86.
伝次郎と幸太郎の後ろを青い顔で付いて行くと夢が刀を出して待っていた。
簀巻きの男達が夢を見て震えしまい蓑虫のように地面をウネウネとしていた。
「シュッ!!」
夢が短く息きを吐く。
すると簀巻きにされた藁縄が綺麗に切れて男達が解放される、すると直ぐ様土下座して額から血が出る位に強く頭を付ける。
「おい、お前達はこれで勘弁してやる。私の判断に感謝しろ」
「ヒャい」「じゅ、ジュビバゼンでじだ」「ゆ、ゆじでぇ」
愛が何を言おうが震えて恐怖の余り、ただ許しを得るだけの3人が少し哀れに感じてしまった。
人はどうやればここまで恐怖を植え付けられるのだろうか? 改めてハルナと夢の恐ろしさが伝わって来た。
実際にこの3人の様子を見たコハルもハルナと夢から少し離れた。コハル、俺は見逃さないからな、コハルもちょっと怖かったんだろう。ふっ、何かあったらコハルお前も一蓮托生だ。
そう心の中で叫ぶ、少し仲間が出来た事にホッとする俺がいた。コハルは心の友だ。
夜になってハルナと夢と3人でご飯を食べてのんびりとする。するとハルナと夢が俺に甘えてくっついて来る、本当にこう言うときの2人は可愛いくて仕方ない。
昼の2人の事は考えないようにしないと、余計な事を思い出して身震いしてしまった。
翌朝、コハル、又兵衛、湯吉の3人を連れて緊急避難用の山道を進む。
これは見送りに来た愛が突然言い出した事だ、神託が降りたと言って突如海と普段の入口は使うなと急に言われて山道を進んで行く。
「将、ちょっと止まれ」
「又兵衛、何かあったか?」
「ああ、獣の気配が何も無い。これは危険な知らせだ」
又兵衛は獣の気配が無いのは危険な知らせだと言うが、無い方が良いんじゃ無いのだろうか? そうは思うが猟師頭の又兵衛が言うからには確実に何かがあるのだろう。
「みんな、俺が先導する。道の無い場所を進むが歩けるか?」
「俺は心配無い、何時も親方に付いて山道歩くしな」
「湯吉はわかった。コハルは?」
「私は自信が無い」
又兵衛が少し困った顔をする。
「又兵衛、コハルは俺が背負って移動する、それなら問題無いか?」
「将、悪いが頼めるか」
「良いが、動物がいないのは何が起きたか分かるか?」
「ここまで何もいないのはおかしな事が起きた証拠だ。恐らくだが狼が出たと考えて間違い無い、狼は熊や猪を食糧とする。つまり熊や猪の天敵だ。
その獣の気配が無い、おそらく近くにいる」
「了解した。湯吉、もししんどくなったら教えてくれ。湯吉も背負って行く」
「「え?」」
湯吉とコハルが顔を見合わせる。
その後コハルをおんぶして移動する。先頭を又兵衛、湯吉、コハルを背負った俺が続く。
山を抜けた辺りで又兵衛が俺達を止める。
「将、血の匂いだ」
「ああ、ここまで来たら俺にも分かる。
湯吉、コハル。2人はここを動くなよ、何か有れば又兵衛の言う事を聞いて動け」
完全に囲まれたと思い刀の鬼がしらを抜く。又兵衛が湯吉とコハルに、頭を下げて荷物を前に置いて座るように命令する。
それを見て3人の回りに結界魔法をはる。
「又兵衛、少し俺は離れる。その場所を動くなよ」
「わかった、この透明な板が俺達を守ってくれる物だな?」
「ああ、お前達は俺の大切な仲間だ。絶対に死なせやしない」
3人から離れ少し進むと山を抜けて村が見えた。それは目を塞ぎたくなるくらいに酷い有様だ。何かに襲われた後だ、人の体が引きちぎられ食い荒らされたように思われる姿だ。
そしてその村はヤガル、タガルと2人を預かっていた猟師の又次が住む丸玉村が合った場所だ。
索敵を行うもすでに村の中に生命反応が無く、誰も生きていない状態である事がわかった。
又兵衛達と合流する。
「本当か?」
又兵衛と湯吉の驚きは凄く腰を抜かす程だった。どうやら狼のかなり大きな集団が流れて来たらしい、それが又兵衛が出した答えだ。
過去、又兵衛がまだ子供の頃に一度同じ事が起きたらしく、今回の現象がそれと酷似しているらしい。
通常は4.5匹の集団で活動している狼が、突如30匹以上の大きな集団になる事があるらしい。それをまとめるボスが生まれるとこの村のような惨劇が起きる事があるのだと言う。
その話を聞いたコハルが又兵衛の胸を掴む。
「村は、この事を伝えないと村が無くなってしまう」
「コハル、心配は無い。愛様の神託はこの事だったのだろう、なら全てに万全の準備をしている」
「けど」
コハルがそれでもまだ心配だと又兵衛を見て泣きそうになる。
「コハル、お前は愛様の言葉が信じられないか?」
又兵衛のその声にコハルがハッとした顔をする、それは出発前に愛がコハルにかけた言葉だ。
「コハル、何があっても後ろを振り返ったら駄目だ。私達は常に守られている。それと将の声に必ず従いなさい、将は神様が私達に遣わした男だ。良いね」
そう言われてコハルは従う事を決意したのだ。俺が神様が遣わした人かどうかは置いておいて、コハルは愛の言葉を信用する事にしたみたいだ。




