。私はキトーを本気で愛しています、その役割を私にさせて頂く事は出来ないのでしょうか?
このままでは、キトーが、キトーがあまりに可哀想です」
メルダリアが目に涙を浮かべ鳳凰に訴える。
たが、メルダリアは遅かった。
恐らくキトーが召喚される時に今と同じ程の思いやりを持っていれば、赤龍も鳳凰も違う答えを出したのかも知れない。
「メルダリア、貴様はこの私を愚弄するのか?
貴様が言った ‘’この毒でキトーが死ねばまた新しい者を呼べばいい、キトーが出来たのだ。もっと強い者ならもっと出来るだろう、そうなればこの私の全てを捧げてても良いと私は考えている‘’ この言葉をどう説明する?」
「そ、それは」
メルダリアが青ざめて固まって動けなくなる。
「メルダリアよ、しょせん貴様の愛などそんなものだ。キトーでなくても誰でも良いのだろう、しょせん誰でも良いのだ。
貴様等レベッカと比べると餓鬼に等しい、今更愛だの恋だの自己満足を他人に押し付けるでない」
メルダリアが何も言えず能面な顔になる。メルダリアも国王の娘、愛だの恋だの言った所で叶うはずもない。
その心の奥のドロっとした真黒な汚れが心を覆い始める。
最初にその事に気が付いたのレベッカだった。メルダリアの余りに汚い魔力に嫌悪感を示す、それにつられミューモが気が付いた。
すると2人はメルダリアがら離れ鳳凰を守るように武器を持ち構える。
「メル、もし鳳凰様に傷を付けようと狙うならこの私が相手をするよ」
「同じく、もし鳳凰様に攻撃をしようものなら、獣人国がここグランバルト王国を敵と見なす。
我ら獣人にとって鳳凰様と赤龍様は生きる神だ、高々人族程度に我ら獣人族が負ける事等あるわけがない。
それは国に関係無く私達獣人の魂に刻まれた本能、我ら一族の誇り(魂)だ」
ミューモとレベッカを抑えて鳳凰が前に出る。
「小娘、お前に試練をやろう。それを乗り越えて見せたら私もキトーを戻す事に協力してやらんでもない」
「何を今更」
メルダリアが怒りと共に真っ黒い、ドロっとした魔力に包まれる。




