【3-2】
――十一月下旬。早いもんで二学期が始まってもうすぐ三ヶ月が経とうとしている。
昼休みの食堂にて。いつもの角っこの四角い四人掛けテーブル席をダグとアーシュの三人で陣取って、今日も今日とて大真面目にくだらない議論に時間を割く。
食後の歓談の際に。何か悩み事でもあるのか、正面に座るダグは深刻そうな顔をして僕に言う。
「リックスよ、今の我々には圧倒的に不足している必要不可欠なものがある。それは何だ?」
「んー……アレだろ? シナプス長期増強だろ?」
ダグは僕の顔面に向けビシッと指を差す。
「違うっ。我々に足りないのはアーシュの生足だっ」
左隣に座るアーシュが心底うぜぇと言わんばかりに片眉を上げながらダグを冷視する。
「おめぇ、まだ言ってんのか?」
どうやら長期増強が足りないのはダグの頭だけだったみたいだ。
今日の最高気温は十二度。時期的にホットパンツやミニスカを履くにはもう肌寒いだろう。
ちなみに友人二人の服装だが、アーシュは袖がサムホール仕様の紺のニットとジーンズ、あとはお馴染みのポニーテールと相変わらずのガチャガチャとした耳周り。
ダグは白Tにゼブラ柄のオーバーサイズのカーディガンを羽織り、下はライトブルーのワイドパンツという上下ともにダボっとした印象の格好。
二人に比べると地味なので取り立てて言うこともないが、僕は無地のグレーのパーカーと、黒スキニーのシンプルな上下。
ダグ自身は暖かい格好をしてるくせに未だに夏の幻想を追いかけているのか、妄執に取り憑かれた哀れな男は駄々をこねる。
「最近のアーシュは穴の空いたジーンズばっかで生足成分が足りないんだよ! 大体! 毎回毎回どこで転んできたらそんなに膝ばっか擦りむくんだよ!」
「ちげぇよ! ファッションだろが!」
え……。それってファッションだったんだ……。僕の地元じゃそんな膝が擦り切れたズボンを履いてる人は一人もいなかったから全然分かんなかったわ。
「そうだったのか……。てっきり朝練で草野球してるのかと思ってた」
愕然と言う僕に。お前もか、という流し目でアーシュがこっちを見る。
「何で毎朝グラウンドでヘッドスライディングしてる前提なんだよ。ここはバカしかいねぇのか?」
この流れを作った筆頭バカ主が僕に続き被せにいく。
「なんだ、俺はてっきりイメチェン狙いでドジっ娘アピールしてるのかと思ってたぞ」
「あたしがドジっ娘とかやる前からキャラ付け破綻してんだろが。ただの産廃マスコットができあがんぞ」
「あちゃー、需要なかったかあ」
悔しがるダグを見て。アーシュは呆れた顔をして言い詰める。
「おめぇはバカ言ってねえでちっとは勉強しろ。中期期末もう来週なんだぞ」
――そう。いよいよ来週、十二月の頭には中期期末が控えている。メアとの特訓の成果が試されるときが来る。
進級条件の一つでもある通算GPA【3.0】 以上を目指すには平均点よりもなるべく高い点数を取らないと厳しい。良い点が取れずB判定以下の成績になれば、場合によっては成績が足りず最悪三学期を迎えられずに退学するしかなくなる。……この正念場が僕の運命が決まる第一関門なのだ。
ダグは自信ありげに親指で自分を指差して言う。
「俺だって、こう見えても前回より勉強してるからな」
普段の言動からこいつはバカなことしか言えない病気にでもかかってるんじゃないかと疑いたくなるダグだが、これでも前期でGPA【3.0】 のラインをギリギリ下回った程度の成績だったので、決して良くはないが僕よりかは断然マシと言える。
ダグは得意げな顔をアーシュに突き出し、
「今回のエーテル基礎学はアーシュよりも良い点取れる自信あるぜ?」
と強気に出る。
アーシュもまた顔を突き出して不敵に笑い、打って出る。
「お? 勝負する気か? ――いいぜ、ただし負けたら罰ゲームな」
買い言葉に売り言葉というやつでダグはその気になったようで、
「乗った! 俺が勝ったら最低一週間は生足で過ごしてもらうからな!」
とアーシュのジーンズを指差して言う。
物好きでも見るかの目つきをダグに向け、アーシュは飽き飽きと応える。
「ほんとブレねえな……。んじゃあたしが勝ったらおめぇは島流し決定な?」
「刑が重スンギ!」
おどけた変顔をしてダグが両手でアーシュを指差す。
二人の様子を傍から見ていた僕は、遠い目をして天上の一点を見上げる。
「ダグって良い奴だったよな……」
僕の横でアーシュも傷心した表情を浮かべて俯く。
「ああ、亡くすには惜しいバカだったぜ……」
「そこ! 二人で浸るな、俺を見ろ!」
ダグが両手の親指で自分を指差しながらさらにおどけた変顔をするが……その渾身の顔芸をアーシュは華麗に無視して話題を変える。
「なぁ――前々から考えてたんだけどよ、中期期末が終わって冬休みになったらクリパも兼ねて皆でキャンプに行かねえか?」
ダグ的にはテンションの上がる企画だったのか、変顔するのも秒で忘れ去り食らいつく。
「キャンプ? イイネェ~! 一本イットクゥ~?」
もう乗り気になっているダグを傍目にすると、逆に自分が冷静になっていくのが分かる。
「この三人で? 楽しそうだけど……何でまた急に?」
「あたしらここんとこ勉強ばっかでフラストレーションのエグみがヤベェだろ? だから中期期末を問題なくクリアできたらちっとばかしガス抜きしてぇと思ってよ。――どうよ、悪かねえだろ?」
ニカッと歯を見せて笑うアーシュに。僕も思わず頷いた。
「確かに。それ聞いちゃったら『ナイスアーシュ!』としか言わざるを得ないね」
「よっ。ナイスアーシュッ」ダグもノってくる。
「だろ? リックスも行くよな?」
陽気に言うアーシュの勢いに押され、その場で行くと即決したいところではあったが、
「うーん……」
一瞬勉強のことが脳裏にチラつき悩む。
まだ予定は立てていないが夏休みの間もそうだったのを考えると、メアは長期休みの間こそ時間に余裕があって勉強するチャンスだと思っているタイプの人種なので、間違いなく冬休みの間も勉強会の予定をあれこれと企画するはずだ。
「行きたいけど……ちょっと訊いてみないと分からないな」
アーシュは片眉を上げ顔を顰める。
「訊くって誰にだよ?」
「まあ、その……家庭教師というか、先生にだよ」
「リックス、家庭教師なんて雇ってんのか? ガチじゃんよ」
ダグは驚いて真顔で言うが、
「まあね……」
うちの家庭教師は彼が想像している一般的なものとはまったくの別物だ。どちらかと言えばうちのは鬼教官……いやスパルタ軍曹とでも呼ぶのが相応しいルールガチガチの効率至上主義のガリ勉オタクだからな。最近はどんどん厳しくなる一方だし……。
何はともあれ。僕らの同盟関係は契約上秘密にしないといけないので、当然ダグとアーシュもあずかり知らぬところだ。ましてやメアは恋人だのなんだのと噂されるのを好まないのでこの話題は長引くとまずい。とっとと話を変えよう。
「それより、やるとしたらどこでやんの?」
「そりゃー……」
ちょっと言いにくそうにアーシュは頬を掻きながら視線を逸らすと、
「ヘヘッ。今は言えねえけどキャンプすんのに取って置きの場所があんだよ。絶対がっかりさせねえから期待しててくれよな」
ダグと僕に向け豪快に笑って言う。
「おう! 楽しみにしてるぜ!」と、ダグ。
「? まあ、そういうことならやるときのお楽しみにしとくよ」と、僕。
そうして。キャンプや中期期末の話をしている間に、今日の昼休みは終わりを告げた。
二学期に入ってからは、その日の講義が終わった後は毎日喫茶店ポロに集合してメアとの勉強会を行うのが僕の日課になった。僕のがいつも早く講義が終わるので一足先にほぼ貸し切り状態のポロに向かい一人で数時間ほど黙々と勉強していると、大体十七時半ぐらいにはメアが実験を終えて合流してくる。
今日も今日とて。継続しているうちにいつしか定位置となった入り口傍の右手側のテーブル席に座り、明日受ける講義の予習をノートに綴る傍ら、
「なぁ、メア」
対面に座りノートPCのキーボードに指を走らせているメアに話しかける。
彼女独自の校則では秋冬の通学服に認定されているらしいアイボリー色のガーリーなレースブラウスと、キャラメル柄の長めのジャンパースカートに身を包み、いつものサイドテールに結った髪を肩から垂らしている。
十月に入ってからはこのコーデを繰り返している。春夏のときと同様に同じような服を何着も持っているらしく、それらを着回しているようだ。
「んぅ? なーに、リク?」
手が離せないのか、淀みないタイピングを打ち込みながらこっちを見ずにメアは答える。どうやら小型エーテルリアクターの設計図の草案を練っているらしい。
二学期も終わりに近づいてきたこの頃。メアとの関係性で変わったことと言えば、今みたいな二人きりのときにたまに僕のことを『リク』とあだ名で呼ぶようになったことぐらいか。僕らの仲は相も変わらず、といったところだ。
それ以外で変わったことをあげるとすれば、メアが吐いてきた婚約指輪等の嘘がクリスティアの全生徒に浸透した結果、学園でのメアの人気はすっかり下火になったことかな。
それなのにメア自身は特に気にする様子はなく、遠くから彼女を見ながらニヤニヤと陰口を叩いているであろう集団を目撃しても、嫌な顔するどころかその光景をどこか嬉々としてさえ捉えているようにも見えた。そのときのメアはなんだか隠居を喜ぶジジババみたいでおかしくもあったが、基本的には勉強以外は頭にない彼女のことだからこれで学業に専念できる程度にしか思ってないのかも。
そんな勉強が恋人状態のメアに、冬休みの恋人との過ごし方を尋ねる。
「冬休みも勉強会するよな?」
そこでようやく手を止め――視線をこちらに向ける。……何やら口元がニヤついている。
「もちろんするけど――ひょっとして冬休みの間、私に会えないんじゃないかって今から心配してた?」
言われてみれば夏休みの勉強合宿以降、二学期が始まって顔を合わせるまではしばらく会えなかったので、その期間は寂しい気持ちがまったくなかったわけじゃないけれど……。
でもメアのことだから、冬休み中に手を抜くような妥協は一切しないだろう、と当然の如く思考が最適化されていたので、メアに会えない冬休みの可能性を考慮すらしていなかった。
「いや、そうじゃなくてさ」
「――そっ」
食い気味に即答したメアは一瞬ジロっと僕を睨み、またノートPCに視線を戻す。……僕、なんか間違えたかな?
再度。訊いてみる。
「夏休みのときにみたいにまた泊まりがけでやるのか気になって」
僕がそう言うと、小気味よく一定のリズムを刻んでいたタイピングの音がぴたりと止まる。何やら挙動不審な様子でもじもじと俯いたメアは、横髪を耳にかけ、泳いだ瞳でチラチラとこちらに視線を送る。
「……泊まりに来て……欲しいの……?」
「あー、いや。そういう話じゃなくって」
「……んむぅぅぅ」
小動物が出す唸り声に近い低い声がへの字に結ばれたメアの口からもれてくる。なんでか機嫌を損ねてしまったみたいだが……これはこれで和むなあ。
というか……。二学期以降、この日は遅くまで実験に時間がかかるからだの、この日は朝早くから実験してレポートをギリギリまで練りたいからだの、研究絡みの理由により月一ぐらいの頻度でメアはちょくちょく泊まりに来るようになったので、大分慣れてしまった今となっては恥ずかしがるようなことは何もないはずなんだが。都合の良い宿泊先として使われているけれど、その分勉強も見てもらっているのでイーブンだ。
了承はしたものの、気づけば洗面台にはメアの歯ブラシやらクレンジングなどのスキンケアグッズ、風呂場にはメア用のシャンプー、コンディショナー、トリートメントの一式などが常備されている環境になり、もし友達が急に遊びに来ることになったら説明するのに少々困る状況にならないかが気がかりではある。
それはさておき……。さっきから会話が若干噛み合わない気がするので、これ以上メアが自爆しないうちに本題に入ろう。
「友達に冬休みに息抜きがてらクリパも兼ねてキャンプに行こうって誘われてさ、クリスマスに勉強会やるかは分かんないけど、予定が埋まりそうだから先に言っておこうかと思って。――ってか、そもそも行っても大丈夫?」
「クリスマス……」と呟いたメアは少し考える間を置き、心配そうな顔つきで僕を見る。
「私に止める権利もないし行くのはいいんだけど……それで勉強が疎かにならないよね? キャンプに行ったらその分もっと頑張れる?」
口にはしないが遊んでいられるほど余裕があるのかと言いたいのだろう。成績が崖っぷちなだけにそこを突かれると正直痛いけども……。
「ガ、ガンバルヨ」
メアがジト目でこっちを睨む。
「なんで片言なの?」
思わずメアから目を逸らす。
困ったな。メアはリアリストだから納得させるには何か相応の公約でもないとダメか……。
「じゃあこうしよう。二学期の成績が目標に定めたGPA【3.2】以上だったらキャンプに行く。それ未満だったら行かないでその時間を勉強に充てる。――これなら問題ないだろ?」
「んー……」
メアは顎に手を当て考える仕草を数秒してから、首を傾げながら口を開く。
「そこまで言うなら……特に言うことはないかなあ?」
「よし、じゃあ決まり」
拳を握り意気込む僕を見て。メアは真剣な表情で言う。
「そうと決まったからにはみっちりみっちみっちにやるから覚悟してよね」
「もち。どんとこい」
胸を張ってメアに笑いかけると、彼女も頬を緩め笑みを返してくれるが……笑顔の裏に何やら背中がゾクゾクとするSっ気めいた企みの気配を感じなくもない。
まあたぶん気のせいだろうと流し、条件付きだがなんとか約束を取り付けられたことを良しとしよう、とこのときはそう思った僕だったが……。この日以降、メアは宣言通りに『みっちみっちにしてやんよ♪』とこれまで以上に切り詰めた厳しい秒刻みの時間管理で僕は勉強漬けにされ、身も心も芯まで扱かれるのであった。
来たる十二月の第一月曜日。――中期期末初日。
六時のアラームで起床して洗面台の鏡の前に立った僕は、洗顔後の両頬にパチンと一発気合いを入れる。
「――よしっ」
……散々だった前回の前期期末とは違う。今回はメアから教わった各科目の出題傾向をもとに対策を練って十分に仕上げてきた。……やれるだけのことはやった。あとはテストに臨むのみ。
朝食の準備をしようとリビングに戻ったタイミングで、ベッドの枕元に置いてあったスマホから、ピコン、とチェチャの通知音が鳴る。スマホを取って画面を見ると、メアから『起きてる?』とメッセージが来ていた。
「起きてるよ――っと」
返事を送ると、すぐにピコン、ピコン、と二連投で『おはよう』のスタンプに続いて『ファイト!』と書いてある猫キャラのスタンプが送られてくる。……嬉しくて自然とニヤけてしまう。
「メアも――っと」
そう返し、同じ猫キャラの『ファイト!』のスタンプを送り返すと、すぐにまたピコンと通知音が鳴る。寝転んでゴロゴロと喉を鳴らす猫キャラのスタンプが送られてきたのを見て、少し気負い過ぎていた重圧がいい感じに解れる。
通学中に特にトラブルに見舞われることもなく、一限目のテストが行われるエーテル基礎学の階段教室に一番乗りで着き指定された席に座る。テスト開始時刻の九時までの小一時間ほどをお復習いするために費やした。
――集中するあまり気づけば教室内はほぼ満席で周りががやがやと騒がしくなり、いつの間にか教壇には試験官の男性教員が立っていた。開始時刻五分前になり表に注意事項が書かれたA4の問題冊子(三ページほど)とマークシートが配られる。
九時になり試験官の「それでは始めてください」の合図とともに自分も含め皆一斉にプリントを捲る音で教室内が溢れかえる。メアからもらった誕生日プレゼントのペンを片手に問題に取り掛かる。
第一問……二十~三十代の成人が正常とされる範囲のマナ保有量の下限はいくつか――Cの百二十四MSP以上。第二問……死後、体内からマナがリダクションされるまでに要する時間は約○○である――Bの十分~十五分。第三問……人の流れがマナの流れを作る効果を何というか――Dのマイナミクスフロウ効果。第四問……――
――空欄を全て埋め尽くし何度も見直しをしている間に一限目終了のチャイムが鳴る。
「はい、そこまでー」と試験官の掛け声とともに鉛筆を置く。
「ふぅぅー……」
張り詰めていた緊張が解け息がもれる。
やりきった……。三ページ以降の化学反応式の計算に苦戦したけど全問埋められたし前回より手応えはあったはずだ。
列ごとに立ち上がり問題用紙とマークシートを教壇で待つ試験官に手渡して順次教室を出て行く。自分もそれに倣って教室を出て、次のテスト場所である初級エーテルマテリアル概論の教室へと向かった。
――それから怒濤の一週間が続いた。寝ても覚めても気が休まらない状態が続いたが、最終日を無事に終えなんとか中期期末を乗り切った途端、緊張の糸が切れてしまい即刻帰宅して死んだように眠りに就いた。
――翌週の金曜日。
全ての科目のテスト結果が出てウェブ上で通達されると同時に、今期の成績通知表を受け取った。その紙を見て……ある程度予想はしていたが早々にリュックに入れ、いつものようにポロでメアと合流するためエーテル学部第一ラボの大講堂から昇降口に向かう道を行く最中……前方に群がる人だかりを見つける。
昇降口に面した廊下の片側壁面に科目ごとの成績点上位者一位から三位までの名前が点数順にズラッと貼り出されているのを見て、自分も一喜一憂する周りの群れに加わり足を止める。
他のカレッジではあまり見かけないが、おそらくクリスティアでは学生間の競争心を高める一環で学期終了時に学部ごとに成績優秀者の名前をこうして貼り出しているのだ。
壁面一面を覆う貼り紙を隅から順に見ていく。
――エーテル最上級学、第一位メア・ハーヴィッツ、百点。エーテルダイナミクス概論、第一位メア・ハーヴィッツ、百点。マナエネルギー環境科学、第一位メア・ハーヴィッツ、百点。上級医工学概論、第一位メア・ハーヴィッツ、百点。上級エーテルマテリアル材料学、第一位メア・ハーヴィッツ、百点……etc.
……前期期末に引き続きメアの名前が散見している。しかもどれも精密機械のような正確さで百パーセントの満点であり、本当に同じ人間なのかと目を疑いたくなる。僕に勉強を教えつつも自分の勉強にも一切妥協しない彼女にはもはや脱帽するしかない。
ざわざわと騒ぐ周りの声に耳を立てる。
「今回も相変わらずフルスコアクイーンの一人勝ちね」
「そりゃそうでしょ? 一人だけ闘ってる世界が違うもん。比べるだけ無駄な話よ」
「こんだけ一人でトップを席巻してるの見ると返って清々しいものがあるな」
「まあ蓋を開けてみれば予想通り、中期も女王の満点凱旋パレードで終わったかあ」
「これで連続全科目満点記録八回目だぜ? どうかしてるぜ……」
……皆思うところは大体同じらしい。一年時からずっとこれを繰り返していると思うともはや尊敬を通り越して畏怖の念すらある。これほど勉強に人生を捧げられるほどの熱量を持った人を僕は嘗て見たことがない。きっとあらゆる我慢や犠牲を払わねばとてもじゃないがマネできない高みにいる。
まだまだ自分はその領域には達していないし、正直そこまで打ち込めるかも怪しいけれど……メア師匠をもっと見習わないとな。
引き続き成績優秀者の名前を見ていくと、ある科目で目が止まる。
――エーテル基礎学、第三位リックス・アスクレイ、九十四点。
……驚くべきことに僕の名前が載っている。他にも三位が数人いて同率順位ではあるが、前回は約三百人中、下から三番手以内の成績だったのにそれがまさかの逆転して上から三番手になれるなんて……僕にとっては大きな進歩だ。これもメアの助力あっての賜だな。感謝しないと。
着実に成果は出ていることを励みにポロに向かって歩き出す。




