127.
その狼の遠吠えに合わせるように人の叫び声が辺りから聞こえてくる、カメルンが弓矢を持ち家を出ようとするのを止める。
「カメルン、今出ていけば俺達みんなが狼の餌食になる」
「でも棟梁」
「恐らく襲われているのがカメルン達の父親達だろう、昼は引いたが村に作った堀の前にたむろしていた」
「なっ、未だ子供達の事を諦めていなかったのか」
カメルンが少し混乱しつつもその場に座り込む。
「伝次郎、ちょっと付き合ってくれ。村の外を見に行く」
「ああ」
「危険だよ、狼の群が来てるだよ」
俺が伝次郎を誘うとアンが驚いた顔で止めようする。
「又兵衛、悪いがここと子供達の事を見てもらっても良いか?」
「かまわない、伝次郎は槍をもってきたか?」
「いや、将から斧と言うのを借りるつもりだ。刀よりも扱いやすいしな」
アンの不安気な顔を見て愛がアンの肩を抱く。
「アン、伝次郎は将に負けることの無い強者だ。今は私達が出ていけば足手まといにしかならない」
その後、又兵衛から罠を仕掛けた場所を聞き家を出る。すると俺の後をハクロウが付いて来た。
「ハクロウ、お前も行くのか?」
「ウー」「ワン!!」
ハクロウが珍しく怖い顔で返事をする。
「ならおいで、でも危険だと感じたら逃げるんだぞ」
ハクロウが尻尾をフリフリしながら俺の周りを走り回る、それを見た伝次郎が不思議そうな顔で俺を見ていた。
「将、お前ってハクロウの言葉がわかるのか?」
「何となくな」
俺と伝次郎の話を聞いていた愛達が俺を見て、ヒソヒソと話をする。
その姿が気になって愛達を見ると、全員がバッと俺を見て何かを誤魔化すかのように笑う。
「将、行くぞ。狼達の鳴き声がだいぶ近付いて来ている」
「わかった」
堀を作った場所に向い村から下に降りる、途中何か所でカメルンの父親の仲間が又兵衛の罠に捕まり逃げ出そうとしている。
それを見つけて伝次郎が殴って気を失わせる、中には両足だけでなく両手まで罠にはまり動けなくなった者もいた。
堀まで降りて村の外に移動、するとカメルンの父親達が寝床として作った掘っ建て小屋を見つける。
中から灯りが見える。
伝次郎と二人、姿勢を低くして小屋まで来る、伝次郎が外を警戒する中小屋に入る。火を焚いていた残りがまだ燃えているだけで人はいなかった。
「将」
伝次郎が何かに気が付いたのか、小さい声で俺を呼ぶ。小屋を出て伝次郎の後に付いて移動すると人が倒れているのが見える、狼達に噛み付かれてやり合ったのだろう傷跡が残っていた。
その傷跡の酷さは目を背けたくなる程の酷さだ。
月の明かりが俺達の事を照らすように雲の隙間から顔を出すと、辺り一面に人の死体が転がっている。
「ワンッ ウゥゥ」
ハクロウが何がに気が付き遠くを見て吠える。暗闇に俺と伝次郎の目には見えていないが、ハクロウが睨む方向を見て伝次郎が斧を構え腰を落として構える。
流石にここまで来ると俺にもわかる、俺達は狼の巨大な群れに囲まれいたようだ、この群れは10や20と言った数じゃ無い。
どうすればここまでの群になる? そう聞きたくなる位に数いる。
俺達を囲むように3列に並んでいる、そして俺の正面にいる一際デカい狼がボスだろう。歴戦の強者と言わんばかりに太々しい顔をしている。
正直、魔法を使えば勝てるとは思う。だが、魔法を使っても魔力の回復が見込まれないこの場所で魔法を使うべきか、桃太郎達との対戦を控え出来るだけ温存したいと言うのが俺の本音だ。
異世界で得た魔力は、地球では回復することが無い。やっぱり地球上には魔力の元になる魔素が無いのだろう、使った後の回復が異常に遅い。
桃太郎といずれ対戦しないといけない事が分かっている、だから大量に魔力を消費する戦い方は避けないといけない。
ならやる事は一つ、敵の大将を狙って確実に倒す事だ。
刀の鬼がしらを抜く、魔力を循環すると刀の鬼がしらがブンと音を上げる。
「伝次郎、俺はあの狼の棟梁を討つ」
「わかった、なら抜けてきて襲って来た狼を倒す」
「頼むぞ」
「将、こんな所で死ぬなよ」
「ワン!!」
「ハクロウ、お前も死ぬなよ」
ハクロウが俺達の前に出て小さな体で大人の狼達を威嚇し始める。
唸り声を上げて小さな体で怖い物など無いと言わんばかりのハクロウを見て、周りを囲む狼達が苛立ちを覚えたようだ。
ちょっと前に出て頭を下げつつもハクロウを見て吠え始める、するとボス狼に向う道が見えた。
その隙間をめがけて走り出し、回りにいる狼をを斬りながら進むとボス狼が一つ後に下る。
やはりこのボス狼は戦い慣れている。
そう感じてさらに狙いを定めようと一瞬止まると俺の回りに狼達が集まってくる、どうやら狼達は個別攻撃をして今まで勝って来たのだろう動きに無駄がない。
回りに集まった狼達を斬りすてながらもボス狼に攻撃を仕掛けるが、ボス狼が嘲笑うかのように俺の攻撃を交わしては配下の狼が俺を襲う。
何とも連携の取れた動きだ。




