✦ 23話 卒業 ✦
さらに数年後
春の朝
校庭の桜が、ほんのりと咲き始めている
陽向の卒業式の日
体育館の椅子に、卒業生たちが並ぶ
陽向もその中に座っていた
少し緊張している。でも、どこか誇らしげだった
ふと後ろを見る
保護者席に、紬が立っている
本来なら、母がいるはずの場所
けれどそこにいるのは、紬だった
落ち着いたスーツ姿で、周囲の大人たちの中に自然に溶け込みながら、
まっすぐに陽向を見つめている
陽向は小さく笑った
(紬お母さん……)
名前が呼ばれる
立ち上がり、前へ進む
胸を張って、証書を受け取る
拍手の音が、胸に響いた
拍手の中で、もう一度だけ振り返る
紬は、小さくうなずいた
――それだけで、十分だった
式が終わり、人の流れがほどけていく
校舎の外
春の光の中で、紬が待っていた
目が合う
自然と、笑顔になる
「おめでとう」
「……ありがとう」
少し照れくさくて、短い言葉になる
「どうだった?」
「ちょっと緊張した」
「顔見てたらわかるよ」
ふっと笑い合う
二人は並んで歩き出す
風が吹いて、桜の花びらが舞う
「紬お母さん」
「なに?」
陽向が立ち止まる
「ありがとう」
それだけを、まっすぐに言った
少しだけ間を置いて、続ける
「……ここまで来れたの、紬お母さんのおかげ」
紬は静かに首を振る
そして、そっと手を伸ばす
陽向の頭に触れる
「違うよ」
やわらかな声
「陽向が、歩いてきたんでしょ」
分かれ道に差し掛かる
昔、何度も通った場所
陽向は少しだけ笑った
「紬お母さん」
「なに?」
手を差し出す
「……手、つなごう」
紬はほんの少しだけ目を細めて、
「今日は特別ね」
その手を取る
もう子どもの手ではない
けれど、その温もりは変わらない
二人は、並んで歩き出す
春の光の中へ
桜の花びらが、静かに舞い落ちる
その間を、すり抜けるように
(終)




