102.
愛の神楽が始まる。神に踊りを捧げ、その対価として神託が降ろされる。
その神楽がさらに愛を妖艶に魅せる。
ふと見るとユンバルが愛に釘付けなっていた、そんなに凄いかね。
俺は神楽を見ても何とも思わない、それは俺の感性の問題なのかも知れないけど、釘付けになる程とは思えない。
それは別にユンバルに限った事じゃない、ハルナや夢もそうだし、愛に会いに来る様々な人達が神楽を踊る愛に釘付けになっている。
一度そんな事を言ったらハルナに呆れられた事があった。
「将は感動が薄い」そう言われて少し小言を言われたことがある。
ふと、神楽を踊る愛と目が合った気がした。以前愛に言われた事があった。「将は神気に慣れているから何とも思わないのだろう、他の者達は神気に触れる事すら無い。だから物凄く惹かれるのだ」
「神気になれてるってどう言う事だ?」
「赤龍様や鳳凰様だ。あのお二人は神だ、その神と将は仲が良いらしいな」
「なんで愛が赤龍や鳳凰の事を知ってるんだ?」
「内緒だ。それと私は月読みの神職だぞ、神様に関わる事に詳しくてもおかしくは無いだろう」
そんな事を言われた事があった。ユンバルやハルナ、夢は神気に触れ神気に心を奪われているのだろう。
神楽が終わり愛が肩で息をしながら神託を受け取る。
神託を受け終わる時には皆んなが落ち着きを取り戻し、ゆっくりと愛を見る。
「ふ〜」
愛が呆れた顔でユンバルを見る。腰に手を当て、本当に呆れた顔をしている。
「所でユンバル、そなたそもそも今回このルルイの盗賊達の討伐に選ばれていないらしいな、それに勝手に付いてきて兄に見つかり帰れとあれ程叱られたのに勝手にここまでやって来て。
兄は相当に怒り心頭のようだが、どう言う事だ?」
「え?」
ユンバルが固まった。愛のこの能力の凄さを俺達は幾度なく見てきた、だからこそ隠し事が出来ない事を知っている。
だが、ユンバルは分からなかったのだろう。自分の事がここまで筒抜けになる事すら想像もし無かったのだ。
ユンバルが愛に睨まれて震えて下を向く。
「将、このお馬鹿をルルイまで連れて行ってくれ。恐らくそこでカンバラと会うだろう、カンバラに引き渡してやってくれるか」
「かまわない、ルルイに連れて行くだけで良いか?」
「その後はそうだな、じいさま達を見に行ってやってくれか?
じいさま達には無理をお願いしてるからね。今回はハルナも夢も行っておいで」
「良いの?」「本当?」
ハルナと夢が手を握り合って喜んでいる中、ユンバルが立ち上がる。
「まだ、俺は帰れない。姉さんを助けないと帰れないんだ」
愛がユンバルの前に立つと両手で肩を押さえる。
「ユンバル、そもそもお前が兄の言う事を聞いていたらその姉も捕まることが無かった。
それに、兄達がその姉を助けた後でお前が捕まったりしなかったら、兄達もあんなに殺気立つ事も無かったろう。
お前は自分が良かれと思って回りに迷惑をかけ続けている、少し自分の事を反省したらどうだ? お前の嫁は心配で夜も寝れ無い状態だぞ」
どうやらユンバルは、良かれと思って行動するが裏目裏目にでてしまうようだ。まるで俺みたいな奴だよ。
ん? どっかで聞いた事がある気がする。ま、まぁ、気にしないで行こう(まるで俺みたいな奴だよ、そう思ったが頭の中から全てを消去した)。
ユンバルが愛の言葉に余っ程驚いたのだろう、顎が外れると思う程に口を開けてアワアワとしている。
つまりだ。姉はすでに助けられており、それを知らずに単独行動をして盗賊達に捕まり、カンバラ達がユンバルを捜していたと言う事なのだろう。
ひょっとして俺がカンバラ達と出会った時に、ユンバルを探していたのか?
ふと、そう思い愛を見ると愛が頷いている。そうなると疑問が有る、ユンバルは自力で盗賊の所から逃げ出しのか?
「ユンバル、ユンバルはもしかして自力で盗賊達の所を抜け出したのか?」
「ああ、盗賊達の所に狼の群が来た、その隙を付いて俺は逃げ出す事に成功したんだ」
「なぁ、ユンバル。
お前が何をしようとそれはお前の自由だ、だが自由を押し通すには力が必要だ。敵に負けない力、自分1人で生き延びる力、そして全てを受け入れる力、全ての責任を受け止める力だ。
その力が無いのに勝手な事をするのはただ邪魔なだけだ」
俺の言葉がよっぽど腹が立ったのだろう、ユンバルが睨み返す、すると愛が俺とユンバルの間に割って入る。
「止めておけ、将に勝てる人間はこの世に存在しない。おまけにハルナや夢にすら勝てないだろう、ユンバルお前は将にはけして勝てない、ここは言う事を聞いて大人しく帰るんだ。
それが、カンバラやお前の奥さんにとっても一番だ」
ユンバルが愛にそう諭され大人しくなる。
その日の内にハルナと夢、ユンバルを連れて村を出てルルイに向かう事になった。
ルルイに向かう間、ユンバルが何か問題を起す事もなく順調に移動する。そして有り難い事に狼の群等に会うことなく順調に移動する事が出来た。
そしてルルイの跡地に付いてユンバルと共に立つ、ちょっと前の事だが盗賊達の亡骸はすでに無く、さらに狼達の群に荒らされたのだろう痕跡だけが残っていた。
ユンバルを伴いルルイに到着して30分も待っていると馬の走る音が響き渡る。
ドドドドドドドド!!
獣の毛皮を着込んだ集団が俺達を取り囲む、ハルナと夢が俺の背中を守るように三角形の形を作り警戒する。
すると1人の男が前に出る、顔に赤い染料を塗ったカンバラと名乗った男だ。
「鬼頭 将だったな? 何しに来た」
「俺を覚えてくれて助かるよ」
馬から降りる事無くカンバラが声をかけてきた、ユンバルを前に出してカンバラに伝える。
「ユンバルを助けた、ここに来ればカンバラ達と会えると思ってな。
カンバラの弟だと俺達は聞いている」
ユンバルと言う名を聞いた騎馬兵達が一気に殺気立つ。
するとユンバルが前に出る。
「兄さん、ごめんなさい」
突然ユンバルの前に1人の騎馬兵が出て来て、勢い良く馬から降りてユンバルに近づく。




