84.
「将、それはハルナと夢は知ってる事か? ハルナと夢が了承していないなら私は絶対に許さない」
愛の真剣な顔をに驚いてしまう。
そこまで愛が言うには何かしらの問題が隠れているのだろう、そうは思うがハルナも夢もやる気十分だしな。ここで辞める理由にはならない気がする。
「ハルナも夢も知っている。2人は蝦夷と呼ばれる地域の言葉や習慣を知らない、そんな状態の2人だけでどうやって暮らして行くつもりをしてるんだ?
確かに最初は又兵衛や湯吉、鷹に美雪も一緒だ。だが誰一人蝦夷の言葉を話せない、そうなった時に誰がどうやって命をつないで行く、俺達3人が出した答えはカメルンとアン達の仲間をハルナと夢の配下に付けて、蝦夷の奥。陸奥まで移動して一緒に暮らさせる事だ」
「はぁ~。そこまで考えているなら良いよ。上手く行けば私もハルナと夢にくっついて行こうと考えていただけだしな」
「なら、最後まで希望を失わない事だ。愛が上手く行くと思う事は上手く行くだろう」
それから改めて又兵衛と湯吉を見る。
「2人には悪いが俺と一緒にその集落まで行ってもらいたい。
そこで暮らしているのはほぼ子供達だ、食べる物を探すのも大変な状況で暮らしている。
罠や狩猟の道具の作り方や獲物の取り方、食べられる野草や薬草の事も教えてやって欲しい。
又兵衛、湯吉。この通りだ頼めるか」
俺が頭を下げたのが余っ程驚いたのだろう、又兵衛と湯吉が顔を見合わせる。
「将、顔を上げてくれ。
お前さんのお陰でこの村は予定よりも長く皆んな生きている。
わしらはこの村の未来をババ様、法明様、愛様から聞いて良く知っている。
そんなわしらからしたらお前さんの頼みを断るはずが無かろう。まして、その子供達がハルナと夢を助けるなら喜んで手助けしようじゃないか」
「又兵衛、湯吉、良いのか?」
「「ああ」」
思った以上に簡単に了承がもらえてほっとしてしまう、本当はもっと嫌がられると思っていた。まだまだ田んぼや畑仕事に忙しい時期だ、こんなに簡単に返事がもらえるとは思わなかった。
忠勝のおっちゃんが俺を見ている。何故か俺を見て涙ぐんでいるのは何故だ?
「なぁ、なにか…」
「そうと決まったら行くよ」
俺の言葉を遮り、愛が立ち上がり俺の手を引っ張る。
「な、なに? ど、どうしたの?」
びっくりし過ぎて声を無くす俺を無視して引っ張って外に連れ出す。
「将、これからハルナと夢を加えて話し合いを行うよ」
はい? 何故?
俺の疑問をよそに忠勝のおっちゃんの家に来る、するとハルナと夢が先に来ていて何やら女の子と話しをしていた。
「ハルナ、夢。あの馬鹿共は?」
「ああ、デンとユキが代わりに付いてる」
「そうか、話し合いが終わったら私も見に行こうかね」
「でも愛姉、あいつら何も知らないよ」
「そんな事を言ってるじゃない、この私にオバサン等と言った事を後悔させるのよ」
愛が凄くお怒りの状態にハルナと夢が完全に引いてしまっていた。
「オバサンだけで」ボソッと呟く声を愛が拾う。
「何か言った?」
フルフルとハルナと夢が顔を振り、ハルナが誤魔化すかのように愛に話を聞く。
「で、愛様はなにしに将を連れて来たの? 手までつないでさ」
ハルナが愛をジト目で見る。
「ふ、ハルナやくな。私程の女になればこの程度の事くらいな、造作もないぞ」
なんだろうな、この意味不明なマウントの取り方。愛って時々こう言う事をするよな、何か自分が上にいないと嫌なのかな。
愛が女の子を呼ぶ。見た目はハルナと夢と変わらない気がする位の子だ、利発そうで少し又左の面影が有る子だ。
「将、この子がさっき話に出たコハルだ。この子は読み書きも出来る賢い子だよ」
「話をするのは始めてだな、鬼頭 将だ。ハルナと夢の旦那さんだ、よろしくな」
「私はコハル。
あんたすごい妖術を使うんだって? それで私をどうするつもりだ」
「どうもしない、大蔵村では生活出来ないだろ。だから他の所で力を貸して欲しいと思っている」
コハルの俺に対する警戒感と言うか疑いを持った眼差しと言うか、凄いな。別に取って食うつもりも無いんだけどな。
そんなコハルに対し愛が話を進める。
「コハル、悪いけど明日の朝一で村を出て、将と一緒に移動してもらう。貴女は又左の両親と共に亡くなった、そう言う事になるけど良いか?」
コハルが地面におでこを付けて愛に謝罪する、余っ程深刻に今回の事を思っているようだ。
「愛様、本当にごめんなさい。私が出した手紙が元でこんな事が起こるなんて」
コハルの声が、聞き取れない程に苦しさをたくわえていた、愛がそれを察したのか優しく言う。
「気にする事は無い、貴女が悪いんじゃなくて貴女の気持ちを利用する奴が悪いんだよ」
「でもっ」
「コハル、話は終わり。
これ以上は貴女を庇う事は私にも出来ない、代わりに将が貴女を守る。
だから、将の頼みを聞いてやって欲しい」
「コハル、俺と一緒に行ってもらいたい場所が有る。そこで当分の間暮らしてもらう、身仕度は明日の朝まで終わらせてもらえるか。
又左のお父さんとお母さんの分まで生きてやりな、それが一番の供養だと俺は思う」
「お義父さんとお義母さんの分も」
コハルの顔が涙で崩れしまう。




