133.
異世界Side
こうしてキザンは白狐族の大爺と共に旅に出る事になる。
その旅に出る前日の夜、王城で白狐族の大爺と国王が話し合いを行っていた。
「心配は要らない、キザンに王城が狭かっただけの話だ。キザンはわしを超える獣としての本能がある、そのうち赤龍様や鳳凰様と普通に対戦出来るだけの実力を持つ」
「大老がそのように仰るならそうなのでしょう。ですが親としてはいささか心配でなりません、キザンは未だ10才の子供です」
「心配するな、旅は人を育てる。様々な人々と出会い様々な考え方を知り自らを見る良い機会だ。
いずれは兄のアパレルですら超える才能を持っている。
キザンは優し過ぎるのだ、人を傷付ける事を極端に嫌うその優しさは大事だ、だがその優しさを貫くなら優しさを上回る強さを身に着けないといけない」
「優しさですか?」
「キザンの奴が何故変な所で負けるか知っておるか?」
「いえ、すみません」
父である国王が一頻り考えて分からないと答える。
「キザンの奴な、対戦中に地面にいる虫や草花、回りを飛ぶ羽虫なんかも避けながら対戦しておる。
それを回りの騎士や貴族達、おまけに家族ですら気付かないと来た。それ程見事に自分の動きをコントロールしている」
国王が信じられないと言った顔をする。いかに訓練とは言え木剣での練習だ、当然当たれば痛い上に怪我をする事も有る。
稽古用の防具は付けているが怪我をしないと言った事はあり得ない、そんな中で自分では無く虫や草花を守ろうしている事に驚きを覚えた。
そんな状態にも関わらず相手の攻撃を交わしなおかつ自ら攻撃をするなど、普通の者には絶対に出来ない事だ。
「大老、キザンはあの年ですでに騎士達を超える実力を持っているのですか?」
「持ってるな、何時も訓練に付き合う騎士達の得手不得手も全て把握している。
怪我したり、苦手な所や動きが鈍い所は狙わずにその騎士が得意としている所だけを狙い五分の戦いをしている。
つまり相手の土俵で勝負して負けてはいないのだ。
そんなキザンの事だ、兄や弟だともっと気を使ってしまうだろう」
「そうでしたか」
父として息子の知らない一面が知れて嬉しくもあり、そら恐ろしく感じる所もある。
そして現在、最強の大老 白狐族の大老を超える可能性を秘めたキザンをどうするか、頭をフル回転させていた。
「キザンはわしが預かる、キザンに国は狭い」
国王の返答を待たずに白狐族の大爺がそう言い放つ。
「かしこまりました」
白狐族の大爺の一言はいかに国王であっても覆す事が出来ない言葉だ。
獣人族の国に置いて、強さこそが正義、強さこそが全てだ。
国王ですら白狐族の大爺には手も足も出ない、それ程に実力差が有る以上言う事を聞くしか無いのだ。
それからキザンと白狐族の大爺の旅が始まった。獲物の捕らえ方、解体の仕方、料理の仕方、野営の仕方等。戦い方以外にも様々な事をキザンは学んで行く。
そんな中で運命とも言える出会いがあった。それは魔人族の若き王太子との出会いだ、後にキトーとの対戦で負けてしまい命を落とすその人物とこの旅の中で出会ったのだ。
白狐族の大爺がキザンの良き対戦相手として選んだのが若き日の魔人族の王その人だった。
キザンと魔人族の王は直ぐに意気投合した、そして若き王太子は当時の魔人族の国の国王から許可をもらい白狐族の大爺とキザンと共に数年間旅を行った。
魔人族の国を隅々まで探索し、人族の国のグランバルト国内を1年以上をかけて回り精霊の国やエルフ族の国も見て回った。
この旅の時にキザンと魔人族の若き王太子は人族の国 グランバルト国の奴隷問題を知った。
若いキザンと魔人族の王太子はその現実を許す事が出来なかった。自らが国王になった暁には奴隷制度を全て廃止させると魔人族の王太子が誓いを立てると、キザンがその誓いを受け入れ協力する事を誓った。
この出来事が後に、世界中を巻き込んだ魔人族の国と人族の国 グランバルト国の対戦となる。
キザンがそんな事を思い出す。
もし、自分も白狐族の大爺に旅に連れ出してもらわなかったら今頃どうなっていたのか?
メルダリアのように都合の良い事実だけを押し付けられて、本当の事を知らずに過ごしたので無いか?
もしかしたらすでにこの世界は命と言う命が何も無い寂しい世界になっていたのではないか?
そして何よりもキトーと出会う事の無かった人生だったのでは無いか?
そう思うと恐怖してしまった。
長々と考え込んでいたキザンを見てミューモが声をかけてきた。
「キザン、メルも終わったよ。中で美味しい物でも食べようよ」
ミューモに声をかけられて直ぐに我に返る。
「そうだな、この村は酒が美味くて有名なんだ、メルの奴も飲めるだろう?」
「酒? 良いね、わたし結構目が無いんだ」
キザンがジト目でミューモを見る。
「お前さん。聖女だろ教会付きの」
「固い事は言わないの、良いじゃないの今は教皇様も枢機卿様もいないんだから、こんな所じゃ無いと私も羽を伸ばせないのよ」




