✦ 4話 うまく甘えられない ✦
玄関のドアが開く
「ただいま」
紬の声が家の中に響く。
台所から母・沙織の声が返ってきた
「おかえり。どうだった?」
紬は靴を脱ぎながら、少し楽しそうに言う
「先生にね、『お母様ですか?』って聞かれた」
横で陽向は、気まずそうにうつむいている
紬はくすっと笑った
「ちゃんと『はい』って答えといた」
「えっ」
沙織は思わず吹き出す
「本気でお母さんだと思ってたのね」
「みたい。普通に話もしてきたし、進路の相談までしちゃった」
「すごいじゃない、紬」
安心したような声
紬は少し表情を引き締める
「でもね」
ちらりと陽向を見る
「成績、けっこう厳しいみたい」
「……っ」
陽向は目をそらす
「先生にね、『家で見てあげてください』って言われて」
沙織は小さく笑った
「それで?」
紬は軽く肩をすくめる
「引き受けてきちゃった。……つい、ね」
「まあ」
沙織は楽しそうに笑う
「頼もしいわね」
紬は少しだけ黙る
(……お母さん役、か)
隣の陽向を見る
不安そうで、でもどこかこちらを気にしている
(今日、何回もこっち見てたな)
胸の奥が、じんわりあたたかくなる
紬は小さく息を吐いて、いつもの調子に戻る
「ねえ、お母さん」
「なあに?」
「しばらく、私が陽向のこと見るね」
陽向が顔を上げる
「え……?」
(胸が少しだけ軽くなった)
(でも、素直になれない)
「自分で勉強やるし……」
紬は軽く笑った。
「できてないんだから、ちゃんとやらないとダメでしょ」
沙織はふっと表情を緩める。
「そうね。お願いしようかしら」
それから陽向を見る。
「ちゃんと教えてもらいなさい」
紬は満足そうにうなずく。
「任せて、ちゃんと見るから」
そして、陽向の肩を軽く叩いた。
「ほら」
少しだけ顔を覗き込む。
「勉強、やるよ」
陽向は小さく息をのむ。
「……うん」
紬はその様子を見て、ふっと笑った。




