132.
異世界Side
(少しの間 異世界のお話です)
鳳凰の元を追い出されたメルダリアとミューモはキザンの馬車に揺られながらゆっくりと移動をしていた。
キザンが連れている馬はすでにその役目を何時終えてもおかしくない位に年老いた馬だ、だがキザンはこの馬が好きで馬もキザンから離れようとはしないのだ。
「キザン、この後の村で一泊しましょう」
「良いのか?」
「うん、頑張ってもらってる馬を休ませないとね」
メルダリアがそう言うとキザンが驚いた顔でメルダリアを見る、かつてのメルダリアからは想像も出来ない言葉だ。
以前のメルダリアならば「使えない物に何時まで金をかける、不要な物は捨てて新しい物を準備せよ」そう言っていたはずだ。
それは人であれ、物であれ関係は無く自分から見て不要と判断したものは一切必要が無い、無価値な物だと斬り捨てるのが当たり前だった。
まあ、それはメルダリアに限った話しでは無い。グランバルト国の多くの貴族達がみんな思っていた事だ。
そんな思いから奴隷制度が作られた、自分達に取って利用価値の有る都合の良い人を欲する欲望の大きさ、それを正当化する人の狡猾さがグランバルト国に蔓延してしまったのだろう。
村に付いて宿に入るとキザンはメルダリアの行動にさらに驚かされた。馬小屋に入ると老馬を甲斐甲斐しく世話しはめだのだ。
「疲れたろう、良くここまで運んでくれたね」
そう老馬に声をかけブラシをかけ始める。以前のメルダリアしか知らないキザンにとって天変地異にも匹敵する程の衝撃だった。
「ミューモ、メルに何か合ったのか?
あのメルが馬の世話を率先してやってるなんて、鳳凰様に何かされたのか?」
キザンにそう言われたミューモが笑いながらメルダリアを見る。
「メルは普通の女の子だよ。
ただ、他の人とはちょっと立場や教育された環境が違うだけで。
あれが本来のメル。でもグランバルト国内では絶対に出来ない姿よ」
「国の中では出来ない、か」
キザンが怖い顔になる。
実際にキザンが獣人族の国を出たのには理由が有る、父親が国王で有り腹違いの兄が王太子だ。
もう一人の腹違いの弟は知性に長けていずれは国王補佐にと期待された存在、所がキザンは子供の頃は体が弱く力も無かった。喧嘩をすれば兄にあっさりと負け、勉強すれば弟に勝てなかった。
兄弟達はその事に何を言うでもなく、普通にキザンを家族として受け入れ仲良く暮らしていた。
身体を強くする為に兄が良くキザンに付き合い訓練を行い、勉強は弟が良く手伝っていた。
だが、家臣達に当る他の貴族達のキザンを見る目はあからさまに冷たかった。このような出来の悪い子供を何時まで王族として置いていくのか?
何時も国王にそう言っては詰め寄っていた程だ。
そんなキザンに救いの手を差し伸べたのが白狐族の大爺だ。
「キザン、皆の言う事など聞くでない。お前は強い、それはわしが保証しよう。
それよりもキザン、どうだわしと旅にでんか?
まあ、稽古は付けるがの」
キザンにそう言ったのはキザンが未だ10才の時だ。キザンは回りにいる貴族達から兄や弟の足を引っ張る存在として疎まれていた事を知っていた、だからだろう白狐族の大爺の話に直ぐに乗ったのだ。
その日の夜、家族みんなで食事をしている時にキザンがみんなに言う。
「お父様、お母様それとお兄様や弟達に聞いてもらいたい事がある。
俺は王籍を抜けて白狐族の大老と共に旅に出る、今日白狐族の大老に誘われて行くと伝えた」
「え?」「何を言って」「に、兄さま?」「キザン、それは本気か?」
キザンの話を聞いた両親に兄と弟は言葉が詰まる状態で固まってしまった。
その次の日、白狐族の大爺が王城に呼ばれる。城に白狐族の大爺が来ると真っ直ぐに国王の座る椅子に向いどっかりと座る。
すると脇に控えた国王を始めとした国を治める者達が白狐族の大爺の前に平伏して並ぶ。
「なんじゃ、こう見えてもわしも忙しい身だ。くだらん要件でないな?」
「ハイ、キザンより昨日話を伺いました。ですがキザンの王籍は残して起きたいと思っております」
「王籍? キザンが抜けると言ったのか?」
「ハイ」
平伏したまま国王がそう答える。
「ふん、誰ぞキザンをそこまで追い込んだ馬鹿者がいると言う事か。
良いか、キザンを連れ出す事を決めたのはこのわしだ。キザンはわしの後継者になれる器を持っている、その事も理解ができん馬鹿者共に言っておく。
貴様ら己の首を洗って待っておれ、1年と立たずにその首をキザンが取りに来るだろう」
この言葉にキザンを追い詰め、キザンを利用し国王の座を狙う者達が色めき立つ。いかに白狐族の大爺が獣人族の中でこの人ありと謳われた戦士と言えど、高々1年かそこらで対した実力もないキザンを国を代表する戦士するなど出来る訳がない。
最強の戦士が最高の先生になる訳ではないのだ、そう複数の貴族達が腹の中で笑っていた。
それを見て白狐族の大爺が呆れたように言う。
「本当、貴族共は面倒でかなわん、己の実力で競う訳でもなく一族の強さで優劣を決めようとする、我らが国の矜持すら持たない者が多い。
どれ1年も待つ必要も無いだろう、今直ぐわしが首を跳ねてやろう。貴様らの汚い首などキザンにやらせるのは勿体ないわい」
白狐族の大爺が立ち上がると多くの貴族達が顔面蒼白となり、震え始める。
「大老、そのような冗談はさておきキザンの事をよろしくお願いします。
あの子は広い世界を見て様々な事を経験してこそ大成するのでしょう。
よろしくお願いします」
「むっ、国の事を押し付けておるお主にそう言われると仕方ないの。
この話はこれで終わりだ、王籍は抜く必要など無い」
「「「「「は」」」」」
そこに集まった全ての者達が一斉に返事をする。




