76.
異世界Side
メルダリアとミューモが奴隷の解放やレベッカ達との対応に勤しんでいる中、獣人族の村、メガタンに向かっていたタクテとダリアもこの旅の最大の問題を抱えて動け無くなっていた。
事の発端は移動中の事だ、女性一人で旅をしている人を発見、ダリアが何かと危険もあるからと馬車に乗せたのが発端となってしまった。
この女性は獣人族の中でも特に珍しい最古の一族、白猿族の一人。
獣人族には白蛇族、白鷹族、白狼族、白虎族、白熊族、白猿族、白大猿族、白狐族と言う最も古い時代から続く一族達がおり、この最古の一族が国を支配して来た歴史が有る。
だが、ここ数百年は最古の一族はその権力の座を追われ民主的な国家運営となる、その一方でこの最古の一族は権力の座を追われて衰退し、数を減らし続けている。
現在では獣人国の国王が最古の一族の保護を明言する程に絶滅の危機に瀕している状態だ。だが、国家中枢から追われた事を他の一族の責任と決め付け最古の一族同士で争いが起きており、数百年たった今でもその争いが続いていたのだ。
そして、ダリアとタクテが一緒に移動をして来たのが白猿族の族長の親族にあたる女性。そして今まさにダリアとタクテの回りを取り囲み対峙しているのが、白猿族を目の敵にしている白狐族達だ。
タクテとダリアは争えば負けない事は分かっていて、何も出来ずに困っていた。倒してしまえばそれで良いという訳では無い、何せ獣人の国で保護を明言している一族。勝手に倒して良いわけが無い。
「俺は白狐族のストールだ。お前達が乗せているその女を寄越せ」
「断る、貴方達に渡すとこの女性の身の保証は無いだろう。
そんな状態で引き渡す事は出来ない」
タクテがそう返事をする中、馬車に乗っている子供達も恐怖で震えているのを白猿族の女性が抱きしめている。
白狐族が動こうとするのをダリアの魔法が牽制する。
ダリアの精霊魔法、アイスニードルが飛び出す。その棘のでかさから氷の槍と言われる程の強さと大きさを持っている。
そのダリアの精霊魔法を見た白狐族達が動きを止める。流石にこれ程の魔法は見たことが無い、その展開の早さに強力な魔法に完全に怯んでしまう。
「我々に争う意思は無い、これからメガタン村のリューメを訪ねる所だ」
タクテがそう説明をする。
白狐族のストールが前に出る。
「お前達の事はわかった、ならその白猿族の女を置いて行け。お前達がメガタンに行くならその女は不要だろう」
「それも断る、この女性もメガタンのリューメに会いに行くと聞いている。同じ場所に行くなら一緒に行くのが人情ってものだ」
「ふん、話し合いが通じない相手のようだ」
ストールが手を上げると白狐族の者達が武器を取って構える。
「例え保護対象だろうと我らにしたら関係が無い、武器を手にとって構えた以上はその覚悟が出来ているのだろう」
タクテが馬車の行者台から降りる。
「私が相手をする。エルフ国、王宮騎士 タテク バルト アンデルセンだ」
「くっ」ストールがタクテの名前を聞いて少し後ずさる。
タテク バルト アンデルセン。勇者のパーティーメンバーの一人、剣術に優れタンクとしても活躍した人物で、唯一勇者 キトーに説教出来る人物と言われる強者。
あの魔人王からも一目置かれた存在だ。まさかそんな英雄が目の前にいる事にストール達が驚いている、だとするとこの異常に強い魔法を放ったのが勇者のパーティーの魔法使いだと。
そんな事を考えたストールは撤退する事を決断した。だが、その決断は少し遅かったのかも知れない。
気が付くと自分達の回りを国の騎士団に囲まれてしまっていたのだ。
「双方、それまでにしてもらおう。
私はこの南方を守護する南方騎士団の小隊長である、双方大人しく付いて来てもらおうか?」
国の騎士団がタクテ達と白狐族との間に入り争いを抑える。流石に白狐族と言えど騎士団には逆らえないと考えたのか大人しく付いて行く。
そして残ったタクテ達の前に騎士団の隊長が出て来て話し合いが始まる。
「貴方達は何処に行かれる予定だ?」
「我々は赤龍様の頼みで子供達をメガタン村のリユーメと言う方に預けに行く途中だ」
騎士団の小隊長が驚いた顔を一瞬する。獣人族の国にとって赤龍と鳳凰は守り神とされていた、その守り神から依頼を受けて移動しているとなると勝手に処罰する訳にも行かない。
「了解した。一度騎士団の詰所に来てもらって話しを聞いても良いか?」
「わかった」
タクテが言葉少なく答える。素直に従った方が面倒が少なくて済む、単にそう考えただけの事だ。
白狐族とは別の建物に入れられると、其々に身分証明が出来る物を出す。タクテとダリアは身分証明書を、連れてきた子供達はメルダリアが保証した存在証明書を出す。
そして最後に白猿族の女性の番になる。騎士団が来てからフードを目深に被り顔を一切見えなくして隠し続けている。
騎士団が警戒しながら女性に声をかける。
「では、貴女で最後です。フードを取って証明書を出してもらえますか?」
「はぁ〜。わかりました。もうっ!! 折角ここまで来たのに」
突然不機嫌にフードを外し何かの紋章が付いた短剣を取り出した。
その姿を見た騎士団の隊長達が立ち尽くす、それを見て余計に女性が不機嫌になる。
「ひ、姫様!? このような所で何をなされているのですか?」
「「「「「姫!?」」」」」
タクテとダリア、そして連れてきていた魔人族と獣人族の子供達も驚いて声を上げる。




