25.
夢との対戦が始まる、夢の希望通りに鬼がしらを抜いて対峙する。
しかしと言うか、やはりと言うか夢は強い、こうして対峙すると良くわかる。自然体でありながら全く隙のない構え、ゆったりとリラックスしているにもかかわらず何時でも飛び出せるようにしなった無駄の無い筋肉。
俺が異世界で出会った者達も含めて、この夢が一番凄い剣士だと思う。
異世界で出会った姫騎士 メルダリアも王宮騎士のタテクも物凄い剣術の達人だ。
各々の国で最強と歌われる程の実力者だ。だが、そんな2人ですらこの夢と比べると霞んで見える。
いつ以来だろう。こんなにワクワクとした気持ちになるのは? 不思議と夢を見ていると心が弾んでくる。
異世界に召還された俺は、ズブの素人の時から、武器を握らされて無理やり戦いの世界に入れられて、最終的に魔人王を倒しすまでに成長した。
その過程で戦いに楽しみを覚える時があった。誰かと戦い、生き残り勝ち続ける事に対し喜びと興奮を覚えたのは確かだ。
その喜びと興奮は、苦しさと悲しさと後悔。この3つといつも表裏一体だった。
モンスターと戦い、盗賊等と戦い、時に其々の正義の為に戦うその国の兵士達と戦った。
そこで俺は、ある種の人しての感情を捨ててしまったのかも知れない。だがそのおかげで魔人王と会い、ライバルと思える程の戦いをして勝利する事が出来た。
幾度と無く魔人王と対戦するうちに魔人王が何故、無茶な戦いを挑み続けるのかある程度わかるようになって来た。それは魔人王も俺の人となりを理解するのに十分だったのかも知れない。
だから、だからこそ互いにライバルとしてしのぎを削り、命をかけて互いの正義の為に戦い尽くしたのだ。
魔人王と最後の対戦をし、雌雄を決した後、俺は空っぽになった。そこに喜びではなかった、虚しさと言いしれない後悔の念が俺を襲ったのだ。
魔人王は強かった、紛れも無く異世界最強の王、異世界最強の騎士だった。
そんなライバルが俺に倒されてしまったその時、初めて虚しさを覚えた。
「何だ、寂しそうだな」
それが魔人王の最後の言葉だ。
魔人王はニヤッと笑い俺を見て最後を迎えた。
その時、初めて俺は魔人王と言う男と戦っていて楽しかったのだと気が付いた。
それは何時までも続く時間だと、俺は勝手に思い込んでいたのは確かだ。そんな思いを持った俺の中で、魔人王を倒した後の喪失感は物凄く大きい物だったのは間違い無い。
欲を言えば今でもあの魔人王と対戦していたい、そう思わせる程の充実した時間だった。最高の一時だった。
無理やり異世界に連れて来られ初めて得られた喜びだった、だがその事に全てが終わってから気が付いたのだ。
そんな過去の情熱と熱い思いを、今その情熱を思い出させる程の人物と対峙している。それはある種の運命なのだと思う、俺は再度出会ってしまった。
それが夢だ。夢はレベルと言うシステムが有る異世界に行けば魔人王を凌ぐ最強の人類として未来永劫に語り継がれる逸材だ。
同じ条件なら、伝次郎、又佐、幸太郎も同じだろうが、夢はそんな中でも頭一つ抜きんでた存在だ。
「夢、俺はお前という強者に会えた事を感謝する」
「そ、そうかい。
私はお前に勝負を挑んだ事を今更ながらに後悔してるよ」
夢の顔色が悪くなる、何を俺に見て何を思ったのかは分からない。
だが最初の自然体の夢はそこにいなく、今は緊張し固くなった奴がいる。
「俺に何を見るいるのか分からないが虚像は動かない、だが俺は動くぞ。
夢もっと力を抜け。
今の状態じゃあ力んで屁が出るぞ」
「な、何で屁が漏れた事がわかった。それよりも言う事無いだろう!
酷いぞ将」
夢が真赤になった顔で俺に抗議する。
その姿に回りに集まった者達が俺を刺すような目で見て、抗議の意思を表した。
「え? いやいや、力むといい事無いよって、そう言う話で・・・、あくまで他意は、な、ないです」
冷や汗を流しながら誤解を解こうと思ったが無理なようだ。うん、やっぱりと言うか皆が俺を冷たい目で見て来るぞ。
「えっ、ち、違うぞ。俺はあくまでアドバスのつもりで・・・・」
「将って酷いな」「まさかあんな事を言うなんて」「夢だって嫁入り前だぞ」
伝次郎、又佐、幸太郎の3人がコソコソと俺の悪口を言う。
夢がプルプルと震え出す。
「将、お前責任取れ。こんな恥ずかしい思いさせたんだからな、お前責任取れ!」
「へ?」
「へ? じゃない。この大馬鹿者!!」
変なタイミングで夢の攻撃が来始めた。未だ恥ずかしいのか動きは鈍い。夢の攻撃を二度、三度とかわすうちに夢の動きが変わってくる。
無駄の無いしなやかな動きに変化して来た、そして夢を見ると目が完全に据わっている。
一度、夢と距離を取り刀を上段に構え直し、呼吸を落ち着かせ夢と対峙する。
夢も気持ちが落ち着いたようで、さっきまでの慌てた様子は無い。
上段に構えた俺に対し刀を後に向かわせ中段に構える夢、互いの距離に入る事無く対峙する。
肌がヒリヒリとする感覚を味わい、軽い興奮の中攻めに転じる。
ヒュン! ザッ!
互いの刀が肌に当るスレスレを通る。攻める時も避ける時も十分に距離を取るように考え動いているが、夢は俺のその動きをはるかに超えてくる。
「うん?」
夢が俺を見て少し下がった。
その動きをとらえ一気に距離を縮めて上から振り降ろす、夢の動きが少し遅れ鬼がしらが夢の首の前で止まる。
「フッ!!」「く、やられたぁ」
互いに刀を降ろす。
「ウォー」「夢が負けた!」




