✦ 6話 ふたりの距離 ✦
机の上にはノートと教科書が広がっていた
「どこが分からないの?」
「えっと……ここ」
紬は教科書を覗き込み、軽く指でなぞる
「だから、ここの分数はこうやって――」
説明が続く
陽向はペンを持ったまま、ノートを見つめていた
けれど、頭の中がうまくつながらない
「……わかんない」
小さくこぼれる
紬が少しだけため息をつく
「さっきもやったでしょ」
「でも……」
言葉が続かない
少し間があく
「……難しい」
声が少しだけ震える
(悔しくて)
ぽつり、とノートに小さな水滴が落ちた
紬は一瞬だけ目を止める
「……もう」
困ったように小さく息をついた
そのとき、台所から沙織が顔を出す
「あら、どうしたの?」
「ちょっと詰まってるだけ。大丈夫」
紬は軽く答える
沙織はくすっと笑った
「じゃあ、紬先生に任せるわね」
そう言って戻っていく
紬は少しだけ椅子を近づけた
「ほら」
軽く肩に触れる
「そんなに一気にやろうとしなくていいから」
陽向は目をこすりながら、小さくうなずく
「……うん」
少しだけ沈黙。
「……紬」
「なに?」
「ちょっとだけ……」
言いかけて、止まる
紬は少しだけ表情をやわらげた
「なに、言って」
「……そばにいて」
小さな声
紬は短く息を吐く
「いるよ」
軽く頭に触れる
「ほら、続き」
陽向のペンが、ゆっくり動き出した
紬はその様子を横で見ながら言う
「できたらさ、少し休憩しよ」
「……うん」
「そのとき、好きなジュースでも飲もうか」
陽向はほんの少しだけ表情をゆるめた
(その顔が見られたなら、今日はもう十分)




