15.
桃太郎Side
司令船1隻と護衛舟4隻だけを残し、ほぼ全ての舟を破壊され敗走を余儀無くされた桃太郎達は、実田の港に何とか帰港する事が出来た。
誰しもが港を出る時には勝利を確信していた。門馬の親方と三羽烏と呼ばれる漁師の3人を討ち取り、鬼達の戦力を削ぐと。何より自分達の勝利を何も疑う事無く信じ切って出港したのだ。
所がまたあの男が出た。あの鬼頭 将と言う男が来てから物事が大きく崩れ出した。
過去にワタリが奴等にバレた事はなく、好きな時に奴等の情報を得ることができ、例えいさかい程度の衝突でも鬼どもに負ける事は無かった。
ましてや、本日連れて行った兵士達の多くは、この辺りを縄張りにしていた元海賊共だ。舟の扱いに長け戦上手と呼ばれ海の戦闘を得意とした者達だ。
これが門馬の親方や三羽烏ならまだしもあの男1人にやられたのだ。この敗北感、この屈辱、何としても晴らしてやらぬとこの桃太郎、一生の不覚となろう。
だが、これからの時期は如何に領地の兵士言えど連れ出す訳には行かない。皆、農家との兼業兵士だ、これから戦に連れ出したりすれば一気に反発が起き一揆につながる可能性もある、兵士達を動かせないとなると一旦休戦しないとならない。
我が国が如何に豊かで強いと言えど農家との兼業兵士がメインだ、そこを尊重してやらねば後ろから刺されると言う物だ。
桃太郎が帰る船の中で唇が血を流す位に怒に震えている、それを見た犬飼、雉子藤、猿山の3人も桃太郎に声をかけれずにいた。
そして桃太郎の目下の悩みは敗戦の報告をしないと行けない事だ、そこに頭を悩ませている。
実田の港に付き移動をする、行く場所は父の居城。父である時東 鎌田薫 只信は何時もの居城に居る、その居城に向かう足が自然と重くなる。
桃太郎も歳は18才。16才で初陣を飾り、実田の国の平定に努めてきた経験がある。
ましてや、ここ実田の国の中では右に出る者がいないと言われる程の刀の名手。
さらに自らを戦の名人と自負心を持っている。その自負心を一度ならず2度も打ち砕かれ、怒りと悔しさの渦に自らの心が沈んで行く。
だが、桃太郎も過去に負けた事が無い訳では無い。1度目は、大蔵村の夢と言う女との対戦だった。
大蔵村の前を通った際、見知らぬ子供が桃太郎達の前に飛び出て来た、無礼討ちをしようと刀を抜いた所でその夢と言う女に制されてしまう。
そして夢と言う女と対戦、はっきりと言って惨敗だった。真正面からの正々堂々の勝負で負ける、何故か負けた事に対する怒りや不満等は無かった。
純粋に自らの力量が足りない、そう実感したのだ。だが今回は違う。
鬼頭 将の戦い方は戦略と言えば戦略かも知れない。だが合戦とはならずあの鬼頭 将1人にやられてしまった。
船は全て木製だ、だが造りは頑丈。所があの男、よりによってあんな巨大な石を軽々と投げ付け舟を破壊したり、重さで舟を沈めたり、バランスを崩させて舟を転覆させたりと見たことも無い戦い方をし始めた。
そしてあの門馬の親方だ、舟の操縦技術に置いては、やはり他の追随を許さない上手さがある。
あの2人が組む事に本当に恐怖を覚えてしまう。
桃太郎達が時東 鎌田薫 只信の居城に付いたのは夜がかなり更けった時だ、時東 鎌田薫 只信への報告は次の日に持ち越されてしまう。
そして翌日、時東 鎌田薫 只信の配下、それも各地に散らばる幹部連中が集まっていた。それは他ならない桃太郎の戦勝を祝う為の物だ。
その歴々の者達を見た桃太郎は更に心を渦の中に深く沈めて行く。
「時東 桃条 小太郎、入ります」
「うむ」
父である時東 鎌田薫 只信の返事に苛つきを感じる、やはり敗けた事は伝わっているようだ。
桃太郎が頭を下げ太ももに手を置き中腰の姿勢で部屋の中に入り、中ほどで来るとそこに座る。
すると父である時東 鎌田薫 只信が話しを始める。
「間もなく農作業の忙しい時期になる。今回はそうなる前に鬼どもを一掃する予定であった。
はぁ、それが叶わぬ。良くも良くもわしの予定を壊してくれる男だ」
「は、帰す言葉もございません」
頭を下げたままの桃太郎がそう答える。
「して、物見に聞いた。たった1人の男が我らの海兵達をほぼ全て海に落とし死なせたと」
時東 鎌田薫 只信が桃太郎を睨むと、頭を下げた桃太郎もその視線を受け止めていた。
「ふん、桃太郎の報告を聞こう」
「ハイ、恥ずかしながら敗戦の報告をさせて頂きます。
我らは司令船2隻、戦闘舟を50隻余りで向かいました。
当初、海には門馬の親方と三羽烏が中心と考え、陸の入口に鬼頭 将を釘付けにする対応を考え対戦しました。
ですが、陸の入口にはあの夢と言う女と猟師共の親方である又兵衛がおりました。
そして海に鬼頭 将と門馬の親方が我らを迎え撃つ準備をしておりました」
「まて!」
時東 鎌田薫 只信が桃太郎の話しを止める。
「あの狭い入口だ、例え刀の名手と言えど複数で囲めば勝てるはず、何故勝てなかった?」
「お館様、それは私が代わりにご説明いたします」
それは桃太郎から見て向かって右手に鎮座する時東 鎌田薫 只信の最側近の男だ。
「奴ら入口に木々を固めた物を準備し、中に入るのが大変難しい状態を作り出しておりました。更に道の上に弓矢兵を置いて、我らの兵士30人を最初に全滅させております。
その後、我が息子が兵士50人を伴い応援に駆けつけましたが、あの夢と言う名手と一騎討ちを行い首を跳ねられてございます」
「な、そなたの息子だぞ? この桃太郎と引けを取らない刀の名手だぞ」
「ハイ、ですが逃げ帰った者達の弁によれば、非常に勇敢な最後だったと聞き及んでおります」
「な!?」
時東 鎌田薫 只信がガックリと肩を落とす。




