【2-5】
翌日。八月四日。時刻は――たぶん午前六時前。
窓の外で鳥が囀る音が聞こえ意識が覚醒する。清々しい朝の目覚め。
同じ部屋でメアが寝ていると思うと緊張して絶対眠れない自信しかなかったが、慣れない共同生活や勉強に集中力を使い果たしたおかげで大分疲労困憊だったようで思いのほかぐっすり眠れてしまった。
こんなに心地よく起きられたのは久しぶりな気がして、いつもより軽い瞼を開けた途端、
「……ん?」
目の前に寝転ぶ難問に僕は頻りに目を瞬かせる。
「……んぅぅ……」
僕の視線のすぐ先にあるメアの寝顔から寝息がもれる。まるでキスをする五秒前のような無防備に蕩けきった素顔に、寝起きの目も冴え渡り視線を奪われる。
「…………っ」
目覚めて一番にメアの寝顔が飛び込んでくる早朝ドッキリなこの状況もさる事ながら、シーゼル先輩の前でメアとキスしたときの記憶が鮮明に甦り心拍数が暴走気味に駆け上がる。
「……うっ、んぅぅ~……」
「――ッ!?」
メアが寝苦しそうに薄手の掛け布団の上で身を捩り仰向けに寝返る様子に全身がビクつく。
ひとまず。隣で眠るメアを起こさないように静かに身を起こし居場所を確認する。
「…………」
間違いなく自分が敷いた布団の上だ。一旦安堵するものの、だからこそ余計に一体全体何がどうなってメアが隣で寝ている状況になったのか推測不能だ。寝ぼけてこっちの布団に紛れ込んだのか、はたまた僕が寝ている間にこっそり忍び込んだのか定かじゃないが、それよりもどちらにせよ『このままメアが目を覚ましたら非常にややこしい事態になるのでは?』と気が気じゃなくなり事態の収拾に打って出る。
こっちの気も知れず両腕を八の字にバンザイさせ堂々とおへそを出してすやすやと眠るメア。その隙だらけの体に触れるのはそれなりの躊躇があったが、お姫様抱っこの形で抱き上げる。
「――んしょっと」
意識がない人の体を運ぶのはとても重いというが、それを踏まえてもメアの体は想像よりも軽かった。そのままベッドまで運び上にそっと寝かせる。
「むふぅぅ……」
呑気にむにゃむにゃ寝言を言うメアを見て、「ふぅ……」と溜め息混じりに額を腕で拭う。
無事に緊急事態を回避できたことだし、さっさと顔を洗って朝の準備を済ませてしまおう。
――三十分後。枕の脇で充電ケーブルに繋がったスマホのけたたましいアラームが鳴ってメアが目を覚ます。もぞもぞとアラームを止め、
「ふぁぁ……」
体を起こし欠伸を手で抑えながら背伸びをする。
食卓に着き既に洗顔と歯磨きを済ませて部屋着に着替えた僕が、
「おはよう」
と声をかけると、こっちに振り向いたメアは視線を気にして少しはにかんだ様子でさっと姿勢とパジャマを正す。次いでかなり眠たげな様子のしょぼしょぼとした反応が返ってくる。
「おはよぉ……。先に起きてたんだ?」
「うん。ばっちり起きれた」
「私のが……お寝坊さんだったねぇ。――なにしてるの?」
「朝食にガレット作ってみたんだ。メアの分もあるよ」
「わぁー……ありがとぉ。食べる……。ふぁぁ……」またも欠伸が出て手で隠すメア。
「随分眠そうだね」
僕がそう言うと、メアは俯いて目の下を擦り返事をする。
「うーん。昨日あんまり寝付けなくって……」
「そ、そうなんだ……?」
必然的に今朝の布団に2《ツー》イン1《ワン》の出来事が脳裏に浮かぶ。寝付けなかったって……僕が寝た後で一体何してたんだろう……。
『昨日』という単語に引っ張られてその答えを思い出したメアは顎に手を当て首を傾げる。
「――あれ? そういえば、私昨日の夜……」
「……昨日の夜?」
途切れた言葉の続きが気になって固唾を呑んで訊き返す。
咄嗟に。眠気も吹っ飛び焦った様子でメアは首を横に振る。
「あっ、ううん、何でもない!」
「…………」
透けて見える訝しさにベッドに女の子座りしたメアをじっと見つめる。視線に気づいた彼女は恥ずかしげに俯き、両手を閉じた太腿の内側に挟み込んでもじもじと目を逸らす。――心なしか頬も赤く見える。
いや……これ絶対何かあるパターンのやつじゃん。これで何もないわけないだろ。
「あのさ――」
僕の隣で寝ていたわけを質問しかけて……ふと脳裏にルールの影がチラつき口ごもる。『もしも、今の心地よい関係が解消されたら……』と思うとチキンな心が今一歩を踏み出せず、表立って訊くには訊けないもどかしさが募る。
「な、何かあったの?」
さりげなく訊いてはみるが、メアは何事もなかったかの態度で、
「ううん。大したことじゃないから。――さっ、私も着替えて準備しよっと」
ベッドから降りた足ですたすたと部屋の隅に向かい、置いてあったキャリーバッグの取っ手に手をかけ脱衣所まで押していく。
「ちょっメア、まだ話が――」
呼び止めに振り返ったメアは、その口元に悪戯な笑みを貼り付けて言う。
「――あっ、覗いちゃダメだからね」
「――ッ。~~~~っ」
額を抑え俯いて呻く僕の様子を見て、メアは満足そうに廊下の先の脱衣所に消えていった。
おそらく着替えだけじゃなく女性特有の朝の準備にしばらく時間がかかりそうだったので、仕方なくその間に昨日の残った食材で追加の品を作ることにした。
十五分~二十分ぐらいしてから。デニムシャツに足首丈のドット柄のプリーツスカートを着たメアが出てきて、ベーコンと半熟の目玉焼きを四角く包んだガレット、オートミール、ツナと玉ねぎを入れたオムレツ、キャロットラペが並んだ食卓に着く。
最初は隣でおいしそうに食べていたメアだったが、ふとした瞬間に思い詰めた表情に変わり手が止まる。庶民の味がお嬢様にはお気に召さなかったのかと不安になりメアの顔色を見て尋ねる。
「ごめん。口に合わなかった?」
メアは驚いた様子で返す。
「え? ううん、そんなことないよ」
「そう? なんか微妙そうな顔してたから」
メアは苦笑いを浮かべる。
「あー……うん。そうじゃなくって……」
「?」
「その……」
逡巡するかの間。僕に向けられたメアの視線がちらちらと泳ぐ。
「リックスって……普段自炊するの?」
「毎日じゃないけどしてるよ。やりくりしないと仕送りだけじゃきついし」
「確かに大変そう。こっちに来る前から元々料理してたの?」
「まあそれなりには。うちは母親がいない分家事は当番制で自分で作るのが習慣だったから」
それを聞き愕然としたメアはぴくぴくと顔の片側半分を引き攣らせぎこちなく笑みを浮かべる。
「…………。もしかしなくてもリックスって私より料理できる?」
「なに? 藪から棒にどうしたの?」
「なんか……ちょっと自信なくなって」
「これくらい誰でも簡単に作れるよ」
正面を向き膝の上でぐっと握った拳に視線を落としてメアは暗く言う。
「なんていうか、それだけじゃなくて……。それに私が作ったら……大体焦げるもん」
「オムライスはあんなに綺麗にできたのに?」
「それはお母さんが作ってたの見てたから。マネするのは得意だけど一からやるのは無理」
いつもは自信ありげなメアが悄然として言う。
「料理なんてできなくても私の人生には何ら問題ないって思ってたのになあ……。なんかショック……」
妙に意味深なメアの物言いに僕もドキっとして他意があるのではないかと勘繰ってしまう。
「……問題あったの?」
「…………。少なくともリックスよりはできる自分になりたかったなって」
「なぜ僕をライバル視……?」
「それは、その……。なんていうか…………い、一番に……、ぅぅぅ~~っ」
主人に反旗を翻した二の句が口に立てこもって出てこず、悶々《もんもん》と唇を噛み締めていたメアだったが、やがて、きっぱりと断言する。
「――一番! ぎゃふんと言わせたいから!」
「なんだと!? やるな貴様……! ぎゃふん!」
「空気読んで」
「あ、はい」
空気って難しい。読んだつもりで言ったのに。
真っ直ぐどこか遠くに視線を移してメアは感慨深く浸る。
「私、これまでほとんど勉強ばっかりだったから。テストで良い点取ったらお母さんとお父さんが褒めてくれるのが嬉しくて、両親を喜ばせたい一心で他の道もある中で勉強一つに絞って努力し続けて……その延長線上にいるのが今の私で……成果も出してきたし、そのことを後悔したことなんてこれまでなかったんだけど……」
こっちに振り向いたメアは自虐的に笑って悔しそうに零す。
「きっと今からじゃリックスより料理上手になるのは難しいんだろうなあ」
一つを極めんとするメアの努力家な一面が垣間見えた反面で、どこか後の祭りみたいなニュアンスを言葉の端々から感じ取れた。
「諦めるにはまだ早いんじゃない? 今日からだって練習すればいいじゃん」
「うん……。けど、早期卒業を目指すにはその時間すら惜しいと思っている自分もいるんだよね。優先順位で言えば、それが私にとっての一番でそれは変わらないから」
「…………」
僕にはマネできないストイックで息苦しい生き様。実際にある程度試してみなきゃそれが自分に向いてるかどうかなんて分からないのに、それさえも惜しいと感じるほど彼女は早期卒業にかける時間に心血を注いでいる。……もしや、毎回似たような服を着回して通学していたのも服を選ぶ時間すらもったいないとでも考えてのことなのかな?
「なら早期卒業ができたら次の目標を料理を頑張ることにシフトすればいいんじゃない?」
メアなら早期卒業できるだけの実力はあるだろうしそれからでも遅くはないんじゃないかと思っての助言だったのだが、
「そう、だね……」
瞼を若干下げ侘しげな眼をしたメアは頷く。……まあ、横から口で言うのは容易いけれど簡単なことではない。早期卒業する上での本人にしか分からない苦悩やしがらみもあるのだろう。
空気を重たくしてしまったのを自ら払拭するかのような笑顔を取り繕い、メアはハツラツと声にする。
「――うん、そうしてみる」
それ以降はいつも通りに明るく振る舞うメアと歓談をしながら朝食を取った。
その日の夜。昨日と同様のスケジュールをやり遂げ就寝時間を迎えたので寝る準備に入る。
消灯しお互いにベッドと布団に潜って――どれくらい経っただろうか。お互いに背を向け合う最中、様子が気になってベッドの方をチラっと窺う。肝心のメアは僅かに聞こえてくる寝息からするにもう眠ってしまったのだろう。
「…………」
今朝の布団に2《ツー》イン1《ワン》の出来事を思い返し眠れずにいた。朝のメアはなんか怪しかったし、もしかしたら今宵も布団に……と思ったらメアより先には眠れなかったが、どうやら取り越し苦労だったみたいだ。
次第に僕にも睡魔が押し寄せてきて、眠りに落ちていった。
不意に。物音がして薄らと目が覚める。
何かと思えば、直後に脱衣所の方からドアの開け閉めとともに水を流した音が聞こえてくる。――おそらく、トイレにいきたくなってメアが目覚めたのだろう。
なんだトイレか、と気にせずまた眠りにつこうと目を閉じる。のそのそと重い足取りで歩くメアの足音が背後あたりに近づいてきてベッドに戻る――のかと思いきや……。バサっと僕が寝ている布団の隣に倒れ込んだ。
「ちょ――?! メア?」
慌ててメアの方を振り返るが、
「……すー……すー……」
うつ伏せに布団に倒れ込んだまま反応はなく……既に寝息を立てていた。その安心しきった寝顔を数秒ほど眺め、溜め息を一つ吐く。
「はぁ……。これが真相か……」
甘酸っぱい方を期待していた僕としてはがっくりとうなだれるしかない。
今朝と同様に熟睡しているメアをお姫様抱っこしてベッドに寝かせ、まだ残る眠気からすぐにまた布団を被り、眠りに就いた。
――五日後。八月九日。合宿最終日。
合宿が始まって三日目以降、僕の体も受験勉強していた頃の追い込み時の感覚を取り戻したようで、一日十一時間の猛勉強サイクルにも順応し疲労感も薄れていった。
一人だったらハード過ぎて途中で挫折していただろうがメアの監視の目が隙なく光り怠けている暇なんて一秒たりともないに等しかった。メアはメアで自身の課題に精を出し励んでいたが、目の前で黙々と頑張っているメアの存在がとても大きく、自分も頑張らねば、と何度も助けられた。
他にも休憩の合間に僕の洗濯を手伝ってくれたり、買い出しに付き添ってくれたり等、まるで同棲したてのカップルみたいな役得もあったが、そんな楽しくも過酷だった合宿生活も今日の午後六時には終了だ。
午前のタスクを終えた僕らは茹でたパスタに各自好みのレトルトソースを和えただけの簡素な昼食を済ませ、リビングのカーペットに隣り合って座り食後の歓談に花を咲かす。
今日のメアは、ロゴ入りのタンクトップとミニスカートによる上下白のコーディネートに、水色で長袖のストライプシャツを上に羽織った露出の多い格好で目のやり場に少し困る。
なのに。自分が推しているガールズバンドの新曲をうきうきと熱弁するもんだから視線を逸らそうにも逸らせず、なぜか僕の方が照れながらも相槌を打つ羽目に。
それでも。例え長時間勉強で拘束されようともメアと勉強以外のことを話せるこの一時が良い案配に疲れを癒やしてくれる。メアもおそらく気を遣ってくれて休憩中は勉強に関する話題は口にしない。しかしながらそんな貴重な時間も今日でお開きかと思うと名残惜しい。
そう思った矢先。顔色に出ていたのか、浮かない表情から機微を汲み取ったかのようにメアのまっすぐな瞳が僕を捉える。
「そういえば――前に八月生まれって言ってたよね? 誕生日いつなの?」
一瞬、答えるか迷う。余計な気を遣わせたくなくて黙っていたが、訊かれてまで隠すほどのことかと言われればそれも違う。
「えっと……。いつって言われると……一応、明日友達二人からお祝いしてもらう予定なんだけど」
クリスティアで一番の友人であるダグとアーシュの二人がお祝いにご馳走してくれると言うので、明日は昼過ぎから三人でおいしいと評判のカフェにスイーツを食べに行く予定だ。
メアが驚きの声を上げる。
「え!? 明日誕生日なの?」
言い出しづらくて後頭部を掻く。
「正確には今日なんだけどね」
「うそ!? 今日なの!?」
メアは『あ』の発音をする形に口を開けたまま、二度三度瞬きを繰り返す。
「うん。合宿の予定が先に入ってたからお祝いしてもらうのは明日にしてもらったんだ」
それを聞いてメアは少し沈んだ表情を浮かべつつ、
「そうだったんだ……。ごめんね、せっかくの誕生日に予定埋めちゃって……」
仲間ハズレに遭ったかのような疎外感を口振りに乗せる。
「ひとまずおめでとう。――でも言ってくれれば私だってお祝いしたのに」
そう言ってもらえるのは素直に嬉しい。――けれど悲喜交々に複雑に絡まった感情を抱えたままではせっかくお祝いしてくれた相手に対し失礼だと思ってしまう自分もいる。
「まあ、なんていうか……。僕だけ楽しい気分になるのが嫌でさ」
「? どういう意味?」
当然。メアは訳が分からないといった表情で訊き返す。
「あー、いや気にしないで。気持ちは嬉しいけど、元々今日はやらなきゃいけない用事があるから合宿が終わったら一人で過ごすつもりなんだ」
残念がるメアは仄かな罪悪感を含んだ声で、
「そっか……。何かと忙しいんだね」
仕方なさそうにそう言うが、めげずににこりと付け加える。
「それじゃ別日ならどう? どこか予定が合う日にちょっとしたパーティーでもしようよ?」
「パーティーかぁ……」
メアが勉強以外で誘ってくれるのが意外だったので正直胸が躍った。そそられる提案ではあったが……感謝の気持ちが重荷となり、気が引ける割合の方が大きい。
「ありがたいけど……もう十分良くしてもらってるからこれ以上何かしてもらうのは申し訳ないよ。尊敬してる先輩に合宿までして勉強を教えてもらえるんだから、僕にとってはこの瞬間が正にお祝いみたいなもんかな」
もう十分に感謝している。その気持ちを改めて告げる。
「ここまで良くしてくれてホント助かってる。だからメアからのお祝いはもうもらったよ」
メアはなにやら羨望とも哀感とも取れる秘めた眼差しを僕に向けるが、やがて、僅かに口角を上げ微笑む。
「リックスって欲がないよね。もう少しワガママに生きてもバチは当たらないと思うけどな」
「そうかな? 逆にこれ以上待遇の良いご褒美なんてそうそうないと思うけどな」
クスッと、メアは可笑しそうに吹き出す。
「確かに。ご褒美かどうかは置いといて、普通に考えればこんなことってあり得ないよね」
「だろ?」笑って返す。
溢れ出す取り留めのない会話に残りの昼休憩が埋め尽くされて終わる。残るは半日。丸テーブルに勉強用具を広げ向かい合って座った僕らは、ラストスパートをかけ最終課題に取りかかる。
――午後六時。合宿終了のアラームが鳴り響く。
「よっしゃああ、おわったあああ」
万々歳で両拳を突き上げ雄叫びを上げる。天を仰ぎ達成感に浸る僕を賞賛する拍手の音が丸テーブルの向こう側から聞こえてくる。
「お疲れ様。ギリギリだったけどスケジュール通りになんとか夏休みの課題も達成できて良かったよ。――おめでと」
「ありがと。それもこれもメアのおかげだよ」
メアは照れ笑いを浮かべ頬を掻く。
「へへ。なんか照れるな」
つられて僕も笑みを零す。この合宿中に夏休み二ヶ月分の勉強を濃縮してやりきった気がしてもうここしばらくは勉強のことなど考えたくもない。
「それじゃあ邪魔にならないうちに帰る準備しないと」
感動もそこそこに。それから数分でメアはきびきびと帰り支度を済ませた。玄関で手早くサンダルを履く彼女の様子に後ろから声をかける。
「やっぱり駅まで送ってこうか?」
「ううん、大丈夫。それにちょっと寄りたいところもあるし」
「どこか行くの?」
振り返ったメアは頬を掻きながら困り笑顔を浮かべる。
「んー……クリスティアにちょっとね」
「こんな時間から?」
不思議に思って尋ねると、
「こう見えて早期卒業するにあたって何かと忙しい身なんです」
メアはキリっと表情を引き締めて答える。
せめてマンションの下までは、とメアのキャリーバッグを持ち一階の入り口の外まで見送る。僕からバッグを受け取ったメアはさっぱりとしたもので、また近いうちに会えるとでもいう調子の晴れ晴れとした笑みを見せる。
「次の勉強会の候補日が決まったらまた連絡するね」
「分かった。それじゃあまた」
手を振る僕に、振り返すメア。
「うん、またね」
急ぎ足の後ろ姿が表通りに通じる曲がり角に消えるまで見送る。
「ふぅぅ……」
ようやく一人になれた開放感と、途端に襲ってくる『終わってしまった』という空虚感に似た寂しさが混ざり合い、溜め息となってもれる。
……これで合宿も終了かと思うと感慨深い。ハードスケジュールながらもこんなにも充実した一週間は初めての経験で、なんだかんだ言って楽しかったな。次の勉強会が待ち遠しい。
「これもメアのおかげ、か……」
勉強と向き合うのが嫌になりかけていた自分が前向きな姿勢になっているのに気づく。幾分肩の重荷が下り、踵を返した僕は軽い足取りで部屋に戻る。




