✦ 2話 “お母さん”のはじまり ✦
受付を済ませて、二人で教室に入った
陽向は自分の席に座り、紬は教室の後ろへ
他の保護者たちと並んで立つ
後ろに立ったとき、周りの保護者がちらりと視線を向けた
紬は母のワンピースを着ていた
もともと背が高く、姿勢もいい
大人たちの中にいても違和感はなかった
むしろ、少し目立つくらいだ
(……ほんとに来てくれたんだ)
陽向はそっと振り返る
紬と目が合う
小さく頷く紬
その瞬間、陽向の顔がぱっと明るくなる
思わず、にこにこしてしまう
紬は軽く眉をひそめて、前を指さした
——前を見なさい
陽向は慌てて向き直る
……けれど数分後
また振り返る
紬を見る
そしてまた、頬がゆるむ
(もう……)
紬は小さく息をついた
授業が終わり、帰り支度が始まったころ
「陽向君」
先生の声がした
「お母様……ですか?」
紬は一瞬だけ言葉を失う
胸の奥が、わずかにざわついた
「……はい」
その言葉が、自分でも驚くほど自然に出た
妹なのに。
“母”と呼ばれている
けれど、陽向がこちらを見る
その視線に、迷いは消えた
先生は少し真面目な顔になる
「実はですね……陽向君の成績が少し偏っていまして」
陽向は視線をそらす
「国語と数学が、少し厳しい状態です」
紬は驚いたが、すぐに表情を引き締めた
(……最近、元気なかったし)
先生は続ける
「でも、陽向君、よく自慢するんですよ」
「自慢?」
「ええ。『うちのお母さんは背が高くて頭がいいんだ』って」
紬は息を飲んだ
「……そうなんですか」
陽向は恥ずかしそうにうつむいた
紬は小さく咳払いをして、姿勢を正す
「……わかりました。私が教えます」
先生は安心したように頷いた
「ありがとうございます」
紬は陽向の頭を軽く押す
「ほら、陽向」
小さな声で言う
「頭下げなさい」
陽向は慌てて頭を下げた
「……ありがとうございます」
紬は小さくうなずく
「うん。ちゃんと言えたね」
そのまま少しだけ視線を落とす
胸の奥が、じんわりとあたたかい
2話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
少しずつ変わっていく二人の時間を、これからも大切に描いていければと思っています。
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次回もまた、二人の温かい日常を覗きに来てください。




