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鬼ケ島伝説 鬼がしらと呼ばれた男  作者: 武田 健太郎


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29.

伝次郎達と忠勝のおっちゃんの家に戻るとハルナが飛び出して来た。

「将、あんた怪我とか大丈夫なの? 何処も何とも無い?」


そのハルナの反応にみんな驚いてしまう、そこで初めてハルナが腰を抜かし俺に背負われてる又佐を発見した。


「あれ? マタ、何で将に背負われてるの?」

「ちょっとな、余りに凄い事が合って腰が抜けてしまった、悪いとは思ったけど将がここまで運んでくれたよ」


「す、凄い事って何?」

「ハルナもその内わかるようになる。お前は最後まで将と一緒なんだから」


「そ、そう」

又佐を忠勝のおっちゃんの家の中に入れて降ろす、すると夢が来た。


「ハルナが、将が心配だって言ってうずくまってしまったんだよ。

将、ハルナに優しくしてやりな」

「夢っ。そんな事無い!」


「だってさっきまで」

「夢うるさい」


そんな2人のやり取りを見ていると愛と忠勝のおっちゃんが来る。

「将、戻ったか?」

「ああ、おっちゃん。変わった事は無かったか?」


「中に入れ、お前達にも話がある。デン、マタ、ユキ、お前達もだ。菅生の棟梁がお待ちだ」


忠勝のおっちゃんが来た事で夢とハルナが大人しくなる、何か聞いていたのだろう。


中に入って菅生の棟梁のいる部屋に入る、すると菅生の棟梁と愛が揃って上座に座って俺達を待っていた。

「将、さっきは悪かったね」

「ワタリの事か? 気にしなくていい。俺は人を物のように扱う奴が嫌いなだけだ」


「うんうん、将ならそう言うと思ったよ。

みんな揃ったね、新しい月読みの知らせが出てね。ここにいる全員に知らせるように言われたんだよ」

「でしたら、俺達が菅生の棟梁の家に行きましたのに」


幸太郎がそう声をかける。幸太郎は菅生の棟梁の体を常に心配している。


「ユキ、有難う。でもね、うちの家はどうにもね。少し風通しが良すぎたようでね、ここだと問題は無いと思うよ。


それに今日は元々門馬の親方の家にお勤めで来ないと行けない日だからね」


そう言うと俺達の顔を見る。

「僕は来月まで持たない。よって正式に愛を菅生家の棟梁として即位させる事にした。


本来なら、代替わりしないと使えないと言われる月読みの能力も愛はすでに使えるからね。


先週、今の帝にその事を伝える親書を送った所だ。ただ、代替わりしたばかりの月読みの神職は能力が弱いと思われている。


京の都の者達がその時期を逃すはずは無いと僕は思っている」


その言葉にみんなが一斉に騒ぎ始める。今、菅生の棟梁が亡くなると分かったら村全体がおかしくなると。


すると忠勝のおっちゃんの声が響く。

「静まれっ!!」


ビクッ! みんな忠勝のおっちゃんの怒気に驚いておとなしくなる。

「何の為にここにお前達が集められたと思う。馬鹿騒ぎをして菅生の棟梁と愛様を困らせる為では無いぞ!!」


「ちょっと良いか?」

俺が突然声をかけた事でみんなの目線が俺に集まる。


「今回、カマリがここに来る事と菅生さんが引退する事と何か関係が有るのか?」

「将、今はそんな事どうでもいいでしょ」

ハルナが俺の袖を引っ張って睨み付けて来る。


「いや、大有りだ。親書を送った事が何処からか相手に伝わっているとしたら、我々の動きは全て相手方に把握されていると言う事だ。

つまり、仲間内を疑いながら戦わないと行けない。いつ背中から刺されるか分からない状況と言う事になる」


「それは私から話すよ」

愛が俺を見て悲しそうな顔をする。


「私達の一族は全員がここ大蔵村にいるわけではない。他の人達と結婚したりして、その村に残ったり自分達で別の村を作ったりと色々何だよ。


それでね、私達もそう言う人達と交流が無い訳じゃ無いの。


ましてや月読みの神職を頼る人達はこの大蔵村以外にも多くいるからさ、どうやっても私達の情報は出て行くのよ。それにお父様が神職を辞めると他の村々に伝えたのはすでに一ヶ月も前の事。


そこから様々な噂なんかが広がっているのよ」


ハルナが胸を張り俺を見る。

「だから言ったでしょ。この村にそんな奴はいない」


そう言うハルナを見て愛と伝次郎の顔が暗くなる。

やはり2人はワタリとつがなった奴がこの村にいて、手引きしている事を知ってる。恐らく、ハルナ以外の奴は何となく感づいているのだと思う。


ハルナは凄く真っ直ぐで、優しくて、責任感の強い凄くいい奴だ。代わりに人を疑う事を極端に嫌がって騙されたりする。だが本人曰く「疑って警戒するより、騙されて物取られた方が私は良いかな。仲間を疑うって凄くしんどいんだよね」そう言って憚らない。


そんなハルナだから、忠勝のおっちゃんを始め皆何も言わないのだろう。

愛と伝次郎の反応を見てそう思った。


「悪かった、俺も余計な事を聞いた」

俺がそう頭を下げると菅生の棟梁がニコニコとする。


「でだ、今日新たにでた月読みの知らせだが、将。夢もハルナと同じように娶ってもらいたい。


別にハルナと同じように子供はもうけなくて良い。頼めるか?」

「はぁ!? 菅生さん、あんた何を言ってるのか分かってるのか?」


「勿論だとも。他の人では夢を守る事が出来ない、君だけにしか出来ない事だ」

菅生の棟梁曰く、実田の国と京のお上達が夢を結婚させ、この大蔵村から追い出す事を考えているらしい。その為にわざわざ京住まいの家臣の裕福な家の息子を準備しているのだと言う。


その話しは実田の国を治める時東 鎌田薫 只信の名前で発布されるある種の命令なのだと言う、この辺の村々ではそれに逆らう事すら許されないのだとか。


それに対抗するには、蝦夷の国の者と言う認識の俺が夢とハルナとの結婚を宣言する事が重要なのだと言う。まして時東一族は俺を過大に恐れている、そんな俺の妻となったハルナと夢にちょっかいを出すと戦争が起こる。そう思わせる事が最大の防御策なのだと言う。


しかし面倒臭い。異世界のグランバルトじゃ重要な者には一切手を付けるな。だったのに、こっちじゃやれ嫁にしろばかりだ。


しかも夢とは子供はもうけなくても良いとか、俺達の人権は何処に行った?


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