✦ 3話 手の温度 ✦
夕方の光の中、学校を出て、二人で並んで歩く
しばらくして、紬がくすっと笑った
「ねえ、陽向」
「ん?」
「学校でさ、『お母さんが背が高くて頭がいい』って自慢してるんだって?」
陽向は顔を赤くして、視線を泳がせた
「……うん」
紬は腕を組んで、少し得意げに言う
「それ、私のことじゃない?」
「え?」
「だって、お母さんより私のほうが背高いし」
満足そうに笑って、陽向の頭をぽんと叩く
「ありがとね」
陽向はさらに赤くなり、うつむいた
「先生、私のこと『お母様』って呼んだよね」
「うん……言った」
「お母様、だって」
紬は楽しそうに笑う
「ちゃんとそう見えたんだ」
くるっと回って、借りたワンピースの裾をふわりと広げる
「これのおかげかな。それともお化粧?」
少しだけ考えてから、にやっとする
「……わたし、そんなに大人っぽい?」
陽向は小さくつぶやく
「……全部だと思う」
少しだけ間を置いて、
「背も高いし、しっかりしてるし」
「……きれいだし」
紬の表情がふっと緩んだ
「ふふ、いいこと言うじゃない」
紬はふいに立ち止まる
「……でもさ」
声のトーンが変わる
陽向をまっすぐ見た
「なんで成績のこと、言わなかったの?」
「……っ」
陽向は目をそらす
紬は腕を組む
「そういうの隠すの、よくないよ。」
少し迷ってから言う
「……心配するでしょ」
陽向は小さくうつむく
「ごめんなさい……」
(怒られたわけじゃないのに、胸がぎゅっとした)
紬はそれを見て、小さく息をついた
「……もう」
困ったように笑って、頭をなでる
「次からはちゃんと言うこと。いい?」
「……うん」
小さく頷く
「それにさ」
紬は少しだけ楽しそうに続ける
「先生、『お母様が教えてあげてください』って言ってたじゃない?」
にやっと笑う
「だから、これから私が教えるからね」
「えっ……」
「ちゃんとやるから。覚悟しといてね」
少しだけ強めの口調
でも、どこか楽しそうで
陽向は黙って視線を落とす
紬はその様子を見て、ふっと笑った
「あーあ、またそんな顔してる」
優しく頭を撫でる
「でも……嫌いじゃないよ」
(ほんと、放っておけない)
さっきより距離が少し近いまま、二人は歩き出した




